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「薬屋」のおおしごと〜ラインの赤黒に刮目せよ

◼️ブンデスリーガ開幕。首位に立つのは…

 8月18日に開幕し、3節を消化した23-24シーズンのブンデスリーガ。先期、辛くも最終節で、しかも他力で優勝を勝ち取った絶対王者バイエルン・ミュンヘン(以下「バイエルン」)が、ドイツのクラブとしては異例の金額で、待望の「9番」としてイングランド代表のエースであるハリー・ケインを迎え入れたことによって、盤面上では万全に構築される一方で、先期の後半にネガティブな内情を露呈したことから、他クラブによるタイトル獲得の機運も例年になく高まっているように感じられる。事実、開幕前週に行われたドイツ・スーパーカップでは、0−3という些か衝撃的なスコアで、RBライプツィヒがバイエルンを撃破している。

 さて、この3節をすべて勝利しているチームは実に2つのみ。ひとつは、言うまでもなくバイエルン。ブレーメンにアウクスブルクと、後方にスペースを作るリスクを勘案しないリスキーな守備の仕方をするチーム(北海道コンサドーレ札幌のファンの人には既視感のあるやり方なので、是非いずれかのチームの観戦を推奨したい)との対戦が続いたことは幸いしたかもしれないが、それでも10得点という数字は何よりも雄弁だ。新加入のケインもしっかり3得点をマークしている。

 そしてもうひとつ、そのバイエルンを得失点差+1の僅差で上回り首位に立つのが、”B04”こと、バイヤー・レバークーゼン(以下「レバークーゼン」)である。

 ドイツ最大の人口密集地域であるノルトライン・ヴェストファーレン州の州都デュッセルドルフと、同州最大の都市ケルンとの間に位置するレバークーゼン市で創業され、日本でもお馴染みの総合化学メーカーにして、事実上のオーナー企業であるバイヤー社。我々にも馴染みのある多種の薬品を開発してきた世界的企業からの資金援助を背景に、20世紀後半からその地位を固めてきた強豪だ。”Die Werkself (企業のチーム)”という些か皮肉めいた愛称を戴いているが、クラブ名に企業名を冠することが原則的には禁じられているブンデスリーガにあって、例外的にそれが許されているのは、1904年にバイヤー社の社員たちからの依頼を受けた同社により設立されたという事実が考慮されたため、と言われている。

 このレバークーゼンが大きなインパクトを与えているのは、3連勝という結果もさることながら、その試合内容が鮮烈だからだ。ボールを保持することを志向しつつも、なかなかそれを勝利に結びつけるために必要な現象を、再現性をもって作り込むことができず、あえなく屍と化していったチームが、特に2010年代に続出したブンデスリーガにおいて、彼らのプレゼンテーションするサッカースタイルは、同クラブのファンでない〜むしろ彼らのローカルライバルであるケルンのファンである😅〜筆者にとっても好ましく映るし、リーグのレベル向上にとっても待望久しいものと位置付けられるのではないだろうか。しっかりとした骨組みが、トレーニングを通して落とし込まれていることが感じられるこのチームの手法をベンチマークした各クラブが対策を具現化し、ベンチマークされたチームはその「対策への対策」を実装していくことで、相互にクオリティをスパイラルアップさせていく。そんな相乗効果が期待される。

 本稿では、以下の記載において、これまでの3節から観察できるレバークーゼンの戦術的特徴を概観していきたい。なお、先期の同クラブの試合を全てチェックしいてるわけではないので、先期の主力メンバーの特徴や、先期の選手間の序列についての記載が、厳密さを欠いている可能性があることを予めお断りしておく。

◼️狙うは中央。急所を突くための精緻なタスク分担

 3連勝を飾った開幕からの3試合に、レバークーゼンは同じスタメンを送り出している。

 とりあえず図示するとこうなるが、これはあくまで初期配置(フォーメーションはただの電話番号のようなもの、とはよく言ったものだ)。実際に試合が動き始めると、このイレブンは実に頻繁にポジションを逸脱する。それでいて、その現象の背景として確かな原則が落とし込まれているように見えるところに、他チームとは一線を画す強みを感じるのだ。

レバークーゼンのスタメンは、これまでのリーグ3試合で共通している

 その原則のうち、最も基本にあるものを推察すると、サイドからではなく中央からゴールをダイレクトに強襲すること、とでも表現できるだろう。そして、選手個々のタスクが、この原則の実行のために明確に区別され、割り当てられており、しかもそれが1人につき1つではなく、選手の特徴に応じて複数割り当てられ、適宜交換されることが許容されているように見える。

 まず、ボールを持って敵陣に向け前進していくときのタスク区分は、以下のようなものだ。

①一本目キーパス担当
 ②第一プレッシャーライン牽制担当
 ③第二プレッシャーライン牽制担当
 ④最終ライン牽制担当
 ⑤ワイド確保担当

 まず①を担うのが、3CBのオディロン・コスヌ🇨🇮、ヨナタン・ター🇩🇪🇨🇮、エドモン・タプソバ🇧🇫。いずれもが一級のスピードとパワーを備えしかも巨漢だが、インサイドキックでズバリと縦パスを中央に差し込むことを厭わない。凡百のチームのCBがボールを安直にサイドに逃し、それを受けたSBが、一方のサイドをタッチラインという「最強のDF」にサポートされた敵選手の縦スライドにたちまち捕捉されてしまうというシーンは、ビルドアップとプレッシングの一般原則が整理された現代における「あるある」だが、レバークーゼンのCBたちはこれを起こさない。それは、彼ら自身の能力もさることながら、②を担うのがワールドクラスの更なる傑物、グラニト・ジャカ🇨🇭🇽🇰であることに拠る。

 今夏アーセナルから加入し、その前はレバークーゼン市のほど近くに本拠地を置くボルシアMGでプレイしていたスイス代表の重鎮は、早くも圧倒的なパフォーマンスで、中央を突くサッカーの実現を支えている。敵の最前線が形成するラインの近辺に立ち、彼らのCBへのアプローチを躊躇させる。縦パスをピタリとコントロロールし、スムーズなターンで前を向く。このアクションにエラーが生じないので、CBの3名も勇気をもって縦パスを差し込める。仮にエラーが起きても、3CBが中央に固まった状態からパスを出しているので、リスクは低減されている状態だ。

 この点に加え、ジャカのプレイエリアを広く確保するために、盤面上ではCMFのパートナー然として記載されるアルゼンチン代表のエセキエル・パラシオス🇦🇷が、一列前で③のタスクを担っていることも有効に作用している。彼がジャカの隣に位置することがあるとすれば、ジャカが一度縦パスを受けたあとに、ターンが困難になっている場合。基本的には一つ前、所謂「ライン間」に立っていることが多い。

 このように「厚遇」されたジャカにいざボールが入れば、前線の選手は絞らざるを得ない。ゆえに、ジャカには手近なところへのパス、および大外への展開という多種の選択肢が手に入る。

レバークーゼンの前進初期段階。3CBが中央に固まった状態での縦パス供給をスイッチとして、
周囲の連動が始まる

 この「ライン間」は、どのような攻撃手段を採るにせよ最もホットなエリアだが、そこにはドイツ代表待望の逸材、フロリアン・ヴィルツ🇩🇪も待ち構えている。ヴィルツはターンから前を向き、ドリブルに移行するまでの一連のアクションが非常に速く、シュート技術にも優れる危険なアタッカーだ。さらに、右からヨナス・ホフマン🇩🇪も入ってくる。ただ、ドイツ代表で右SBを務めていた経験からも分かるように、専ら大外の選手として大成してきた彼は、後述する非常に重要な仕事も任されている。

 ④と③との境界は実は曖昧だ。物理的に両方のエリアが近いうえに、このタスクを担うナイジェリア人CFビクター・ボニフェイス🇳🇬がとにかく動けるため、結果的に③の仕事をしているシーンも目立つからだ。先期、ブライトン・アンド・ホブ・アルビオンFCとの関係により一躍その存在がクローズアップされたベルギーのファームクラブ、ユニオンSGでリーグ戦9得点、ELでは6得点をマークし、今夏ステップアップを果たした彼の能力は、ストライカーとして必要な能力の万遍なさ。高さと強さはもちろんのこと、速さもまた、一方向の動きの限られず頻繁な動き直しを厭わない。旧来的なそれとは明らかに異なる9番像を有し、ワールドクラスへのステップアップが期待される逸材と評せる。

ジャカにボールが入れば、止むを得ず敵のCMFも移動してくる
そこからライン間の占有が始まるが、この際の人選はランダム

 ⑤の任務は、中央封鎖のためのSH/WG/WBの絞りを牽制するという、ダメ押し的な要素を多分に帯びることになる。右のジェレミー・フリンポン🇳🇱🇬🇭はスピードと運動量が爆発的なタイプであることから、高い位置を狙う準備をしている。左のアレハンドロ・グリマルド🇪🇸は彼とは対照的に、縦方向の突破はほぼ行わず、キックの質で勝負するタイプのようで、中央での前進プロセスが頓挫したときの、ボールの一時的な逃しどころとして重要な存在だ。ただ、彼らには、これまた重要な隠れタスクがあるので後述する。

 このように、中央の各エリアで敵の形成するラインの間のエリアをそれぞれ占有することでアクションを牽制できていることを前提とし、尚且つそこを占有しているプレイヤーの技術が高いことで、サイドにボールを逃すことなく、ダイレクトに中央を突くことが可能になっている。そこでボールを失わないだけのボールコントロールのレベルが伴っていることが大前提となるが、ダイレクトに中央を突くことの効果は言うまでもない。背後にゴールがある中央のエリアでは、守備側のプレイ選択肢は安全第一のリトリート〜それも絞りながら〜に限定される。それでいて、自分たちにはあらゆる方向への選択肢を持つことができる。 

⬛︎目を引く「越境者」たちの陰で

 上記してきた要素だけなら、所謂「ポジショナルプレイ」の実践形態として、実は教科書的なものだ。レバークーゼンを特殊たらしめているのは、前述したように、むしろ各選手がこれらから逸脱〜それも相互のタスク交換を瞬時に行うことを含めた〜することによって生じるボールとスペースの連環の美しさにある。

 たとえば、上図に示したが、フリンポンは表記上のポジションこそ右WBだが、PA内に侵入してストライカーとして振る舞うことがある。このアクションが、右の二列目に位置しているホフマンよりも多いのだ。これは、彼にスプリントの速さと、コンパクトな振りのキックでボールに強い力を伝えられるインパクト技術があるからだろう。従来、この能力は右WBにおいては専らセンタリングの能力として活用されており、実際にフリンポンも大外を抉ってセンタリングを蹴ることはある。ただ、その回数が多くなく、代わりに前述したストライカーとしてのプレイが多く許容されているようだ。後方から高速でPA内に入ってきた選手を捕捉することは得てして難しいものだが、フリンポンは天恵である速度を、従来のWBのあり方とは異なる方向で活かしている。

 また、ジャカがシンプルに前を向けなかったときにパラシオスが脇に降りてくることも前述したが、この時のパラシオスもずっと低い位置に止まることはない。後方に控えていたコスヌにボールを預け、より高い位置へ戻っていく。パラシオスが元いたスペースにコスヌは自らボールを運び、そのままPAまで進出していくこともある。その姿はさながらCMFのようなのだ。

これらの現象が起きているとき、陰で働いているのが、実はホフマンだ。フリンポンが中央にコースを取った際には入れ替わる形で大外に移動したり、あるいはPAの外側に留まることでカウンターに備えている。コスヌが上がってくると見るや、さっとハーフスペースから離脱する。手足の長いコスヌが、しかも大股でのズンズンと襲いかかってくるようにドリブルをされると、対面する選手は距離感を掴みにくいだろう。

右側で起きる「越境」では、本来、大外の選手であるホフマンの真骨頂が見られる。
WBからFWになったフリンポンのいたスペースを埋めているとも、
コスヌ用のスペースを空けているとも解釈できるアクション

 表記上のポジションが日本流に表現すれば「シャドー」のホフマンだが、実際にはポジションの境界を積極的に越境する選手たちが、そうすることによって生じる「余白」を埋める仕事に余念がない。これが前段で述べたホフマンの「重要な仕事」である。従来であれば、この種の汚れ仕事はCMFやウィンガーの中でも運動量に特化したタイプの選手により行われていた。ところが、レバークーゼンでは、WBがストライカーになり、CBがインサイドMFになることもあり、それにより生じる余白を二列目の攻撃的MFが埋めている。

 他方、左側でこれを担うのはグリマルドだ。今夏、ベンフィカから加入した元バルセロナの左SBは、ベンフィカ時代からそうであったように、特段スピードに秀でるわけではないが、キックの質は一級品。この彼が担う仕事は、前述のように、第一には左外でのボールの逃しどころである。中央が詰まったときに一時的に敵のアプローチを引き受け、もう一度ジャカや、近いサイドにいるタプソバにボールを渡すことで、中央に縦パスを差し込めるような状況を再度作る足ががりになる。彼が時間を作ることで、タプソバもコスヌのようにCMF然として中央に侵入することができる。縦突破に特化したタイプだった前任者のミッチェル・バッカー🇳🇱(今夏アタランタへ移籍)や、SBとCBとの中間的なタイプであるピエロ・インカピエ🇪🇨と異なり、キックとボールコントロールに特化されたグリマルドの特徴は、大外でアイソレートされているがゆえに活きている。

 一方で、彼のサイドにはヴィルツがいる。ヴィルツは静止状態からの仕掛けはもちろん、広いスペースに抜け出すときにも速度を出すことができるなど、武器の多さが稀有なアタッカーだ。このヴィルツとグリマルドで組む左側では、ヴィルツにポジションの自由度が与えられている一方、彼が空けたスペースにグリマルドが入っていくことがルール化されているようだ。ヴィルツが主で、グリマルドが従。そのような関係性が確立されているように見える。

左側での「越境」。ヴィルツにポジション移動の自由度が与えられている代わりに、
その背後でグリマルドが中央のエリアを埋めていることで、被速攻時のリスク管理がなされている

 以上のように、レバークーゼンでは、3−4−2−1の人員配置による所謂5レーン(今となってはかなり陳腐化した概念だが)の占有は当然のこととして、その状態からの積極的な逸脱をいく人かの選手に許容するとともに、その逸脱により不可避的に生じる「余白」を埋めることに長ける選手も置くことで、ボール保持とリスク回避とが同時並行的になされる循環的な戦術が高い練度で実装されているように映る。表記上のフォーメーションが持つ意味が相対的に低く、従来のパラダイムにおいてなんとなく(思い込みも含めて)規定されていたポジションごとの役割でなく、中央をダイレクトに突くという大目的に沿った役割でもって、選手個々の役割が規定されているのだ。

 このような、一定の規則性を伴う流動性のメリットは、近年トレンド化してきた、マンツーマンでの守備対応を困難にさせられる、というところにあるのではなかろうか。中央エリアで複数の選手が密集していれば、守備側の選手はいずれもが、常に自分の近くに複数のマーカー候補がいる状態に置かれていることになる。この状態がもたらす認知負荷は、結果的にマークの遅れを招来する。北海道コンサドーレ札幌の試合でも、ワンサイドに人員が密集している状態のほうが、敵のボールホルダーに対しても、背後を狙う選手に対しても圧が弱まっている状態は散見される。自分がマークできる相手が複数いる状態では、それを誰にするかという判断に加え、チームメイトとの重複が生じないようにするための意思疎通も必要になってくるからだろう。

 この、精緻に設計され、対戦相手には認知負荷を、観察者には知的刺激をもたらすチームを作りあげたのが、先期途中にレアル・ソシエダのBチームから転出し、前任のジェラルド・セオアネからチームを引き継いだ、シャビ・アロンソ🇪🇸である。

⬛︎スビエタが送り出す不世出の知性。シャビ・アロンソに漂う名将のオーラ

 考えてみると、レバークーゼンが実践している中央エリアの攻略は、先期からレアル・ソシエダで実践されているやり方でもある。

バイエルンでの現役引退後、レアル・マドリーの下部組織を経て、自身の出身クラブでもあるレアル・ソシエダのBチームという針路をとってきた彼が、同様にBチーム出身であり、現在もトップチームで指揮を執るイマノル・アルグアシル🇪🇸監督の影響を受けていることは容易に想像できる。選手間の距離の最適化と、敵選手への影響との最大化を全体配置により実現し、再現性のあるビルドアップからテクニカルなアタッカーにボールを託す「ポジショナルプレイ」を整備してきた同監督は当代きっての知性派と評せるが、その段階からのポジティブな脱却、現状維持をよしとせずになされたレベルアップを目撃してきたアロンソが受けた知的刺激は如何ばかりだろうか。非常に大きいはずだ。

 そして、レバークーゼンという、豊富な戦力(と、それをもたらすスカウティングの慧眼ぶり)を有しながらも優勝は絶対的な目標ではない、という立ち位置のクラブに着任した彼が具現化しようとしているのもまさにそれ、「ポジショナルプレイ」の一歩先の姿である。ソシエダBでは昇格と降格との双方を経験し、3部降格の責任を取って辞任している彼だが、彼が目指すスタイルを具現化するにあたり、不可避的に生じるリスクを回避するためのパワーやスピードを持つ人材は、むしろドイツでは豊富。その点でも、よいマッチングであろう。ただ、先期にはこれほどの調和は見せきれなかった。当然といえば当然だ。先期の戦力は、所謂「パワーフットボール」の文脈に沿う手法を採るセオアネ🇨🇭🇪🇸前監督のリクエストのもと整備されていたのだから。

 たとえば、CMFの一番手であったが今期はベンチ要員となっている元ドイツU-21代表ロベルト・アンドリッヒ🇩🇪(ヘルタ・ベルリンの下部組織出身ながらウニオン・ベルリンで大成したキャリアの持ち主)は、ボールコントロール力も備えるとはいえ本質的にはワーカータイプであるし、フランス代表の有望株ムサ・ディアビ🇫🇷🇲🇱も、残した数字は確かに激烈だが、初速と加速の双方でぶっちぎる典型的なウィングタイプ。9番タイプではなく、右側でのプレイを好むので、フリンポンとの職域重複を引き起こしてもいるようにも見えていた。左WBのバッカーは縦突破と運動量に特化したタイプだったので、既にヴィルツや、これまたパワフルなドリブルが得意なアミーヌ・アドリ🇫🇷🇲🇦がいた左側で、彼らと共存させるメリットは見出せなかったことだろう。そういえば、前体制下ではパラシオスの序列も低かった。

 今夏、クラブはディアビをアストン・ビラに売却。入ってきた移籍金額は"Transfermarkt"によれば55m€なのに対して、ボニフェイス、ジャカ、ホフマンの3名にの獲得に要した金額は45m€(グリマルドはフリートランスファーでの加入)。その後、サウサンプトンからU21イングランド代表のネイサン・テラ🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿🇳🇬を獲得したことで、最終的な終始は12m€ほどのマイナスに転じたとはいえ、現在チームが披露している鮮烈な試合内容を考慮すれば、満点ともいえるコストパフォーマンスである。意図的にボールを前進させることができなかった先期前半の戦いぶりを知る現地ファンにとっても、力押しでない知性的な手段でボールを保持し、敵を自陣に釘付けにし、しかもその結果一見狭そうに見えている中央のエリアで、ボールコントロールと精緻なコンビネーションで敵を手玉にとっていく様は、痛快極まりないはずだ。

 なお、これまで触れてこなかったが、プレッシングの手法についても言及しておくと、オーソドックスなゾーンディフェンスのように見える。前線の3名によるボールホルダーへのアプローチとカバーシャドウで、敵CBに圧を掛けつつCMFを消すことでサイドへのパスを誘導、WBの縦スライドとCMFの横スライドでボール奪取を狙うというものだ。このとき、CMFのポジショニングは「人」よりは「スペース」、タッチライン際に立つSBからのパスコースである斜め前方を封鎖することを狙っているように見える。最後尾の3名は抜群のスピードを持っており、裏を取られても十分にリカバリーが可能であるため、CMFは大胆なボールサイドへのスライドが可能なようだ。ただ、開幕戦での失点が典型だが、セットプレイでの守備に未整備の感が覗くことはある。

 …さて、ここまで書くといかにも隙がなさそうなレバークーゼンだが、3試合のスタメンが全て同じということは、詰まるところ戦術面の実践レベルをフルで充たすメンバーが、現状のスタメン11名に限られるということでもある。狭いエリアでのパスレシーブという、前進の第一段階を遂行するうえでジャカの存在は不可欠となっている。左利きで左アウトサイドを担えるのもグリマルド一人と心許ない。新加入のアルトゥール🇧🇷が担えるようだが、彼も本職は右SB。それでいて、急遽バイエルンから右SB兼CBのスタニシッチ🇭🇷🇩🇪を獲得したのは、彼への評価が高くないということを示しているのかもしれない。

 また、先期は負傷離脱が長かったパトリック・シック🇨🇿の復調も求められるだろう。ボニフェイスに比べると幾分古典的な9番タイプであるシックだが、グリマルドの高精度のキックとマッチングするであろう高さと強さが、飛び道具として必要になるタイミングは訪れるはずだ。それこそ、ナイジェリア代表に発見され(てしまっ)たボニフェイスが、今冬1月から2月にかけてコートジボワールで開催されるカップ・オブ・ネイションズ・アフリカに出場するとすれば、尚のことだ(コスヌとタプソバも同様の理由での離脱が予想されるが、彼らの穴はスタニシッチとインカピエで埋まるという計算があるだろう)。

 今週はAマッチウィークのためリーグ戦は中断しており、アレマニア・アーヘンとのトレーニングマッチが行われていたようだ(4−2で勝利)。そして、次節、早くもチームは大一番を迎える。9月15日金曜日、現地時間20時30分。敵地でのバイエルン戦だ。大袈裟でなく、この試合はシーズンの趨勢を占う試合になるだろう。バイエルンの対抗馬の筆頭であったドルトムントについては、戦術面の完成度がレバークーゼンと比べるとどうしても見劣りするし、それゆえか、テルジッチ監督に関する疑念が一部メディアから報じられている。RBライプツィヒは開幕戦でまさにレバークーゼンに敗れているし、もとより敵を押し込んだ状態で崩すことに長けていない。全方位的なパフォーマンスレベルの高さという点では、レバークーゼンのほうが上回っているように見えるのだ。

ボールをどの程度保持できるのか。プレッシングは機能するのか。戦術の設計ではこれまた当代きっての使い手であるトーマス・トゥヘル率いるバイエルンとは、非常に高いレベルでの鍔迫り合い、駆け引きが見られるはずだ。何よりも、バイエルンの選手たちほどのネームバリューを現時点でこそ有さないものの、激しい野心を有しているに違いないレバークーゼンの選手たちが、アロンソにより授けられた知力によって、百戦錬磨の選手たちと伍して戦う姿に期待したい。

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