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ちいさな物語

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#noteの輪

スキップ日和 #シロクマ文芸部

こどもの日の今日は学校が休みのため、僕はつい寝坊してしまった。 いつもより遅い朝ごはんを食べる眠そうな僕を見て 「こどもはいいわね」と、お母さんが言った。 僕のお母さんは時々「こども」である僕を羨ましがる。 正直その意味はよくわからないけれど、大人も色々あるのだろう。 だからこそ僕はずっと思っていたことをお母さんに言ってみた。 「じゃあお母さんもこどもに戻れば?」 するとお母さんは驚いた顔をして、それからちょっと困った顔をした。 僕にはお母さんが今どんなことを考えたの

スタート #シロクマ文芸部

布団からテーブルから何から何までなくなった部屋に わたしは一人ぽつんと立っていた。 あの布団もあのテーブルもここにあったもの全て 探して探してようやく出会ったお気に入りのものたちだった。 お気に入りのものたちに守られた「囲いの中」は それは居心地がよかった。 誰にも自分を傷つけられることもなく ここにいるみんなに守られているようで ずっとここにいられたらいいのにと思っていた。 けれどこれからの暮らしにはどれもこれも すべてが小さすぎた。 わたしを守ってくれていたこの部

連想パワー #シロクマ文芸部

新しいは、ぴかぴか。 ぴかぴかは、光。 光は、照らす。 照らすは、太陽。 太陽は、エネルギー。 エネルギーは、僕たちのパワーの源。 エネルギーよ 必要としているみんなのもとへ 今こそ届け。 【おしまい】 *** 今週のシロクマ文芸部でした🐨

夏休みの夢 #シロクマ文芸部

逃げる夢を追いかけて、僕はもう何日も 朝から晩まで眠り続ける日々を過ごしている。 あの日逃げた夢で頭がいっぱいの僕は 「あの夢をもう一度見たい」というただそれだけのために 一日のほとんどの時間を「眠る」ことに捧げていた。 どうしたらもう一度同じ夢が見られるのか。 一番大切なことではあるが僕にはその方法がわからないので とりあえずできる限りの時間を使って眠ることにした。 逃げた夢を追いかけていることについては、願掛けの意味も込め 誰にも話すことはしなかった。 今はちょうど夏

熱き戦い #シロクマ文芸部

「珈琲と共にあるのはこの私よ」 「いいや、珈琲に合うのはもちろん僕でしょう」 「それは違うな。この僕こそが相応しい」 こんな主張が延々と続くのはいつものこと。 珈琲の目の前では今日も こうして熱き戦いが繰り広げられている。 珈琲はこの家主の大好物。 さっき話していたのはその大好物である珈琲のお供に 毎回「誰が選ばれるのか」というもの。 そこで華々しく登場したのは、甘いもの集団のスイーツ部。 「そりゃ私たちでしょう。甘いものは定番中の定番よ。相性抜群!」 自分たちの発言に

りんご箱の秘密 #シロクマ文芸部

「りんご箱にはね、秘密があるんだ」 * りんごが豊富になるりんご村では毎年 溢れんばかりのりんごが収穫できていた。 しかし今年はりんごが病気にかかってしまい 全てのりんごがダメになってしまった。 りんごが頼りのこの村ではりんごの不作は大問題 どうしたものかとみんな困り果てていた。 りんごを保管するりんご倉庫は村のはずれにあった。 村のみんながやる気を失っている中、ひとりの青年が こんな時だからこそせめて自分ができることをやろうと りんご箱を磨くためりんご倉庫へやってき

ぼくはあしがおそい #シロクマ文芸部

走らないで ちょっと待ってよ ぼく聞いたんだ 君はあしがはやいんだろう? だからってそんなに 急がないで もう少し待ってよ ぼくから逃げないで 100年時代のぼくは とてもあしが遅いんだ もちろん君とぼくとでは 住む世界が違うし あしのはやさが全く違うことも わかっているつもりさ でもそれでもぼくは 君が好きだ この気持ちに あしのはやさなんて 関係ないだろう? だから今だけは 走らないで そんなに急いで ぼくから逃げないで 愛しい君 愛しい桃よ 【おし

月めくり #シロクマ文芸部

月めくりである僕たちは 自分で月をめくることを許されていない。 これは「月めくり一族」の昔からの約束事。 一族の者はみな生まれてからずっとそれを大切に守ってきた。 そして僕は今その約束を破らまいと なんとか頑張っている。 それはなぜか。 数日前に新しい月になったというのに 僕は未だに「同じ姿」のまま過ごしているからだ。 いつもの君であればすでに月めくりをしているはずだが 一体どうしたのだろうか。 僕は昔のことを思い出し、少し不安になる。 あの時もそうだった。 新しい月に

悪いモノ #シロクマ文芸部

「読む時間がないのが悩みです。私は昔から読むことが好きなのですが、最近は全く読めていなくて。時間がない…そうです!誰かが私の貴重な時間を奪っているに違いありません!」 「なるほど。時間を奪われている、とな。たしかにそれはヒトの時間を奪う何か『悪いモノ』に取り憑かれているかもしれませんな。どれ、私に話してみなさい。原因がわかったら今すぐここで払って差し上げましょう」 「私の大切な時間が奪われているなんて…考えただけで恐ろしいです。ではまず、私の一日の時間割をお話させて下さい

それぞれの答え #シロクマ文芸部

これが最後の問題だった。 始めは何かの間違いかとも思ったが、あのマジメガネ先生が テスト作成でミスをするはずがない。 これは僕たち生徒が何かを試されているのか…? キーンコーンカーンコーン。 「はい、終了。テスト用紙、後ろから回して」 淡々と回収されていく中、誰かが質問をした。 「先生。あの最後の問題は何ですか?」 しーんと静まり返り、みんながマジメガネ先生を見る。 「秘密です。明日テストを返却する時に言います」 それだけ言って先生はさっさと教室から出て行ってしまった。

だって僕は愛だから #シロクマ文芸部

愛は犬とも読むのよ 飼い主の君は僕にそう言った。 ふぅん、そうなんだ。 じゃあ「愛=犬」だね。 いいね、それ。 僕、気に入ったよ。 僕が嬉しくて飛び跳ねていたら 君は一緒に笑ってくれた。 そうかぁ。 それはもっとみんなに広めたいなぁ。 * 帰ってくるなり君はベッドに飛び込んだ。 泣いてるのか、小さいけれど僕には クスンクスンと聞こえた。 傍で待っていたら君はぽそりと 「愛が欲しい…」とつぶやいた。 だから僕は思いきり君に飛び込んだ。 急にどうしたの?って不思議そ

オバケの文化祭 #シロクマ文芸部

文化祭が近づくにつれ、この学校では毎年「ある噂」が立つ。 「文化祭には『主』がいるらしいよ」 「それ聞いたことある!」 ちなみにその「主」とは 僕のことであり そして、オバケ だ。 昔文化祭の出し物でお化け屋敷をやったクラスの集合写真に 僕はみんなと一緒に仲良く写った。いい笑顔でよく撮れていたと思う。 普段は驚かさないよう注意を払っているけど、その時は気分が上がり どうしてもみんなと集合写真を撮りくなった。 だってその時のクラスの気合の入れようったら! だから集合写真以

お得ちゃん #シロクマ文芸部

「ただ歩くってのはちょっとねぇ…」 こう言っているのは友だちの「お得ちゃん」 なぜこんなあだ名なのかというと「お得」が大好きだから。 お得ちゃんはお得なものに目がなく、お買い得と書かれてあると それだけで買ってしまう人なのです。 ただし最近は買い物のし過ぎでお金が大ピンチ!だとか。 そこでお得ちゃんはこれを機に、無料で楽しめる趣味を 探すことにしたのでした。 「それならやっぱりお散歩だよ。お金もかからないし何より楽しいもん」 「えぇーでもただ歩くのって何も『お得感』なさそ

「本当に文芸部?」 #シロクマ文芸部

「文芸部に入ってたのかい、君は」 「え?文芸部…?あ!そうそう。少し前からね」 「それで今度はこの日が文芸部の活動日?」 僕がカレンダーに書かれた「文芸部」を指さしながら言うと 妻はうんうんと頷く。 「そうだわ!忘れてた~この日までに毛糸を買いにいかなきゃ」 「なんで毛糸?」 「もちろん、部で使うからよ」 妻が言うには部のみんなで分担した毛糸を 各自で用意しなければならないのだという。 しかしなぜ文芸部なのに「毛糸」なのだろうか? 文芸部と毛糸の繋がりが僕にはさっぱりわ