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【読書会報告】梶井基次郎『檸檬』読書会

こんにちは、『猫の泉 読書会』主宰の「みわみわ」です。

猫の泉 読書会では、梶井基次郎『檸檬』のオンライン読書会を2021年12月5日(日)に総勢6名で行いました。今日は、そのご報告をします。

●梶井基次郎『檸檬』とは

 「えたいの知れない不吉な塊」にしじゅう心をおさえつけられている「私」が京都の街をさまよった挙句に八百屋で買った檸檬を丸善に置いてくる話です。
「私」の心のうちを描いていますが、この「私」は、主人公らしく決断することはなく、あれやこれや思い浮かべながら、ふわふわと京都の街を「浮浪」します。
短編なのですぐ読めて、繰り返し読めて、読めば読むほど奇妙な感じが強くなってゆくのです…。

以下、読書会で特に話題になった事柄を。

〇感覚的な表現が多い

『檸檬』の描写は、視覚的、絵画的で、とりわけ色に関する記述が多いです。
このことから、心理学者ユングの人格分類(感覚型・感情型・思考型・直感型)に基き、主人公は「感覚型」であること、そして論理や判断があまりされていないという指摘がありました。
そうですね、わたしもこの主人公は外界の刺激に流されてふらふらしている感じを受けました。

また、NLP(神経言語プログラミング)の考え方を使って、『檸檬』の梶井基次郎の表現の傾向を文章から読み取った方もいました。

NLPのことをわたしは全然知らなかったので、ざっくり調べました。

・人は五感(神経)『視覚、聴覚、体感覚、味覚、臭覚』をつかって、出来事を記憶してゆく。(ただし五感の使い方は人それぞれ→個人ごとに偏りがある)

・蓄積された記憶に従って、それぞれの人の考え方の癖や行動がパターン化(これをNLPではプログラミングと読んでいる)されてしまう。その影響は、良い事ばかりとは限らない。

・悪影響とされる行動のパターン化(プログラミング)されてきた構造を言語学と心理学を使って分析し、人の思考パターンや行動パターンを望ましい方向へ変えようとするのがNLPのようです。比較的新しい学問です。

NLPを使った発表をした方によると、梶井基次郎の『檸檬』で使われた言葉は、触運動感覚的表現が圧倒的に多く、とくに触覚がらみの表現が多いそうです。

触運動感覚」とは、視覚が伴わなくても自分の身体各部の位置、動き、運動方向を知ることができる運動感覚と、手指の皮膚に何かが接触することによって生じる皮膚感覚が合わさったもので、触れたものの形の情報を得られるのが、触運動感覚です。
パソコンキーボードをブラインドタッチするとか、ピアノの鍵盤を見ないでも、黒鍵を触っていれば弾けるような感じですね。

〇結局、どういう話なのか?

『檸檬』小説家が小説を書くことを題材にしたメタフィクションで、丸善でのことは創作行為のメタファーだと言う解釈がありました。だから「私」は書けなくて苦しんでおり、その過程を描いており、そして檸檬は芸術を示しているそうです。とても面白いと思いました。

また、丸善へ檸檬を置いて、妄想上の爆発を起こしたことで、現実の京都とちょっとだけ和解したという解釈もありました。

この結末に納得がいかず、主人公は妄想の殻を破るべきだったとして、実験小説風の結末を考えた方もいました。

〇檸檬について

 檸檬は、自然のままで、近代化に侵されていない生命力を意味しているという意見がありました。
 それから、檸檬に限りませんが、外来語と和語の書き分けについての指摘もありました。対象と「私」との距離感が示されているように思いました。
 また、智恵子抄のレモン哀歌や、米津玄師のヒット曲lemonへの連想もありました。

〇「街の上」ってどういうこと?
 
・浮遊して自分を見下ろしているドッペルゲンガー説
・地面と足の裏がぴったりあう喜ばしい感覚の表現であるという説
・平面を移動する主人公が描かれている説
などがありました。
わたしも当初はドッペルゲンガー説だったのですが、読書会の後、梶井基次郎の他の作品『雪後』に「街の上で牛が仔を産んだ」というエピソードを見つけました。だから、普通に「街中」という意味で使っているのかな?と思いました。

〇「美的装束をして街を闊歩した詩人」とは誰だろう?

誰であっても内容には影響しない、などという人もいましたが、中原中也、ボードレール、ランボー、オスカー・ワイルドといった詩人の名が挙がりました。

〇その他話題になったこと

・「カーンと冴えかえっていた」檸檬ってどんな感じ?
・日本の小説を横書きの電子書籍で読むと文章がヘタクソに見える説
・梶井基次郎の風貌は、…柔道家みたい
・梶井基次郎=コンダクター(指揮者)説
・梶井基次郎の親友だった中谷孝雄のエッセイについて
・『檸檬』は青春ただなかの軽薄な悩み説:ドストエフスキーの『地下室の手記』もユーモラスだけど悩みはずっと深い
・「売柑者言」の社会批判
・画家アングルと梶井基次郎の似ているところ

〇まとめ

今回の読書会も、参加者全員がそれぞれの視点で解釈をしたことをしっかり事前にレジュメを作っていただいて、発表し共有できました。
2時間が飛ぶように過ぎていき、作品に対しての率直で活発な意見交換が行われて、とても楽しい読書会でした。

■本日の一冊:『檸檬』(梶井基次郎/新潮文庫)




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