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カルチャーはいかにして生まれるか?非凡かつ天然Young Thugとデビューアルバム『So Much Fun (2019)』

ライター:清水ダマロン

はい。
今年の8/16に圧倒的鬼才Young Thugがデビューアルバム(!)『So Much Fun』をリリースしました。
それにあたって、彼の活躍が目立つようになったこの5年間、彼が"何を与えた"かを、その息をするように果たした偉業をまとめていこうかと。全然日本語記事ないんだもの。Underratedってやつ。
あと注意として、本記事はHiphopを知らない人たちにとって「それがなに?」で終わるトピックが多いです。なおかつ用語が多いです。ご了承ください。
さくっとレビューだけ読みたい人は下の目次から飛んでください。

<Young Thugはシーンに何をもたらしたか>

本名Jeffery Lamar Williams、1991年生まれ(2019年現在28歳)のアトランタ育ち。
「Trapってあれでしょ?三連符フローでハイハットチキチキのあれでしょ?」って頃から第一線で活躍をし続けるラッパー。
その存在を世に広く普及させたのは2014年リリースのRich Homie Quanとのデュオ、Rich Gang名義による"Lifestyle"だろう。

Lifestyleというのは元々存在する言葉ではあるが、それでもこの曲名自体ある種のミームになったといってもいいほどのインパクトを残すことになる。今Kawasakiを代表するあの人たちもオマージュしてましたよね。

以降Young Thugが起こしていったムーブメントは現代のシーンにおけるラッパー像をガッツリ変えていくことになる。
読者にFuture、MigosといったアトランタのTrapが好きな人がいるなら、それは全てYoung Thugに感謝しないといけないレベルで。

<1, フロー>
ひっくり返したような甲高い声と、もごついて全然聞き取れない口調と、オートチューンをかけた歌うようなメロディアスなフローと。断言するが、これはYoung Thug以前にはなかったものだ。
また言葉から意味を極限までそぎ取り、ひとつの記号として羅列した散文的なLyrics。Hiphopにおけるビート・ジェネレーション的なアプローチ。
簡単に言うと、完全にイッちゃってるのだ。
今やこのフローはワールドスタンダードであり、なんとKanyeやDrakeといった"後進の動きを敏感に察知できる"大御所からもフォローされ。更にはYoung Thug一家とも言える帝国が築き上げられるのだがそれは後述。
ここまでこのフローが定着した理由、
それは一度でも彼の表現に触れれば、俺らの脳は溶け、"Wow, That's lit"と言うしか無かったのが最大の証明だ。
ODは伝染する。聴けば分かる。ガチで。

<2, ファッション>

Young Thugはありとあらゆるデザイナーズのアイテムをきわめてピッチピチのサイズ感で着こなし、更にはなんとレディースアイテムまでも自身のコーディネートに取り入れた。
極め付けには2016年リリースの『Jeffery』のジャケットでドレスを身に纏う。
Hiphopという世界は未だにミソジニーやホモフォビアという価値観が根付いている。その中で最高に"ゾーンに入っている(=Zoning)"ラッパーがジェンダーレスというNew Swagをつくったのは限りなく勇気が伴う革新的な行動。
XXLのWhite T-shirtにダボダボのパンツといった最もラッパー"らしい"コーディネートは、もう5年以上も前の古い価値観だ。そう、Young Thug以前のものになる(FrFr)。

<3, Instagramのストーリーズにおける過剰なFlex>
見てみるといいよ。

<4, 新たなジャンルの確立>
mixtapeをそこそこチェックしている人なら今界隈で”Slime”というジャンル(Typeと言うほうが適切だが分かりにくいよね)が流行ってきているのは知っていると思う。
これの始まりは2015年リリースの『Slime Season』を端に発したもので、Slimeという言葉を使っていなくとも有名どころでPi'erre Bourneなんかは明らかにこのサウンドのフォロワーであるのが一聴して分かる(とか言ってたらYoung Nudyと『Sli'merre』出しちゃいました)だろう。
YNW Mellyの実弟としても知られるYMW B Slimeなんていうラッパーまで出てくる勢いで、2020年は間違いなく今以上に”Slime”ヴァイブスを持った曲が生まれてくるだろう。

<自然体である、という最大の答え>

以上が、といってもまだまだあるが、Young Thugがつくりあげていった大きな功績。
しかし特筆すべきはこの行動すべてに本人の「やってやる」感がないこと。

KendrickやJ. ColeといったすでにG.O.A.Tの域に達しているラッパーたちは良い意味でめちゃくちゃに気合が入っていて、自分をリーダーに突き進んでいくという野望が大きく感じ取られる。
それも天才がゆえに成せる技なのであろうが、このYoung Thugにはそうした気概が一切感じられない。本当に、クスリでヘロッヘロになりながらSpitしてるだけなのだ。計算かそうでないかという意味においてこの違いはとてつもなく大きなものであると思う(だからあえて俺は冒頭に"鬼才"という言葉を選んだ)。

その「やってやる」感がないからなのか、Young Thugは自身のスタイルを模したラッパーに対して、極めて寛容な態度をもって温かく迎え入れている。
Lil Baby、Gunna、Lil Duke、Lil Keed、いずれのラッパーもYoung Thugが率いるレーベル"YSL"に所属し、最初の2人は今や飛ぶ鳥を落とす勢いで邁進している。
Young Thugはそんな彼らのことを"Sons(息子たち)"と呼ぶ。

上のA$AP Mobによる『Feels So Good』では彼らの”Copy(=バッタもん)”に対し痛烈な皮肉をまき散らした曲であったように、大きな個性というものが第一のHiphop業界では自身らに似たスタイルに対して非常に厳しい接し方をしていることが分かるからこそ、Young Thugの懐の深さが窺い知れる。

昨今世界に於いてポリティカル・コレクトネス(PC)と同じくらい"文化の盗用(英: Cultural Appropriation)"の問題が大きくなっており、それは音楽業界にまで波及している。
最近あった例として、
・ゲーム「フォートナイト」において行われるエモートに、Hiphopカルチャーから生まれたダンスがあったこと
・Drakeがダンスホールに凝っていることに対するジャマイカ人(あるいはジャマイカ音楽好きのオタク)からの反応
・ロシア出身のNina Kravitzがコーンロウ(アフリカがルーツ)を編んだこと
等が挙げられる。

炎上案件なので個人的な意見を詳細に載せるのは怖すぎるから避けるとして大雑把に言うと、
カルチャーには"開かれて発展する"タイプと"閉め切って発展する"タイプの2つに分かれてると思うんですよね。
Young Thugはその非凡な才能で前者を選び、自身の何にも囚われないスタイルを、後進に伝え、全世界に繋げカルチャーに昇華する、という大きすぎる偉業を注目されてきた頃から一貫して果たし続けてきている。
このYoung Thugを取り巻く現状は、なんとなく"文化の盗用"に対する一つの解答になっている気がする。

何度も繰り返すがYoung Thugの本当に凄すぎる点は、これだけシーンを変えているのにも関わらず「やってやる」感がないことなんです。
人間ってあまりにも天然な人に接すると、マジで汲み取れないというか、敵わねえなってなるじゃないですか、俺今それです。
本人にとっては偉業じゃないならこうやって囃し立てるのも無粋ではあるが、皆に知ってほしくてあえてここに書きました。
どんどん堅苦しくなっていく世の中に、「あ、これでもいいんか…」って気づかせてくれる存在はそうそういない。

最後にYoung Thugという人間の本質を表すLyricsを上記の『Lifestyle』から。

I done, did a lot of shit just to live this here lifestyle.
(俺は沢山のことをやってきて、今このライフスタイルで生きているんだよ)

<楽しいだけでいい!『So Much Fun』>

お待たせしました。
今年リリースされたYoung Thugのデビューアルバム。そう、デビューアルバムです。
ぶっちゃけ俺も知らなかった。今までの20本くらいの長尺作品、全部mixtapeだったらしい。なんてこと。
それはそれとして。

本作『So Much Fun』は2019年のTrapシーンをめちゃくちゃ分かりやすく纏めてくれた作品に仕上がっている。
脇を固めるプロデューサーはWheezy、Pi'erre Bourne、Southside、そしてエグゼクティブプロデューサーとして何とJ. Coleが参加。
客演陣には自身の息子らに、盟友Future、現在共にツアーを回るMGK、更にはLil Uzi Vertや21 Savage等々と超豪華ラインナップ。
Young Thugは上記の通り分かりにくいキャラクターゆえに有象無象のラッパーたちと一括りにされがちですが、この金のかかり方は普通のプロップスじゃ出来ない所業ですよね。

アルバムのコンセプトはタイトルの通り、超楽しい。
超楽しい。
「超楽しい!って感じじゃねぇなら聴かなくていいよ」
とすら本人が言ってます。
それでこそYoung Thug一生付いて行きますって感じで。
レコメンドトラックいきます。
超楽しんでいきましょう。

2, Sup Mate (ft. Future)
プロデュースはDY。
もはやソウルメイト通り越して夫婦と化してるFutureさんと。
2人ともTrapの美学をそのまま顕現させたフローをかましてくれてます。
Hookの裏の「イーイー」ってadlibが最高です。
いくつ声を出せるのか。

4, Hot (ft. Gunna)

プロデュースはWheezy。
めちゃくちゃ分かりやすいオーソドックスなトラックでKawasakiの人たち含めFreestyleで盛り上がってる。
最近RemixでTravis Scottが参加。PVもそちらのバージョンですので是非に。

6, Surf (ft. Gunna)

プロデュースはPi'erre Bourne。
個人的に本作で一番かっこいいトラック。
言ってることはガッツリ下ネタまみれ。
Hookの潔さが最高に気持ちいい。

7, Bad Bad Bad (ft. Lil Baby)
8, Lil Baby

Lil Babyを参加させてからの次の曲名が”Lil Baby”っていう圧倒的なセンス。
マジで誰も真似できないから。
曲中でMigosやNipseyだったりMeek他沢山の名前をシャウトアウトしてるんだけど、そこにLil Babyの名前無いから。やばいよ

9, What's the Move (ft. Lil Uzi Vert)

『Eternal Atake』を巡るゴタゴタで身動きの取れていないLil Uzi Vertの貴重なVerseが聴ける曲。
ウジちゃん結構mumbleって言われちゃうけど、かなりリリカルなラッパーです。genius読んで勉強してください。
PVはA$AP Rocky率いるクリエイター集団AWGEによるもの。イケてます、必見。

13, Cartier Gucci Scarf (ft. Lil Duke)
息子の一人Lil Dukeの魅力が光る1曲。
喉を潰したような怒り声がYSLの中でも唯一無二で印象的。
たまに声を合わしてくるYoung Thugに本当に頬が緩む。
カルティエとグッチ、どちらかに絞れないところも素敵。

19, London (ft. J. Cole & Travis Scott)

早い段階で公開された曲。
曲名とジャケットの蜘蛛でスパイダーマン最新作のサントラかと思いきや、自身が監修する”SPIDER”というブランドの第一号ポップアップがロンドンでの出店だったっていうオチ。狙ってると判断するかどうか、真相は闇の中。
個人的ハイライトはJ. Coleのverse中盤、オートチューンをかけてめっちゃ今ぽいフローになる瞬間。初めて聴いた瞬間ブチ上がった!


めちゃくちゃ長くなってしまいましたが以上。
全部読んでくれた人は本当にありがとうございます。
軽視されがちなYoung Thugの凄さを少しでも分かっていただければ書いた意味もあり幸いです。
うだうだ難しいこと考えて聴いてる俺が一番の邪道なのかもしれませんが、それはそれ。
彼の息子たちの躍進も期待しつつ、超楽しんでいきましょう。

Young Thugの過剰摂取による副作用。

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