失恋日記 ⑴

※以前投稿したものを一部修正しました※
#失恋日記 #小説 #セーラー服 #青い春

中学のころから抱いていたこの想いが恋だと分かった瞬間に、私の初恋は終わった。

仕事から戻りソファの上で一息ついていると、珍しく携帯にメールが届いていることに気が付いた。送信者の名前を確認し胸の鼓動が高鳴ったのが分かった。恐る恐る内容を見る。
『先月に無事、式を挙げました! その時の写真だよ』
旦那さんと写る幸せそうな顔の写真が添付されていた。私の大好きな、とびきりの笑顔がそこにはあった。
『苗字が変わるよ』というメールを少し前にもらっていたことを、ソファに横たわりながらぼんやりと思い出す。

メールの送信者である佐伯まゆみとの出会いは中学の時。まゆみは、学校内でとびきりの美女だった。色の白い肌に胸まで伸びた綺麗な黒髪、まつ毛が長く黒目が大きな瞳、男女問わず「まゆみは可愛い」と一度は口にしていたのではないだろうか。
容姿もさることながら、誰とでも仲良くなれる人懐っこさ、けれど特定のグループには属さず、いつもひょうひょうとしている猫みたいな部分に、私を含めみんな引き寄せられていた。
まゆみの存在に気付いたのは、中学に入学してまもなくの頃だった。三つの小学校が集まっていた私たちの中学校で、私を含めまゆみを知らなかった人達がこぞって彼女の噂話をはじめたのだ。

『隣のクラスに凄く可愛い子がいる』
『同じ小学校だった子に聞いたけど、頭も良いし性格も良いらしいよ』
『佐伯って彼氏いるのかな?』

噂話に加わらずとも、クラスのどこかで話されるまゆみの話が耳に入り、どんな子なのだろうと気になっていた。
そんな噂のまゆみを初めて見たのはトイレの手洗い場だったと思う。
中学生の女子の大半は、学校生活の一部始終をグループの子たちと過ごす。もちろんトイレに行くのも一緒だ。
面倒くさいけれど一人で行動する勇気もなかった当時の私も、グループの女の子たちとトイレに行っていた。本当にトイレに行きたい子、ただ付いてきた子、髪の毛を直すために鏡を見に来た子、休み時間になると小さなトイレはすぐに満員になった。
入り口付近の手洗い場の壁にもたれかかりグループの子を待っていると、一つのドアが開き黒髪の綺麗な生徒が出てきた。
「まゆじゃん! 元気?」
トイレにいた他クラスの子が黒髪の生徒に声をかける。
「チサ久しぶり~って言っても小学校の卒業式以来? クラス別れちゃったね~」と返事をした。セーラー服の胸の名札を見ると「佐伯」の刺繍が入っている。
『この子が佐伯まゆみ・・・』
チサという子と話しながら手を洗い、黒髪の佐伯まゆみは一人でトイレから出て行った。

社会人になった今、もちろん一人でトイレに行けるし終始グループで行動なんてしない。一人の時間の方が多く、なぜ中学時代にこぞって女子はグループ行動を暗黙の了解のようにしていたのかは分からない。
しかし当時、一人で行動する勇気が無かった私からしてみれば、友達が居ない訳ではないのに一人で行動できるまゆみが格好良いと思った。休み時間トイレに一人で行けるかどうかなんて、今考えるととんでもなく下らないのだが、中学生女子という閉ざされた世界の中でそれはとても決心が必要なことだったのだ。

容姿に似合わず潔い彼女の行動を目にし、想像とのギャップに今まで以上に興味が湧いてきた。

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