いつか花束みたいな恋を思い出してきっと泣いてしまう

「花束みたいな恋をした」

これはまさに僕の、あなたの物語であり、何かが始まって終わることの簡潔な素描だ、と思った。

坂本裕二脚本で有村架純・菅田将暉がラブストーリーを演じる映画「花束みたいな恋をした」を見た感想だ(以下、特にネタバレはない)。

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”ラブストーリー”なんていう形容はいかにも軽いけれども、言ってしまえばそれだけのことなのにここまで心をえぐられる不思議さを表すためにあえてそう形容したい。

シーンひとつひとつに描かれる人生の機微みたいなものが、まさに自分のことを言っているかのように心に触れてくる。

「オレこういう態度とったことあるなぁ…」

「奥さんこういう顔してたときあるなぁ…」

と思いながら見ていた。

そこには批評もなければ結論めいたものもない。ただひとつの恋愛が、男女の日々が綴られているだけだ。

でもだからこそこの映画はたくさんのことを感じさせてくれる。

率直に言って良い映画だ。

「今のこの二人」だからできた映画

僕は有村架純ファンだ(唐突)。

ファンとしては、例えば「逃げ恥」みたいに世間的にバズる作品がなかなかなくて可哀そうだと勝手に思っている。

が、本作は比較的興行収入もSNSウケもいいようで、そういった意味でも勝手に嬉しく思っている。

実際配役は見事に合っている。有村架純演じる八谷絹は、少し独特な趣味やこだわりがある、しかし(誰でも”少し変わった”面を持っているという意味で)どこにでもいる普通の女の子だ。

そこに有村架純の、繊細な空気感はあるものの「普通の女の子」を逸脱しない雰囲気が見事にハマっている。

もっとエレガントでゴージャスな女優やもっと演技の凄味がある女優はいるだろうが、この感じは今の有村架純にしか出せないのではないか。

これは菅田将暉に関しても同様で、もちろん今をときめく大スターだが彼の持ついい意味での「普通の若者」っぽい生々しさは脚本と見事に調和している。

この二人の醸し出す人間味・手触りは、絶妙と言わざるを得ない。

だから観客は「これは自分の映画だ」、と思う。

二人があと2~3年若くても、逆に年を重ねていても、もしかしたらもう「違った」かもしれないとも思う。

「いつ恋」を見たあなたに

僕は2016年にフジテレビで放送されたドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」がめちゃくちゃ好きだ。セリフを諳んじることができるくらい好きだ。

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しかし世の中において「いつ恋」は「歴代の月9で最低視聴率(当時)」といったような不名誉な評判の中で、その輝きに気付かれないままもやもやと終わっていった。

僕を含む一部のファンは、自分の中の盛り上がりと世間の冷たい目線との間で、どこか不完全燃焼で行き場のない気持ちを抱えていた。

「いつ恋」は有村架純主演・坂本裕二脚本のタッグによるあれだけすごいドラマなのに、続編も、スペシャルドラマも、スピンオフも作られることはなかった。

そこに同じ主演・脚本のタッグによる本作「はな恋」が公開されたことは「いつ恋」ファンとして素朴に嬉しかった。

そのように重ねて見られることは制作側の本意ではないかもしれないけれども、心を落ち着ける場がなく彷徨っていた「いつ恋」ファンは、本作を見るとどこか供養されたような気持ちになるかもしれない。

本作と比べれば「いつ恋」の方はずっと”青春群像劇”で、本作はもっと人生を俯瞰した大人のストーリーだ。

もちろん別物なのだが、僕にはなんとなくこの「はな恋」が「いつ恋」をも優しく包み込んでくれているような気がしてならない。

それは、「はな恋」が、僕やあなたの物語もその花束の中に、一輪の花のひとつとして抱きかかえてくれることと同じなのだ。

#花束みたいな恋をした

#はな恋

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