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読書探訪

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読んだ本を随時まとめていきます。#読書探訪
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【読書探訪】女性たちの独ソ戦の記憶。 『戦争は女の顔をしていない / スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ』

・・・  2022年のいま、私たちはロシアによるウクライナ侵略が現実となった世界を生きている。  高度に情報化された昨今、戦争の様子は逐一報道される。SNSでは市民や実際に兵士として戦う人が発信する動画を通して、現地の生の声をリアルタイムで聞くことができる。  ただ果たしてそれが戦争の“すべて”だろうか。目をそむけてる事実や聞こえないようにしている声はないだろうか。 ・・・  1941年から1945年にかけて、凄惨な独ソ戦が行われた。その被害は甚大で死者数についても

【読書探訪】 ルポ病んだ大国 『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機 /ベス・メイシー』

 最近、地域の終末期ケアを担う病院での研修機会があった。その際にがん疼痛緩和ケアの勉強をしようと『WHOガイドライン 成人・青年における薬物療法・放射線療法によるがん疼痛マネジメント』を読んだ。  WHO(世界保健機関:World Health Organization)は国際機関であり、そのガイドラインの対象は当然日本だけでなく全世界になる。そのため内容には「オピオイド依存」についての記載も含まれた。  幸いなことに日本はアメリカ等と比較すれば、現状オピオイド依存は大き

【読書探訪】 孫子の兵法 『孫子 / 浅野裕一』

・・・  長年読みつがれてきた古典には普遍的な価値があるというのが信条だが、その観点から言えば本書の原典は二千年以上も読みつがれてきた中国を代表する古典であり、その条件は十分に満たす。  複雑で予測がむずかしい事象を前にすると、ついついパニックに陥るのが人間の性であろう。孫子はその極致ともいえる「戦争」をテーマに語る。どうやらパターン化とケース・バイ・ケースのバランスの難しさは二千年以上も人類の課題らしい。孫子はそのエッセンスを教えてくれる。  孫子の教えを過去の出来事

【読書探訪】シリコンバレーでの成功の流儀 『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか / ピーター・ティール, ブレイク・マスターズ』

・・・  今更ながら、ピーター・ティールの話題書を読み終えた。「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」  シンプルだが意外と難解なこの問いをきっかけに本書ははじまる。テーマはタイトルどおりゼロ・トゥ・ワン。つまり何かを生み出せる人間を目指せ、ということだ。  自身にあふれた語り口の話は内容も面白く、前半部分から惹き込まれる。「独占こそが成功への道で、競争はイデオロギーに過ぎない」など、オリジナリティに富んだ意見が次々に登場する。ビジネスのエッセンスを、文

【読書探訪】魔都、上海を生きる。 『上海、かたつむりの家 / 六六 』

・・・  小説の舞台は2010年開催予定の万博を目前に控えた上海。同年は中国のGDPが日本を抜き、世界第2位となった年でもある。  中国らしいスケールの大きな話が読みたいなら本作を読むべきだ。お金の使いっぷりが素晴らしい。日本でなにかと話題にのぼる「パパ活」も上海となるとスケールが違う。  一方で市井を生きる人々の、気合入りまくりの必死の節約もおもしろい。少しでもローンを返すためなら節約のあまり体調が壊れることもいとわない。  登場人物がことごとく「よそ者」なのも特徴