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ちいさな物語

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2023年9月の記事一覧

月めくり #シロクマ文芸部

月めくりである僕たちは 自分で月をめくることを許されていない。 これは「月めくり一族」の昔からの約束事。 一族の者はみな生まれてからずっとそれを大切に守ってきた。 そして僕は今その約束を破らまいと なんとか頑張っている。 それはなぜか。 数日前に新しい月になったというのに 僕は未だに「同じ姿」のまま過ごしているからだ。 いつもの君であればすでに月めくりをしているはずだが 一体どうしたのだろうか。 僕は昔のことを思い出し、少し不安になる。 あの時もそうだった。 新しい月に

悪いモノ #シロクマ文芸部

「読む時間がないのが悩みです。私は昔から読むことが好きなのですが、最近は全く読めていなくて。時間がない…そうです!誰かが私の貴重な時間を奪っているに違いありません!」 「なるほど。時間を奪われている、とな。たしかにそれはヒトの時間を奪う何か『悪いモノ』に取り憑かれているかもしれませんな。どれ、私に話してみなさい。原因がわかったら今すぐここで払って差し上げましょう」 「私の大切な時間が奪われているなんて…考えただけで恐ろしいです。ではまず、私の一日の時間割をお話させて下さい

それぞれの答え #シロクマ文芸部

これが最後の問題だった。 始めは何かの間違いかとも思ったが、あのマジメガネ先生が テスト作成でミスをするはずがない。 これは僕たち生徒が何かを試されているのか…? キーンコーンカーンコーン。 「はい、終了。テスト用紙、後ろから回して」 淡々と回収されていく中、誰かが質問をした。 「先生。あの最後の問題は何ですか?」 しーんと静まり返り、みんながマジメガネ先生を見る。 「秘密です。明日テストを返却する時に言います」 それだけ言って先生はさっさと教室から出て行ってしまった。

だって僕は愛だから #シロクマ文芸部

愛は犬とも読むのよ 飼い主の君は僕にそう言った。 ふぅん、そうなんだ。 じゃあ「愛=犬」だね。 いいね、それ。 僕、気に入ったよ。 僕が嬉しくて飛び跳ねていたら 君は一緒に笑ってくれた。 そうかぁ。 それはもっとみんなに広めたいなぁ。 * 帰ってくるなり君はベッドに飛び込んだ。 泣いてるのか、小さいけれど僕には クスンクスンと聞こえた。 傍で待っていたら君はぽそりと 「愛が欲しい…」とつぶやいた。 だから僕は思いきり君に飛び込んだ。 急にどうしたの?って不思議そ

オバケの文化祭 #シロクマ文芸部

文化祭が近づくにつれ、この学校では毎年「ある噂」が立つ。 「文化祭には『主』がいるらしいよ」 「それ聞いたことある!」 ちなみにその「主」とは 僕のことであり そして、オバケ だ。 昔文化祭の出し物でお化け屋敷をやったクラスの集合写真に 僕はみんなと一緒に仲良く写った。いい笑顔でよく撮れていたと思う。 普段は驚かさないよう注意を払っているけど、その時は気分が上がり どうしてもみんなと集合写真を撮りくなった。 だってその時のクラスの気合の入れようったら! だから集合写真以