自分の仕事観について思いを巡らしたら椎名林檎さんの歌詞に先取りされていた話

お客様に価値を提供する

この仕事(税理士)をはじめて5年以上が経った。

はじめるときになんとなく「一人前になるのにだいたい5年かな」と思っていたので、それだけの月日が流れたことになる。「いや、2年や3年で一人前になれよ」とツッコまれるかもしれないが、もちろん最初から仕事はちゃんとやっていた。しかし税法の世界は奥が深く、全てを完璧に理解したなどと言える瞬間はおそらく訪れない。

そんな中、多分1~2年前までは無意識のうちに「この税目も勉強しなければ」「あの分野についてもまだまだ知識が足りない」など、自分の至らなさに関して考えることが多かった。

しかしここ1年ほどは特に、どうすればお客様の役に立てるかだけを純粋に考えている気がする。自分の知識が足りているとか足りてないとかいうことは、ある意味ではどうでもいい。知識が足りてるなんていうことは専門家として当然だし、新しい事柄について調べる必要があるなら調べるだけだ。

自分のスペック云々はお客様に提供する価値からすると付随的なものに過ぎない。もちろんこれまでもお客様のことを考えているつもりだったが、なんというか、視点の置き方が少し変わった。

逆説的だがそう考えるようになってからの方が自分も成長するようになった気がする。あるいは逆に、一人前になったからこそそう考えられるようになったのかもしれないが。

自分が税理士として立派になりたいとかではなく、お客様は税理士がどんな風に振る舞ったらより幸せになるだろうか? どんな税理士がいたら世の中はよりよくなるか? そう考えた方が、勉強の必要性もより強く感じられるというものだ。

画像1

誠実に仕事をする

そのような考えの延長として僕は、仕事はできるかぎり誠実に行うべきだと思っているけれど、これには葛藤もある。

「誠実」という言葉はあまりにも大上段だがここではそれほど難しい意味で言っているのではない。例えば、長い目で見て顧問先のためにならないと思うことは勧めないとか、自分の仕事ぶりについて誇大広告は吹聴しないといったことだ。

一般的な表現としてはそんなのは当たり前だと思うだろう。しかし税金についてよく聞く「節税」について少し考えてみるだけでも、話は簡単ではない。

例えば所得税の計算で「医療費控除」というものがある。簡単に言えば一定額以上の医療費を支払った人は所得から引けて税金が安くなるというものだ。メディアなどでこれを「オススメの節税です!」などと情報発信している税理士もいる。

しかし僕からすれば医療費控除は医療費があれば当然に控除すべきただの「法令通りの計算」であって、節税ではない。もちろんそうした情報を発信する税理士は、本当は医療費控除というものがあるのに知らずに損をしている人がいるので、知っておくのは大事ですよということで言っているのであって、そのような情報提供はとても大事で価値のあることだとは思う。でも、自分が誰かに「節税教えますよ! 医療費控除です!」と言う気にはどうもなれない。コンビニでおつりをもらうことが節約術だと思う人はいないだろう。当然の計算なのだ。

もっと言うと、税金がたくさん出るから経費を使えという税理士もいる。必要経費を使えばたしかに税金の納付額そのものは減るが、経費を使わない場合に比べてそもそも手元に残るお金が減るのだから、無意味に使わせても顧問先のためにならない。

しかし人は「節税」が好きだ。本当なら僕も、税額を減らすあらゆる計算について(自分は付加価値ではない当然のことと思って必要な資料を案内し、計算しているが)顧問先に「こちらで○○控除の計算をしましたので税額が××円安くなりました!」といちいち伝えた方がいいのかもしれない。その方が、同じ結果であっても顧問先も嬉しいのかもしれない。「経費使いましょう!」と言った方が「節税を提案してくれる税理士さんだ」と思われるのかもしれない。

やはりどうも自分の誠実の基準には適合しない気がするが、精いっぱいお客様の税額や手続き上のストレスを減らすよう努力するのは当然であって何もアピールしない税理士より、簡単な事柄でも「節税ですよ!」とアピールする税理士の方が良く見えてしまいのであればなんとなく侘しいような気持になるときもある。それが先に述べた葛藤というやつだ。

しかし結局僕は、地味に見えたとしても、自分が誠実だと思える仕事を丁寧にやっていきたいと思うのが今のところの偽らざる気持ちだ。甘い考えかもしれないが、それをちゃんと評価してくれる人がいるものと信じたい(もちろんビジネスとして、自分の仕事の価値を適切に説明・プレゼンすることは必要だけれど)。

そう信じて丁寧に

そんなことを考えながら過去にもnoteで引用した椎名林檎さんの『人生は夢だらけ』を聴いていたら、まるで歌詞が自分の考えを先取りしたような内容で驚いた。

この世にあって欲しい物を作るよ 小さくて慎ましくて無くなる瞬間
こんな時代じゃあ手間暇掛けようが掛けなかろうが終いには一緒くた
きっと違いの分かる人は居ます そう信じて丁寧に拵えて居ましょう

まぁ趣旨の合ってる合ってないというのは、ともかくとして。名曲の歌詞というのは聴くときの自分の心境やライフステージに応じて様々な気付きを与えてくれるものだ。

この世にあって欲しいものを丁寧に拵えるという本質は忘れないようにしたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?