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自分を有能で親切に見せるワザ---ジョン・ル・カレ「地下道の鳩」

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スパイ小説で有名な元MI6・イギリス人作家ジョン・ル・カレ自伝「地下道の鳩」より、ジョン・ル・カレの父であった詐欺師・ロニーの秘訣。ロニーが結婚式を挙げているとき、2人の警官が踏み込んできたが、2人とも式が終わるまでロニーを逮捕するのを待って参列してロニーの結婚を祝したそうである。またロニーが刑務所に入ったとき、看守が息子ジョン・ル・カレに父ロニーに恩人として感謝し、敬意を表する手紙を送ってきたという。ロニーは刑務所で看守をもカモにしていたのである。ロニーは世界各地を転々としていたが、通信技術の進歩には勝てず、とうとうシンガポール警察にイギリスでの過去の犯罪歴のデータを突き付けられたそうである。

 ジョン・ル・カレは父ロニーから刑務所から出るためのカネを巻き上げられたり、父ロニーの詐欺の被害者からの債務を肩代わりさせられたりするのを避けるため、晩年のロニーと距離をとっていたそうだが、父の死後、ウィーンの小さなホテルに宿泊してみたところ、高齢の夜勤ポーターから「お父様はすばらしいかたでしたよ。お父様に対するあなたの態度は失礼でした。」と静かにさとされたという。

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ジョン・ル・カレの父親ロニーの方法

何もないところからストーリーを紡ぎ出し、存在しない人物を描写(演出)し、存在しない絶好のチャンスをありありと示す。

細かい嘘で相手の判断力を奪ったり、存在しない厄介事をさも親切そうに教えたりする。

人に言えない重大な秘密を抱えているが、信頼できるあなただけには伝えることにした、と囁く。

精神的、物理的影響力をどこまでも及ぼし、抗えない魅力を持つ。

顔を広くし、歩く名刺入れとなる。

聖職者じみた態度を身に着ける。

誰かに自分の言葉を疑われた時、神聖さが傷つけられた雰囲気を醸成する。

どこまでも自分をだませる妄想力をもっている。

(ロニーの父は説教者でイギリス・プール市の市長、フリーメイソン会員、禁酒主義者だったが、ロニーに資金提供して詐欺をやらせていたそうである。)

MI6・BND(イギリス・ドイツの情報局)の方法

誰よりもうまく全知全能のふりをする。

全知のイメージの裏に隠れ、巧みに一流の振りする。

二流の情報を、入手方法のいかがわしさから価値がありそうにみせて最高の報酬を支払わせる。

ジョン・ル・カレの方法

厳格さと神経過敏の両方を身に着けて、場面に応じて片方をもう片方の裏に隠す。このやり方はドイツの事物になじむことによって身に着けた。

(相手から神経過敏な内心を隠したければ、重々しい厳格さを装う、あまり厳格に見られたくない相手、相手を油断させたほうがよい場合には、自分が神経が過敏になっているふりをする、ということだろう)

父ロニーになったところを想像して対処方法を考える。つまり父が人生で日々直面していたこんな状況に自分が置かれたと想定して、なんとか切り抜けるにはどうしたらよいか、と考えるのである。ジョン・ル・カレの記憶する彼の父ロニーなら、見事にやってのけるはずだという。スパイ学校の訓練用の演習にぴったりだという。

(要約)ニューヨークの街中にたったひとりで一文無しで立つ。利用できそうな人は全員利用しつくしてしまっている。知り合い全員からはカネを巻き上げ終えている。母国では指名手配されている。ニューヨークでも指名手配されている。偽名でアパートやホテルを何か月も転々とし続けているが、家賃もホテル代も支払うアテがない。自分と地獄との間にあるのは動物的な知恵と、毎晩自分でアイロンをかける高級なスーツだけ。さあ、口先だけでこの状況を切り抜けよう。



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