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アニメ映画トークイベントレポ:細馬さんが語るアニメーション事始め2020

新年早々、『白蛇・縁起』『白蛇伝』の上映があるということで遥々京都・出町座さんまで行ってきました。

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店先に『コマンドー』の顔出し看板があるの強い。
『コマンドー』も上映中です。

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そして、この日は早稲田大学文学学術院教授の細馬宏通さんによる『白蛇伝』『エセルとアーネストふたりの物語』『幸福路のチー』に関するトークイベント、【出町座映画講座】新年特別企画:細馬さんが語るアニメーション事始め2020も開催されまして、そちらにも参加してきました。

細馬宏通さんのことをあまり知らずに行ったのですが、改めて調べてびっくり。「ミッキーはなぜ口笛を吹くのか―アニメーションの表現史―」を書かれた方だったのですね。これ、すごく良い本なんですよ。ありがとうございました。

そんなわけで今回はそのレポート。
ペンを忘れて、メモアプリを使ってメモをしたのですが、使い慣れておらずデータが消失してしまったので、箇条書きにて話した内容をあげていきます。(すんません)

それぞれのアニメーション表現について

まずは今回の題材となっている3作品と、昨今の日本のアニメを比べると、日本のアニメが定型的になってしまっていて、もっと表現の幅があると感じたという導入の上、まずはアニメーション表現に関して、ひと作品ごと解説してくださいました。

『白蛇伝』の話からスタート。

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白蛇伝
1958年公開 / 東映動画(現・東映アニメーション)製作 / 製作国:日本
監督:藪下泰司

話したことはこんな感じ。

・冒頭のガラスをそのまま用いた表現を始めとして、凝った演出を多様していてすごい
・動物たちの動きが見事。特に4足歩行と2足歩行へ移り変わるグラデーション、そして2足歩行のたどたどしさの表現が素晴らしい
・当時は国内にパンダがいなかったのでパンダの名前がそのまま“パンダ”となっている。
・予告編で東映社長の大川博さんが出てくる感じはディズニーを意識している

今となっては当たり前のパンダも、一昔前は馴染みのない動物だったというのが衝撃ですよね。

続いて、『エセルとアーネスト ふたりの物語』

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エセルとアーネスト ふたりの物語
2016年公開(日本公開2019年)/ 製作国:イギリス
監督:ロジャー・メインウッド 原作:レイモンド・ブリッグズ

ざっとこんなことを話しました。

・日本作品とは顔の描き方が特に違う。海外は鼻をしっかり描くが、日本ではあまり目立たせて描かない。
・レイモンド・ブリッグスの原作のタッチは、採用せずにアニメーションにしやすいタッチに落とし込んでいる。ただし、ある場面でのみ原作のタッチを印象的に用いている。
・片渕須直監督などが語る“β運動”のように、激しい動きはないながらも豊かな表現を再現している。

そういえば鼻の表現に関しては、漫画家の山田玲司さんも漫画における鼻の描き方に関して解説していたことを思い出しまして、長い遍歴の上で最終的に「、」みたいな表現になったと語っていました。日本のアニメーションにおける、鼻表現って漫画の影響もあって、現在のように簡素なものになったのかも。

そして、最後に『幸福路のチー』

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幸福路のチー
2018年公開(日本公開2019年)/ 製作国:台湾
監督: 宋欣穎

話した内容はこんな感じ。

・輪郭、とくに顎の部分がよく動く。おそらくプレスコ方式で描いている。
・子供のチーはよく口元が動くが、大人になったチーはその動きが控えめ。
・チーの妄想シーンの背景がよく動く実験的なアニメーションが印象的。

多分プレスコ(あらかじめ声優の台詞を収録した後にアニメーションを作る製作方式)とおっしゃってましたが、後ほど公式Twitterより、その通りであると返答がありました。『幸福路のチー』はプレスコ!
というかアニメーションを観て、プレスコかどうか当てられるの、すごい。

それぞれの歴史的背景について

続いて、それぞれのアニメーションの歴史的背景について、それぞれ言及していきました。

白蛇伝
・声を森繁久彌と宮城まり子が一人10役くらいでやっているが、これは「まんが日本昔ばなし」で我々が親しんでいる形。
・ナレーションを用いることでキャラクターに距離感が生まれ、キャラクターが浮いていることに対して、違和感を持たせない効果が生まれている。
・パンダが太鼓で踊るシーンの森繁久彌が良い。
・力を失って、一からやり直す白蛇のストーリーは、敗戦直後の日本が現われているのでは。北海はさながらアメリカ的な立ち位置では。(ただそれは形式的すぎる見方とも)
・動物たちを伴ってエンドロールを迎えないところも、敗戦国ゆえに“一から”やり直していくためというのが反映されているのでは。
エセルとアーネスト ふたりの物語
・全体的に戦争に対して距離感がある立場を描いている。それは主人公たちの周りの人間が出兵を免れているから。
・夫婦でも政治的思想や、上流階級と労働階級で違いがあったりするので、より客観的にみえる。
・日本への原爆投下への、そっけない態度も、当時のイギリス国民の実際の反応を描いており、これはこれで真摯な描き方では。
・総じて戦争と距離感はあるが、これはこれでイギリスの家庭の一視点として確かなものである。
幸福路のチー
・そもそも日本人にとっては、あまり台湾の歴史って知らないもの。
 (細馬さんも『ヤンヤン 夏の想い出』『冬冬の夏休み』なんかで観たぐらいで。)
・台湾の戒厳令前後を描いた貴重な作品
・日本では『幸福路のチー』のような政治を描く作品はなまなましくて難しいのではないか。(あっても高畑勲監督や、押井守監督のようなファンタジーを間に挟む必要がある。)
・日本のガッチャマンの影響が描かれているシーンの表現も面白い。

『白蛇伝』が敗戦国云々という見方は、言われてみればなるほど…といった感じ。現代人の我々が観るとなかなか気づけない視点です。

イベントに参加してみて

現在出町座さんで上映されているアニメーション作品縛りということで、共通点もまばらな3作品がテーマになっていましたが、現代日本のアニメーションと比較することで、うまい具合にまとめた細馬さんの解説はお見事でした。

アニメ映画の公開本数もどんどん増えた昨今ですが、改めて古今東西の作品を観ていかないと、視点も定型化してしまうのかもです。

あと、ペンを忘れず持ち歩かないと、ということと、慣れない手書きメモツールはしっかりメモが保存されていることを確認すべきだな、という学びのあった、そんなイベントでございました。(これはイベント関係ない)


余談ですが細馬さんが、出町座でこちらも現在公開中の『白蛇・縁起』を全然把握してなかったのが地味に笑えました。そこは観てないのかよ!

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『白蛇・縁起』、面白かったですよ。

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