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【本】『オオカミ県』(多和田葉子、溝上幾久子/論創社)

こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。

今日ご紹介するのは、多和田葉子(文)、溝上幾久子(絵)の絵本『オオカミ県』です。

多和田葉子さんといえば、『献灯使』や『雪の練習生』などが有名なドイツ在住の作家で詩人です。
コロナ前は必ず11月に日本に来られて、両国にあるシアターχにて、音楽家の高瀬アキさんと朗読パフォーマンスなどをなさっていて、わたしはそれを聴きに行くのがとても楽しみでした。

そんな多和田さんの新作と聞いて慌てて手に入れました。
そうしたら、意外にも絵本でした! 

帯に「10代から大人まで楽しめます」とあります。

わたしはつい文字ばかり追ってしまう傾向があるのですが、
絵本になっていると文字で得る以外の情景も思い浮かべられていいなと思いました。

現代日本を風刺する物語でした。オオカミ県で育った「俺」が、自称「兎」たちの住む都会へ行く話です。

オオカミは人を襲う凶暴な動物だと
思い込んでいる人がいるようだが、
それは違う。
オオカミが人を襲うことなどありえない。
人に襲われた時に抵抗するだけだ。

とくに風刺の場合、わりと、つい誰かを責めてしまうとか、問題をぎゅうぎゅう絞り込んでゆくなど、気持ちが熱く鋭くなってゆくものです。
でも、ものすごく大きく複雑になった「問題」というものは、単純に自分以外の誰かのせいにしたり、問題を追及して一時的に視界を狭めていったりする程度では、決して解決できない、最近は特にそんな風に思います。

だからこそ、『オオカミ県』の物語は重く厳しいですが、読者である私たちの側も瞬間的に熱くなって、すぐにすっかり忘れる、のではなくて、ゆっくりと付き合わなければならない。そんなことを、単純には解読できないような魅力的な絵を味わいながら考えました。

■本日の一冊:『オオカミ県』(多和田葉子、溝上幾久子/論創社)

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