見出し画像

『Away』の監督に学ぶ孤高の制作術。みんなよりひとり。

第6回新千歳空港国際アニメーション映画祭にて、アニメーション映画『Away』のギンツ・ジルバロディス監督のメイキングトークを聞いてきて面白かったのでレポート。

ちなみに『Away』はこんな映画。

飛行機事故でとある島に不時着した男が、謎の黒い影に追われながら街を目指す全4章から語られる3DCG長編アニメーション。
アヌシー国際アニメーション映画祭ではContrechamp賞という個性的な長編作に送られる賞を受賞してます。
本作、すごいのはギンツ・ジルバロディス監督の個人制作品という点。これを一人で作っちゃうなんてハンパない。

そんなギンツ監督が映画祭のトークイベント“Making of Away”で語っていたのはこんなこと。

なぜ個人で制作をしたのか?

“Why I`m doing everything myself”
なぜ個人制作を行ったのか、としてギンツ監督は以下の3つの理由をあげていました。

1.Small budget 
低予算で作れること

2.Creative control
自分でコントロールができること

3.A way to Learn different skille
自分のやりたいようにスキルが増えていく 

ギンツ監督が挙げた3点って、アニメーションに限らず、様々なものづくりに言えることだったのが面白いです。かつては一人で作ることが困難だったものが、技術の発達により単独で高いクオリティのものを作り出せる時代が到来していることを感じさせます。

なぜ4章の構成で『Away』を作ったのか?

『Away』という作品は、当初こそ長編として構想していたようですが、結果的には冒頭でも述べた通り、4章構成の作品となりました。その理由もなかなか面白い理由でした。

1.資金の獲得のため
まず資金調達のために分割したとのこと。こんな映像ができるんですよ、と提示することでスポンサーにアピールがしやすい作りになっているとのこと。

2.集中するため
長編作品を作るには多大な労力が必要になる。だからこそ制作のゴールを分割させることで、集中しやすくしているそうです。

3.途中で制作が潰えた時のセーフティネットとするため
最後まで制作しきれるか分からなかったので、章ごとに分割しても観られるようにすることで、独立した短編としての使い道の余地も残していたそう。


そういえば「魔人探偵脳噛ネウロ」の松井優征先生も、いつ打ち切られてもいいように、短期間ごとの山場や終わり方を想定していたって、言ってたことを思い出しました。『Away』は実質ネウロ。

なにかビックバジェット物を作ろうって時は、参考になりそう。

『Away』特有の制作のコツ

『Away』を作る上での工夫も、ギンツ監督はいろいろ教えてくれました。

クリエイティブに制限をつける

登場キャラクターを少なくしたり、パターンの繰り返しを多用したり、長回しを活用したそうです。作中に猫が登場するのですが、実はその猫には沢山の種類がいたらしいのですが、最終的には統一のデザインのものに絞ってしまったそうです。これらは全て一人で作っていけるようにするための工夫。“クリエイティブは制限をつけないと、無限の可能性がある”んですと。いい言葉。

先に音楽を作ってしまう
『Away』はアニメーションの完成前に音楽を作ったそう。音楽で気持ちやシチュエーションを伝えすぎないようにすることを懸念していたり、先に音楽を作ることで音楽のリズムが、映画のリズムを作るという効果が生まれるらしいです。

1つのファイル=1シーンで制作
制作の際はMayaを使用。1つのファイルに1つの風景を入れて、カメラアングルを変えて撮影する、スクリーンプレイの工程を挟まないリアルタイムレンディングという手法で制作したそう。早いし直感的。
絵コンテとかそういうのが、ないらしい。全て頭の中にあるし、一人だから自分自身がわかっていれば良いんですと。強い。

バックアップファイルが必要
制作中にデータが一回飛んだらしい。バックアップは取っておいた方がいいって。だよね。

あと、『Away』の制作で学んだこととして
シンプルな解決方法の方がうまくいく
ってことを挙げていました。

その他、Q&Aとかで答えてくれたこと

その他にも雑多にいろんなことを教えてくれました。

制作環境。
制作期間は3年半、大抵1週間、8時間〜12時間勤務とのこと。
制作ソフトはMaya、Adobe Premiere、Logic Pro。
資金源としてCulture Capital Foundationってのを利用したとのこと。
申請だけで済むらしい。

影がない理由は?
作中の登場キャラクターに影がないのは、技術的な制限で付けなかったとのこと。次回は影を付けて活き活きとさせたいらしいです。

登場する亀はどのタイミングの着想で入れたのか?
鳥も亀も進めていくうちに出番が増えたそう。

カメラワークはどうやって作っていったのか?
3Dで制作すると完璧になりすぎるので、わざと揺らしたり、いろんなアングルで進めたりしたそう。本作には会話がないので、カメラがより重要になっていくことを意識しており、主観的すぎるのを避けるためにも、そうでない映像もミックスしていったそう。

日本のアニメーションにインスピレーションを受けたりしたか?
ジブリや『未来少年コナン』に影響を受けたそう。

制作に影響を受けたゲームはあるか?
私も質問の機会が得られたので、主人公が目的地とする道しるべとするアーチがゲーム的だったので、制作に影響を与えたゲームがあるのではないかと質問したら、やはりゲームの影響を受けていると述べてくれました。
具体的にタイトルを挙げてくれて「風ノ旅ビト」「INSIDE」「ワンダと巨像」といった作品に影響を受けているんですと。

言われてみれば確かにって作品群でした。

以上、そんな感じ。

そんなギンツ監督の次回作は『Flow』という作品。
次回は単独制作ではないらしいのだけど、それでも少人数制作で進めていくそう。多人数はあんまり好きじゃないみたい。


最後にギンツさんが語っていた良い言葉でお別れです。

No need to understanding before starting.
“始める前に全てを知る必要はない”

良いことゆー。

_________________________

今回の記事は全文無料としていますが、
日頃から「読むと アニメ映画 知識が結構増えるラブレター」では、古今東西のアニメ映画を、より楽しめるような情報を発信中です。

初月無料となっているので、まずは定期購読(月480円)をポチってみてくださいな。月々20記事前後で配信中なので、ひと記事25円以下で読める計算になってるので、記事単体で買うよりもお得になってます。お支払い月の記事は読み放題になりますー。

_________________________


ここから先は

0字
月20回以上更新(多分)。一記事あたり25円以下でお楽しみいただける計算となっています。クレカ決済だと初月無料です。

アニメ映画に関する最新情報、イベントレポート、古今東西のアニメ映画作品レコメンド、海外アニメ映画事情、Tipsなどなど…アニメ映画に関する…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?