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ちいさな物語

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2023年4月の記事一覧

氷の鎧 【#シロクマ文芸部 】

凍った星をグラスに。 それしか方法がないと思った。 凍ったお星さまをグラスに入れてぬるま湯を注ぎ、氷の部分を溶かす… そうすれば氷の中に閉じ込められたお星さまをすぐに 助けられると思っていた。 「氷の鎧」 この鎧はお星さまが自分の涙で作ったもののようで 何者かによって氷の中に閉じ込められたわけではなかった。 ならばなぜお星さまは、こんなに冷たくて堅いもので 自分を覆っているのだろうか… 私にはお星さまの気持ちがよくわかった。 それは私にも昔、同じような経験があったから…

手紙遊び 【#シロクマ文芸部 】

透明な手紙の香り。 それは少し甘くて優しい花の香り。 君と僕の思い出の香り。 * さっちゃんはいつも僕の目の前ですらすらと透明な手紙を読み上げる。 まーくんはかっこいいね、優しいね、とか。 手紙の内容は時々変わる。 お菓子をくれてありがとう、とか 一緒に遊んでくれてありがとう、とか。 さっちゃんが読んでくれる手紙はいつも透明だった。 僕はさっちゃんのそのいつもの「手紙遊び」につきあう。 透明な手紙を読みあげた後は必ず僕にそれをくれた。 僕が手を出すと「はい」と言って

僕の相棒 【#シロクマ文芸部 】

一冊の本を埋める。 でもまたすぐに僕の元へ帰ってくる。 そう。 帰ってくるには理由があるんだ。 * 友達のいない僕を心配したじいちゃんが ある日僕に一冊の本をくれた。 外から見るとただの分厚い本に見えるが実際には中は真っ白で どのページにも何も書かれていないようだった。 大好きなじいちゃんからもらったことが嬉しくて 僕は早速この本に自分の名前を書いた。 じいちゃんがなぜ僕にこの本をくれたのかはわからないが とりあえず僕はこの本に僕の平凡な日常を書くことにした。 *

栄養満点 【#シロクマ文芸部 】

手渡されたのは光る種。 けれどあまりの輝きに目を開けていられないので よくわからないままとにかくすぐに土に埋めた。 これでよし。 何の種なのかはわらないけれど 成長して答えがわかるのが楽しみだ。 しかしいくら待っても 光る種からは芽が出てこない。 ちゃんと土に埋めて水やりもした。 けれど一向に芽が出る気配がない。 土…じゃなかったのかな? 私は光る種を土から取り出し 今度は水耕栽培のように水につけてみることにした。 根っこはないけど。たぶん大丈夫だと思う。 これ

マイルール 【#シロクマ文芸部 】

これが日記を書く時の私のマイルール… といっても、実はそんなに大した意味はないんだけど。 特に赤青鉛筆が好きだったわけじゃない。 実家に帰省した時、自分の部屋の机の引き出しに たまたまこの赤青鉛筆が眠っていたのを見つけた。 それでなんとなく連れて帰ってきた、というだけ。 ただそれだけのことだ。 でもそんな赤青鉛筆を 愛おしそうな目で見つめる人がいる。 私には付き合っている彼がいる。 私が日記を書く時、なぜか彼はいつも にこにこしながらこちらを見ている。 それがずっと気