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出版と平和

魚住昭『出版と権力』は、連載をもとにした講談社・野間家についてのノンフィクション。戦前期の野間清治立志伝は『「キング」の時代』などでも知られているところかもしれない。

むしろ私が興味を惹かれ、かつ印象に残ったのは、「出版を通じた世界平和」を目指していたという野間省一第4代社長の思想であった。

他国、他民族に対する理解不足や誤解が数々の悲劇を生んできたことは歴史が私たちに示している。従って、あらゆる国が文化交流を行うべきであると思います。それは一方交通ではなく、相互交流でなくてはならないし、相互の理解無くして真の理解はありえないともいえます。
そこで、真の理解を得るための、もっとも有効で、しかも現実的なものは何か。それは図書であると私は確信しているんです。一つの出版物は、その時代、その民族の文化を示すバロメーターであるが、これは国境を越え、古今を通じての人類の共有財産となるものです。地味であるかも知れませんが、出版文化の交流は各国の人々の相互理解、人間的共感を培い育てていく萌芽となることを確信しています。
魚住昭『出版と権力』(2021年、講談社)p.617より再引用

魚住氏はこれを「省一の思想の集大成ともいうべき言葉」としている。日本出版学会の背景ともおそらくつながってきそうに思える。

外国の絵本の翻訳を授業に取り入れている同僚の先生にもちょっと教えてあげたい。本を読むということは、割と身近な、異文化を体験することだというのは歴史をやっている私もなんとなくわかる。

もっともこの作品は、その後に続けて2010年代に同じ出版社からヘイト本が出ていたという事実も、容赦なく突き付けてくるわけだが。

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