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過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスを占う上で何の役にも立たない

多くの投資家の最大の間違い

多くの投資家が犯す最大の間違いは何だろうか。読者ならどういう間違いを思い浮かべるだろうか。例えばNISAブームにそそのかされて投資を始めることだろうか。

投資における最大の間違いは、これまで良いパフォーマンスを出している投資を割高だと考えずに良い投資だと思いこむことである。良いパフォーマンスを出しているということは、価格が上がっているということである。

恐らくそのデータの受け取り方は、素人とプロで違う点である。多くの人は、これまで価格が上がっているのだから良い投資なのだと考えるだろう。だが実際には、他の条件が同じならば、価格の上昇は資産としての魅力が下がったこと以外の何物でもない。



価格上昇の意味

多くの人々は1ドルのりんごが2ドルになれば割高になったと考えるが、1ドルの株式が2ドルになれば買いたいと思い始める。

この冗談には多くの真理が含まれている。投資家もスーパーで野菜や果物を買う人の心理で投資に向き合うべきなのである。投資とは同じものを安く買って高く売ることである。高いものを買っても良いことなどない。

1ドルのものが2ドルになったならば、他の条件が同じならば、それは単に割高になったのである。

だが多くの投資家はそのようには考えられない。



過去のパフォーマンスを持ち出してくる

世の中には2種類の人間がいる。相場を予測できる人間と、できない人間である。そして証券会社や銀行に居て、あなたに投資を奨めてくるのは、相場を予測できない人間である。

そして相場を予測できない人間が決まって持ち出してくるのが、投資対象の過去のパフォーマンスである。

株価はコロナ以後4年も上がり続けているから来年も上がり、米国株は40年上がり続けているからもう40年上がり続け、隣の田中さんはこれまで80年生きたから更に80年生きるというわけである。

まともな投資家であれば、誰でもこんな理屈では相場は予想できないことを知っている。過去のトレンドがいつもそのまま続くならば投資家は誰も苦労しない。そんなことを信じるのはそう信じたい理由のある人だけである。

例えばNVDAに投資をするように奨め、他の株式が上がったにもかかわらずNVDAだけ下がったならば、奨めた人間が非難される。一方でインデックス投資を奨めて株式市場全体が下がったとしても「地合が悪かった」で済まされるだろう。

しかし実際には個別株を奨めてもインデックスを奨めても、証券会社や銀行が株価の行方について、長期であれ短期であれ何も知らないという事実は何も変わらない。

「NVDAはこれからも目覚ましい成長を続ける」「S&P 500はこれからも上昇し続ける」「いや、これからは日本株が来るはずだ」これらの投資アイデアのうち、1つが安全で他が危険だということはない。根拠があれば正しい投資であり、根拠がなければすべて間違った投資である。そして過去のパフォーマンスはまったく根拠にならない。残念ながら田中さんが160年生きることはない。

どの適当なアドバイスでも顧客がギャンブルさせられることには何の代わりもないのだが、推奨する側は非難される度合いの少ないものを当然選ぶだろう。そして推奨されているものの中に、投資信託という薦める側が得をするものを混ぜておけば完璧である。

過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスを占う上で何の役にも立たないということである。過去のパフォーマンスを見て良い投資が見分けられるならば、誰でもファンドマネージャーである。だが資産運用はそれほど甘くない。

過去のパフォーマンスを押し出して素人に将来のパフォーマンスを夢想させるというのは、例えば銀行が何も知らない老人たちに投資信託(プロは決して買わないが素人は良く買う)を買わせるためによくやる手だが、だから彼らは老人しか騙せないので、こういう理屈で投資を薦めるのだろう。



自分が何をしているか理解していない

例えば機関投資家は単純に金融市場における豊富な知識と経験、そして才能において個人投資家を上回っている。

他の投資家から資産を預かって投資をするということは、一人の資産を運用するよりも運用額が膨大になるということであり、それだけ多くの予算をリサーチやトレーディングに割くことが出来るということである。

個人投資家にとっては、機関投資家を打ち負かすだけでも難題であるのに、彼らには更に多くの経験豊富なアナリストやトレーダーを雇い、ヘッジファンドというプロの集団として市場で戦っているのである。

個人投資家が一つの市場をリサーチしている間に、ヘッジファンドの優秀なアナリストチームは、十以上の市場について、個人投資家が一つの市場で行うよりもよほど深い考察を済ませてしまうだろう。

勝負になるはずがないのである。プロの投資家は皆それを知っているが、個人投資家がそれを実感として理解することは難しいかもしれない。

また、株式市場だけに気を配る株式投資家は、株式市場と債券市場、そして為替市場を網羅するプロの投資家に、株式市場においても後塵を拝していると言わなければならない。すべての市場は繋がっており、金利や為替レートなど、金融市場の様々な要素が株式市場に影響するからである。

相場で一番難しいことは、自分が何を知っていて、何を知らないのかを理解するということである。多くの個人投資家は、何も知らずに市場にやってきて、相場とは上がるか下がるかなのだから、勝率は悪くとも五分五分程度だろうと考える。しかしそうはならないのである。

何も知らない投資家が資金を賭ければ、買った途端に下がり、慌てて売れば、その瞬間に株価は目の前で上昇してゆく。これは別に、その投資家が誰かに監視されているわけではない。何も知らない投資家が買う瞬間が市場の天井なのであり、何も知らない投資家が売る瞬間が大底だというだけのことなのである。

あなたが投資の初心者であれば、周りの投資家はあなたが投資した会社についてあなたよりもよく知っているということを理解しなければならない。株価が大暴落しているとき、それが安いのかそうでないのかを知っていなければ、あなたは恐怖でただ株を売ることになるだろう。

一方でその価格が安いと知っている投資家は、あなたが投げ売りしているものを喜んで買うということになる。これが相場の構造である。


過去のパフォーマンスの意味するところ

それでは過去のパフォーマンスは投資をする上で何の意味もないのだろうか。過去の株価チャートを見ないのだろうか?

当然過去のチャートを見る。だが、それが将来のパフォーマンスを決めるとは思っていない。では何のために見るのか? その資産がどういう時に上がり、どういう時に下がるのかを調べるためである。

その資産は1970年代のインフレ・金利高騰時代には上がったのか、下がったのか? その後の1980年から2021年までのデフレ・金融緩和時代にはどう動いたのか?

戦争があればどういう資産が上がり、どういう資産が下がるのか? パンデミックが起これば資産価格はどのように動くのか?

それを調べるための資料が過去の価格チャートである。そして例えば、これからインフレ・高金利の時代が来るならば、デフレ・金融緩和で上がった銘柄ではなく、インフレ・高金利の時代に上がった銘柄を買うべきなのである。



結論

ということで、過去の価格チャートはその資産がどういう性質を持っているのかを調べるためのもので、今後のパフォーマンスが良いか悪いかとは何も関係がない。

投資において重要なのは、常に対戦相手がいるということである。あなたが金融市場で何かを買う時には、誰かがそれを売ろうとしているのだということを考えなければならない。

誰かがそれを売り、あなたがそれを買っている。あなたはそれが良いものだと思っているが、売っている方はそんなものは持ちたくないと考えている。どちらが正しいのか? 将来それが上がるか下がるかによって、どちらかが損をし、どちらかが得をするのである。

その勝負はどのように決まるのか。売買しているものが良いものなのか悪いものなのか、その中身をより良く知っている投資家が勝つのである。

だから投資について、自分の投資している銘柄についてしっかり勉強すべきである。そしてしっかり勉強する投資家になるためには、未来を予想するという投資の仕事が好きでなければならない。そうでなければ投資で長期的に利益を出すことはできない。

考えてみてもらいたいことがある。そうでない投資家、盲目的に何でも買ってくれる投資家がもし金融市場に居たとすれば、経験と知識のある他の投資家はどう思うだろうか。あなたが盲目的な投資家なら、あなたはそういう投資家から自分のよく知らない何かを買わされているのである。

ポーカーを始めて30分が過ぎても誰がカモか分からなければ、それはあなたがカモなのである。


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