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「へそで、嗅ぐ」スピンオフ

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記事一覧

スピンオフ「へそで、嗅ぐ」真利編

大学を卒業した後、海外の大学に入り直すか、国内でいったん就職するか。真利はずっと悩んでいる。真利が好きなのは、道端に生えている草や、自然の中にいる虫の生態だ。その美しさを目にすると、しばらく立ち止まってじっと見つめてしまう。子供のころは虫や草花を家に持ち帰って、それを見て絵を描いた。

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スピンオフ「へそで、嗅ぐ」菅編

子供の頃から植物が好きだった。大人になってもそれは変わらない。樹木医でもある菅は、会う人によく「植物を育ててみたいと思うんですけど・・・」と言われる。その「・・・」には「無理かもしれない」と言う、もしくは「過去に枯らしたことがある」と言う経験から来る不安が込められる。

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スピンオフ「へそで、嗅ぐ」隆子編

隆子は、年に1度、家族でいく旅が、大好きだった。数日前から始まる準備にワクワクして、いつも眠れなかった。今回訪れるのはここ、と教えてもらうと、隆子はその町について、図書館で借りた本で調べた。字を読むのがそもそも好きだったが、これから行こうとする場所について調べるのは一際面白かった。

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スピンオフ「へそで、嗅ぐ」巴田編

街を歩く少し恰幅の良いおばあちゃんをみると、とにかく声をかけたくなる願望が、巴田にはある。真っ赤な口紅をひいた唇にセブンスターをくわえ、髪の毛の色を白くなるまで抜いて「おばあちゃんが好きだ」と言うと、大抵の同級生にひかれた。ひいていく同級生の顔を見るのが楽しくて、巴田は何度も口にした。わたしは、おばあちゃんが好きだ・・・・。

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スピンオフ「へそで、嗅ぐ」原谷編

原谷について書こうとすると、ダークサイドに堕ちそうになる。なので今回は上澄だけ。原谷はいつも、心と体がバラバラの感覚を持っている。身体のやっていることに心がついていかないようにも思うし、頑張らなくてはと思えば思うほど、身体が動かなかったりする。いつもチグハグで、そのせいか呼吸が浅い。

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スピンオフ「へそで、嗅ぐ」衿子編

不労収入のせいだ。衿子はそう思っている。

大学を卒業した後、着物を取り扱う会社に就職したが、その会社が倒産した後、衿子は何をやっても続かない自分に焦っていた。化粧品会社のセールスをやったり、健康食品の開発部門に入ったり、興味のあることは世の中にあふれていた。でもなんだか合わない人がいたり、結婚して子供ができたりして、その都度やめてきた。それはきっと不労収入があるせいだ。彼女はそう思っている。

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スピンオフ「へそで、嗅ぐ」永山編

薄暗い土間で、黙々と豆腐を作る父ちゃん。家の隅に積み上げられた大量のおからの山を見るたび、父ちゃんはいつも言った。「大豆はすごい。豆腐を作ったらおからができる。これをフクリと言うんや」それを聞かされる幼い永山は、フクリの意味もわからないまま、部屋の隅に積み上げられたおからを憎んでいた。永山は、肉屋に生まれたかった。

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スピンオフ「へそで、嗅ぐ」智明編

智明は、幼き頃とうもろこしにむしゃぶりついていた娘、真利の姿が脳裏に焼き付いて離れない。あの頃、真利は、私に向かって両手を上げて、抱っこをせがんだー。

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