【映画レビュー】とても明るくウェルメイドな逸品...と見せかけて実は怖い『北極百貨店のコンシェルジュさん』
いろんな意味で想像していなかった体験ができました。
『北極百貨店のコンシェルジュさん』のざっくりとした感想
『北極百貨店のコンシェルジュさん』を観てきました。
第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞も受賞した西村ツチカ先生の同名コミックをアニメーション映画化。お客がすべて動物というちょっと不思議な「北極百貨店」を舞台に、新人コンシェルジュ・秋乃が奮闘する日々が描かれます。
監督を務めるのはTVアニメ「ボールルームへようこそ」の板津匡覧氏が長編映画に初めて挑みます。アニメーション制作はProduction I.Gだ!
本作を観てきた感想をざっくり一言で言うと……
秀逸作!
70分という尺にギュッと詰め込んだしっかり“お仕事映画”。
仕事に失敗する辛い映画じゃないかと心配してましたが、ちゃんとチームで協力できる良い職場で安心しました。
もっと映画の内容に踏み込んだ詳しい感想を書いていきます。
『北極百貨店のコンシェルジュさん』のもっと踏み込んだ感想
■すごく真っ当にコンシェルジュを描いた“お仕事映画”
本作、“北極百貨店”と言う動物たちがお客としてやってくる架空のデパートを舞台に、新人コンシェルジュである秋乃が不器用ながらも仕事に奮闘する様子を描いた“お仕事”映画。
「コンシェルジュ」という題材がまた良い。
私はコンシェルジュという役割を、「なんか親切になんでも相談に乗ってくれるガイドさん」ぐらいの認識しかしていなかったのですが、割と合っていたようで“顧客のトラブル対応や困りごと、要望に応えるプロのスタッフ”という立ち位置なのだそう。
本作でも、
取引先の会社の相手に良い接待をするにはどうしたらいいのか。
だとか
娘や父のためにどんなプレゼントが最適か。
だとか
ある匂いの香水を探して欲しいだとか。
……様々なゲストの要望に応えていく様子が描かれます。
専門的な部分ではなく“接客”といういろんなお仕事に置き換えやすい内容となっているので、自分がコンシェルジュじゃなくても、自身なりの教訓として内容をとらえやすくなっているのは見事です。
秋乃さんが新人なのでうまくいかずに辛い思いをしながら、なんとか成長していく……みたいなストーリーを想像していたのですが、意外と秋乃もコンシェルジュ適性があるのか、すぐにコツを掴んで要望に応えられていたり、そんな秋乃が失敗しかけようとしたタイミングではしっかり先輩がフォローに入ったりと、職場の雰囲気も結構良好。
観ていて嫌な気持ちになるような瞬間もなく、シンプルに隣人に対して優しくありたい……という気持ちが詰まっていて、良い話でした。
■超ウェルメイド“アニメーション”でもある映画
そこそこ良いストーリーってだけならそこまでの絶賛作にはならないのですが、この映画のグレードをぐっと高めてくれているのが、やはり“アニメーション”の部分。
キャラクターたちの動きがとても気持ちが良いんだ、これ。
静と動のメリハリや、さらりと描かれたキャラクターの線が綺麗で、作品にあった上品さになっています。
しかも冒頭では予想していたものとは違うアニメーションで始まるので、きっとみんな良い意味で驚くはず。
それもそのはず、本作は製作陣ががっつり豪華。
そもそも監督の板津匡覧氏は、今は亡き今敏監督(『パプリカ』『妄想代理人』等)組出身であり、遺作となった『夢見る機械』を完成まで導くための監督代行に名前が挙がっていたほどの人物(未完となりましたが)。それだけでなく磯光雄監督(『電脳コイル』)や原恵一監督(『百日紅』)などの作品にも携わってきています。
今回は原画こそ書いていませんが、絵コンテは全て自身で書いているそうなので、これまでのノウハウが全シーンに行き届いているはず。
それに加えて、松本憲生さん、井上俊之さん、本田雄さんといったアニメーターに詳しい人なら「まじかよ」という人たちの名前がエンドロールには流れており、そりゃ良いものが出てくるわといった、思わぬ豪華共演作となっていました。
■設定が不気味!?まさかの背景に黒さも……
すごいクリーンなお話だと思いきや、映画の終盤になぜこの百貨店のお客さんが動物なのか……という展開に言及。
「実はこれまで出てきた動物たちは全員絶滅動物だったんですよ。」
「人間たちが絶滅させてきた動物たちに人間たちが最高のおもてなしができるようにこの百貨店を作ったんですよ。」
という世界観を自身も絶滅動物のオーナーさんが打ち明ける場面が登場。
え……人類が贖罪するためにこの百貨店はあるってことなのか!?
とビックリしたのですが、その後あまりこの世界観に関する言及は深掘りされず、流れていきます。
その後、主人公の秋乃がコンシェルジュを志したきっかけが、実は未来の自分だったということが判明したり、映画のエンドロールでは北極百貨店が明らかに街中ではない森の中にひっそりと建っていたり、とこの世界がどうも普通じゃないことが示唆されていきます。
そういえば秋乃のコンシェルジュ以外でのオフの様子や、百貨店以外での様子が全く描かれていないのも不自然だということに気づかされます。
……ってことは主人公の秋乃さんって、
現世の存在じゃないんじゃね?とか
最悪死んでるんじゃない?
みたいな不穏なイメージをしてしまいます。
その不穏な後味がまた、綺麗なだけじゃない私好みな影をこの映画に落としてくれています。
絶滅動物好きでもあるので、この“余談”の見せ方も面白くて、
ダイジェストでちょっとずつメジャーな絶滅動物に寄せていく答えの見せ方とか洒落てましたね。
まとめ
というわけで、ホント良い映画でした。
まだ、原作を読んでいないので、この映画が原作からどれだけ脚色しているのかみたいなところが気になるのでこれから勉強していこうと思います。
原作がどうあろうと、この映画の評価がそこまで揺らがないといっていいほどの強度がすでにあると思います。
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