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ちいさな物語

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#try

スキップ日和 #シロクマ文芸部

こどもの日の今日は学校が休みのため、僕はつい寝坊してしまった。 いつもより遅い朝ごはんを食べる眠そうな僕を見て 「こどもはいいわね」と、お母さんが言った。 僕のお母さんは時々「こども」である僕を羨ましがる。 正直その意味はよくわからないけれど、大人も色々あるのだろう。 だからこそ僕はずっと思っていたことをお母さんに言ってみた。 「じゃあお母さんもこどもに戻れば?」 するとお母さんは驚いた顔をして、それからちょっと困った顔をした。 僕にはお母さんが今どんなことを考えたの

オバケの文化祭 #シロクマ文芸部

文化祭が近づくにつれ、この学校では毎年「ある噂」が立つ。 「文化祭には『主』がいるらしいよ」 「それ聞いたことある!」 ちなみにその「主」とは 僕のことであり そして、オバケ だ。 昔文化祭の出し物でお化け屋敷をやったクラスの集合写真に 僕はみんなと一緒に仲良く写った。いい笑顔でよく撮れていたと思う。 普段は驚かさないよう注意を払っているけど、その時は気分が上がり どうしてもみんなと集合写真を撮りくなった。 だってその時のクラスの気合の入れようったら! だから集合写真以

お得ちゃん #シロクマ文芸部

「ただ歩くってのはちょっとねぇ…」 こう言っているのは友だちの「お得ちゃん」 なぜこんなあだ名なのかというと「お得」が大好きだから。 お得ちゃんはお得なものに目がなく、お買い得と書かれてあると それだけで買ってしまう人なのです。 ただし最近は買い物のし過ぎでお金が大ピンチ!だとか。 そこでお得ちゃんはこれを機に、無料で楽しめる趣味を 探すことにしたのでした。 「それならやっぱりお散歩だよ。お金もかからないし何より楽しいもん」 「えぇーでもただ歩くのって何も『お得感』なさそ

「本当に文芸部?」 #シロクマ文芸部

「文芸部に入ってたのかい、君は」 「え?文芸部…?あ!そうそう。少し前からね」 「それで今度はこの日が文芸部の活動日?」 僕がカレンダーに書かれた「文芸部」を指さしながら言うと 妻はうんうんと頷く。 「そうだわ!忘れてた~この日までに毛糸を買いにいかなきゃ」 「なんで毛糸?」 「もちろん、部で使うからよ」 妻が言うには部のみんなで分担した毛糸を 各自で用意しなければならないのだという。 しかしなぜ文芸部なのに「毛糸」なのだろうか? 文芸部と毛糸の繋がりが僕にはさっぱりわ

「食べられる夜」 #シロクマ文芸部

これは僕たち夫婦にとっての合言葉みたいなもので 「食べる夜」を選ぶと「晩ご飯を作らない人」で 「食べられる夜」を選ぶと「晩ご飯を作る人」と、なる。 初めて妻からこの質問をされた時はよく意味が分からず 楽そうな感じのする「食べる夜」を選んだ。 すると妻は「はいよ~」とにっこり笑って 鼻歌を歌いながら夜ご飯の準備を始めたのだった。 それからというもの、時々妻からこの質問をされるようになった。 しばらくは僕もその質問には決まって「食べる夜」を選んでいたのだが 妻があまりに楽しそ

迷子の迷子の 【#シロクマ文芸部 】

「消えた鍵」とは、恐らく僕のことなのでしょう。 僕のご主人様は突然、僕の前からいなくなってしまいました。 いや、ご主人様からするといなくなったのは僕の方… なのでしょうね。 ご主人様は道端に僕を落としていってしまったのです。 すぐに大声で呼びましたが、僕の声は届きません。 追いかけようとしましたが、それも無理な話です。 僕はご主人様と離れ離れになってしまいました。 ご主人様には僕がいないとダメなんです。 すごくすごく困るんです。 だって、お家に入れませんから。 けれど僕に

やさしい声 【#シロクマ文芸部 】

私の日。 ついに「私の日」がやって来た。 私の新たな出発の日。 ここで随分のんびりさせてもらっちゃった。 居心地がよくて本当はもっとここにいたいくらいだけど でもそれもすべて今日で終わり。 早く会いたいって毎日やさしい声をかけられて さすがの私も根負け。 でも本当は私、外の世界がすごくこわい。 ここからは何も見えないし外のことなんて何も知らない。 正直にいえばずっとこのあたたかな場所で 安心して暮らしていたい。 でもね、それでも思うの。 このやさしい声の主に会いたい

パトロール 【#シロクマ文芸部 】

街クジラはいつも願っています。 「今日も街が平和でありますように」 街クジラはこの街でパトロールのお仕事をしています。 毎日空を泳ぎながら街全体を眺めます。 街クジラはこの街が大好きです。 街は今日も変わらず平和です。 大きな街クジラは一日中、空をゆっくり回ります。 ですから街クジラが通るときは大きな影ができるので みんなは街クジラが上を通過するタイミングがわかります。 そして街に住む人たちはみんな その影が大好きなのです。 「本日も異常なし」 街クジラは日々こうし

海砂糖 【#シロクマ文芸部 】

「海砂糖はじめました」 とうとう今年もこのタペストリーに出会う季節になりました。 「海砂糖」は 角砂糖 にちょっと似ています。 立方体に固めたあの角砂糖のように、この海砂糖も 海に住む生きものたちの形に砂糖を固めています。 ただし、砂糖以外の成分については秘密なので 詳しいことは僕にもわからないんですけどね。 ちなみに海砂糖といえばこの辺りでは夏の定番で 大体この時期になると色んなお店で見かけるようになります。 そして夏が終わる頃、そこら中にあったタペストリーは いつの

ねずみ屋【#シロクマ文芸部 】

「銀河売りのねずみたち」のお話はじまりはじまり〜。 *  長年愛されてきた「ねずみ花火」 そのねずみ花火を作っている会社「ねずみ屋」では 毎日沢山のねずみ達が花火作りに勤しんでいる。 ここでは働く誰もが花火作りの仕事に誇りをもっていた。 ありとあらゆる花火を作っているねずみ屋は 足元でくるくる回る「回転花火」も作っていた。 今でこそ知らない者はいないこのねずみ花火だが 実は元々はこの名ではなかった。 「銀河」 これが回転花火に最初につけられた名だった。 中心に渦を

先生も知らない【#シロクマ文芸部 】

ガラスの手だよ、これ。 いいや、これは絶対に足!あし! 違う違う。これは葉っぱだよ。 だーかーらー!花だってば〜! …………。 * 今は美術の時間。 生徒はみんな、目の前にある 「ガラスの置物」を描くのに集中している。 そのうち、描くのに飽きた誰かが この置物は一体何だ?と言い始めた。 不思議な形をしたこのガラスの置物について それぞれみんな自分の考えを主張している。 そしてそんな生徒たちのことを私は 少し遠くから静かに見守る。 手、足、葉っぱ、花、などなど。 他にも

猫と僕と恋と【#シロクマ文芸部 】

恋は猫のようだと 僕はそう思っている 恋は猫 彼らはいつも突然 僕の前に現れる そこの路地から あそこから 向こうから 音も立てず静かにやってくる それは何の前触れもなく ひっそりと しっとりと 恋は猫 彼らがいつ現れてもいいように 決して油断をしてはならない ぽけっと気を抜いていたら 彼らはいつの間にかふっと いなくなってしまうのだから 恋は猫 こちらがどんなに見つめていても 彼らは気がつかないふりをするだろう だって自分のペースを乱さないのが お決まりのスタ

小さな巨人 【春ピリカ】

双子が家出をした。 いなくなってからもう三日になる。 けれどすぐに探すことはしなかった。 それは、双子なんかいなくても なんとかなるだろうと思っていたから。 双子が家出してからの僕は、ふらふら、ゴツン。 転んでばかりいる。 何で急にバランスがとれなくなったのか? ゴンっ。いてっ。 一体何なんだ。うまく歩けやしない。 思えばこれは双子がいなくなってからだ。 僕はよく足の小指を馬鹿にしていた。 重要性が低いくせによくぶつけるのだから腹が立つ。 つい最近もまた僕はいつものよう

手作りカルタ【#シロクマ文芸部 】

咳をしても金魚。 ばしっ! テーブルを叩く音が病室中に響き渡る。 その瞬間、律の残念そうな顔が私の目に映る。 「はい、取った!それにしても『咳を…』って変だよね?」 「うん。でも好き。咳だから、仲間だもん」 カードを見ながら律は少し寂しそうに言う。 「このカード、ママの手作りなの?」 「うん。ママがこれ律に渡してって」 ママ手作りのこの不思議なカードは 文字カードと絵カードの二種類に分かれており 文字の方には全て「咳をしても○○」と書いてある。 他には「咳をしてもゾ