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東ネグロス州ギフルガン市での殺害事件=第2回

 前回に引き続き、2020年8月14日にフィリピン東ネグロス州ギフルガン市で発生した、レケン(24歳)の殺害、3人の未成年者(レケンの弟、2人の女性)連行について検証します。私たち Negros Exposureは、英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMC)がdisinformation(偽情報)に関する報告書において採用した6分類を参考にして、情報が偽情報であるかどうかを考察しています。この分類は、投稿の下の方に掲載しています。

1 「8月14日」に何があった?

1-1 国軍による報道概要

 8月13日と14日に、同市サンダヤオ村マルヤやタバゴなどで国軍と共産党軍事部門NPAとの衝突が発生。14日、レケンを殺害し、レニエルを殺人未遂罪で逮捕、2人の未成年女性を救助した。

1-2 現地からの情報概要

 8月14日、同市サンダヤオ村マルヤにあるデリア・カラハサン・テニアヌの自宅で、近所に住む4人の若者が携帯電話を充電したり、電話の電波をキャッチしようとしていた。ところが、突然、同宅が国軍によって家宅捜査され、彼らの前でレケン(24歳)が国軍に殺害され、弟レニエル(17歳)が殺人未遂罪ということで逮捕され、17歳と15歳の女子が国軍のヘリコプターでどこかへ連れて行かれるという事態になった。

 保護者たちは、19日に、彼女たちが社会福祉・開発省ギフルガン事務所に勾留されていると知ることとなった。これを書いている8月30日現在、彼らは未だ同事務所に留め置かれていると思われる。

2 国軍報道のファクト・チェック

2-1 チェック(3):NPAメンバーとの主張について

 国軍は、レケンとレニエルをNPAメンバーであると言及。さらに「殺人未遂 レニエル・レマソッグ」と書かれたボードをもったレニエルと思われる写真(顔はぼかしてある)がFB上に投稿されています。これは、【分類1】「完全に虚偽」と【分類4】「ミスリーディング」に該当します。

 Negros Island People's Alternative Mediaによると、今年の3月に、レマソッグ家族は、ルス村からサンダヤオ村に引っ越してきました。レケンはルス村で、小作農民として働き、農作業のないときはバイクタクシーの運転手をしていました。レニエルは高校に通っていました。ところが、引っ越す前、レケンは国軍に呼び出されて尋問されたり、覆面をした集団に自宅を訪問されたり、挙句の果てに家を焼かれてしまい、怖くなってサンダヤオ村に引っ越してきたのでした。

 レニエルと2人の女子が国軍に連行された時、彼らが滞在していた家の家主であるデリアが一緒にいましたが、保護者や弁護人の同行は許されませんでした。つまり、保護者不在の中で、レニエルは殺人未遂罪の容疑者として写真を撮られ、それが公にされていることになります。逮捕状もありませんし、保護者・弁護人の同席もありません。捜査方法に、正当性、信ぴょう性がありません。

2-2 チェック(4):2人の女子を救出との主張について

 国軍は、NPAとの衝突の現場から速やかに2人の女子を救出しヘリコプターで安全な場所へ移送した、トラウマカウンセリングのために警察と社会福祉・開発省に引き渡したと主張しています。これは、【分類1】「完全に虚偽」と【分類2】「元情報を歪めている」、【分類5】「文脈の捻じ曲げ」に該当します。

 まず、前回のチェック(1)で述べたように、2人は武装衝突の現場にいませんでした。マルヤのデリア宅で、電話の電波をキャッチしようとしていたのです。

 現地の市民団体Save Guihulnganが8月21日に出したプレス・リリースによると、2人が8月14日に連行されてから19日まで、保護者は2人を探し回っていました。

 同月19日、保護者は2人が市内の同省地域事務所にいることを知り、迎えに行きました。ところが、ヘリコプター利用料200,000ペソ(約437,000円)を支払うまで2人を帰らせることはできないと言われたのです。

 また、2人は、怖いから帰りたくないと、帰宅を拒みました。保護者は、内容を理解できないままある書類にサインし、2人を同事務所へ残して帰宅することになりました。2020年8月28日現在、まだ、2人は同事務所にいると思われます。

2-3 チェック(5):2人の女子の証言について

 国軍は、「2人の女子が通称BIKBIK(国軍によるとレニエルの通称)と通称JAMESにNPAのメンバーになるよう誘われたと証言した」と報告しました。これは、【分類2】「元情報を歪めている」、【分類4】「ミスリーディング」に該当します。

 まず、この証言は、殺害を目撃した2人の未成年者が、国軍によって知人の家からヘリコプターで駐屯地へ連れて行かれ、保護者や弁護人不在の中でなされたものです。捜査方法に正当性も信ぴょう性もありません。また、チェック3で述べたように、レニエルは高校生であり、彼自身も保護者不在の中で殺人未遂罪の容疑者として扱われ公にされています。

 次回は私たちのファクト・チェック!によって、どのようなことがわかるのか、その分析を紹介します。

資料:国軍による投稿

Philippine Army Spearhead TroopersのFBページ 2020年8月19日10:30の投稿

・8月14日12時頃、東ネグロス州ギフルガン市サンダヤオ村Tabagoの近くでフィリピン国軍62nd Infantry Battalion(62IB)と共産党軍事部門NPAが衝突。その際、二人の未成年女性を救助した。

・同村Maluy-aでも12時に、同部隊所属の兵士とNPAとの衝突があり、CPP-NPAのメンバーが一人が死亡した。死亡したNPAはのちにRickim Remasog 21歳(Negros Island People's Alternative Mediaによると、正しくは、Reken Ramasog、24歳)と判明した。

・国軍兵士は、同様にNPAメンバーと確認さされたRennel Remasog20歳(Negros Island People's Alternative Mediaによると、正しくは、Reniel Remasog、17歳)を逮捕した。同時に、武器を押収した。

Philippine Army Spearhead TroopersのFBページ 8月17日9:15の投稿

・殺人未遂の罪状と氏名を記した紙を持たされたRenielと思われる人物の写真(顔は隠してある)がアップされている。

Brown EagleのFBページ 8月17日15:36の投稿

・2人の未成年女性は、トラウマカウンセリングのために警察と社会福祉・開発省に引き渡された。

資料:現地情報

Paghimutad - Negros Island People's Alternative Media, AFP Fake Encounter Kills Civilian, Harasses Others, August 15th, 2020.

Bulatlat, Groups call for release of minors arrested by military in Negros Oriental, August 23th, 2020.

Save Guihulngan, Press Release, August 21th, 2020.

資料:ファクトチェックの6分類

【分類1】Fabricated content:完全に虚偽である=「完全に虚偽」と記載

【分類2】Manipulated content:本来よりセンセーショナルな見出しをつける等、元情報を歪めている=「元情報を歪めている」と記載

【分類3】Imposter content:元情報のソースを別のもの(例えば信頼ある通信社のブランド)に変えている=「情報ソースの変更」と記載

【分類4】Misleading content:ミスリーディングな情報の利用(例:コメントを事実のように伝えている)=「ミスリーディング」と記載

【分類5】False context of connection:本来は正しい情報が間違った文脈で利用されている(例:見出しが記事の内容を表していない)=「文脈の捻じ曲げ」と記載

【分類6】Satire and parody:ユーモアがあるが嘘の物語をあたかも真実のように表現している(必ずしもフェイクニュースとして分類されるわけではないが、意図せず読者をだましている場合がある)=「ユーモアがあるが嘘」と記載)

英国DCMCがdisinformation(偽情報)に関する報告書において採用した6分類
(Disinformation and ‘fake news’ : Interim Report, 2018, https://publications.parliament.uk/.../cmcumeds/363/363.pdf)

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