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他人を「信者」にしたがる人たち

「ミャンマーで仏教の勉強をしています」などと言うと、「では仏教徒なんですね!」と言われたり、あるいは言われなくても、当然そうであると見做されたりすることがしばしばある。こういうことは、日本特有とまでは言わないが、日本人に非常に多く見られるマインドセットではあると思う。

この種の「では仏教徒なんですね(当然そうでなくてはおかしいですよね)」と頭から決めてかかるタイプの人たちは、とくに仏教について専門的な知識を持っているわけでもないのだが、にもかかわらず「仏教徒ならば当然こう振る舞うべきである」というイメージだけは脳内に持っていることが多い。つまり、「では仏教徒なんですね」という決めつけは、「ならばあなたは私が脳内に抱いている『仏教徒』のイメージどおりに振る舞うはずですよね」という確認と、表裏一体になっているわけだ。

もちろん、私自身はそんな他人の勝手なイメージに合わせて自分の振る舞いを規制するなんてまっぴらごめんだし、実際にもとくに「仏教徒」であるというわけではないから、その種の人たちに対しては「いいえ、私は『仏教徒』では必ずしもありませんよ」と釘をさす。

そして、必要であれば、「ニー仏(neetbuddhist)」というのは「ニートの仏教徒」の略ではなくて、「ニート仏教の徒」を意味すること。「ニート仏教」というのは私の信仰している「信者のいない、一代限りの宗教」であり、それはいわゆる「仏教」とは別物であること。私自身は、仏教に一定のシンパシーを抱いているが、そこで語られていることが全て正しいと思っているわけではないし、ゴータマ・ブッダと理想を共有しているわけでもないし、多種多様に存在する「仏教」の中で、特定のセクトに強くコミットしているわけでもないこと。そして、それはキリスト教やイスラームなどの他宗教や、哲学や自然科学などに対しても同じであり、仏教を含む既存の思想体系のどれについても、無批判に全てを正しいと見做す態度を私はとるつもりがないこと。そういったことを、懇切丁寧に説明する。

しかし、それで納得してくれる人(もちろん多くいる)はいいのだが、中には「うーん、でもそれだけ勉強も実践もやっているからには、やはりあなたは仏教徒なんでしょう」みたいなことをしつこく言う人もいて、その種の人たちの相手をするのは本当に疲れてしまう。まるで、私が「仏教徒」でなかったら、彼らに何か具体的な不利益でも生ずるかのような頑なさなのだ。

不思議なのは、そのように「お前は仏教徒に違いない」と言いたがる人たちというのは、なぜか必ず「僕には立場がないんだ」と強調したがるということである。自身に仏教徒なりキリスト教徒なりの立場があって、その上で「あなたにも立場をはっきりしてほしい」というのであれば、まだわからなくもないのだが、「僕には立場なんてものはない。だけど、君は仏教徒に違いない」というのが、彼らが常にとりたがるお気に入りのポジションなのである。

端的に言えば、「自分は規定されずに他人のことだけ規定したい」というのが彼らの望んでいることであるのだが、そんなナイーヴな要求が他人にそのまま受け入れられると発想できる神経が、私にはどうにもよくわからない。

たしかに、「他人に自己を勝手に規定されたくない」という気持ちであれば、上述のように私にもふんだんにある。ただ、私は自分がそうである以上、他人のことも勝手に規定しないように気をつけようと思っているし、実際、ミャンマーに仏教を学びに来ている西洋人などと話をする時は、「君は自分が『仏教徒』かどうかなんて、どうでもいいことだと思っているんだね。僕も全くそう思っているよ」で、話が済んでしまう。そこで、「いや、でもやっぱりあなたは『仏教徒』なんでしょう? そこは認めてもらわないと困る」などと、わけのわからないことを言い出すのは、たいていは日本人だ。

おそらく、その種の日本人たちは、他人のことを「信者」にしてしまいたいのだろうと思う。いつも言っているように、現代日本において、「信者」というのは基本的に悪口である。そのような一般に低く評価されているポジションに他者を無理やり押しこめつつ、同時に「僕は信者じゃないから」と言いつのることによって、彼らは自分が、何か「高い視点」を得られたような気分になるのかもしれない。

もちろん、そのように自己が無自覚に有している何かしらの価値体系を、盲目的に他者に押しつけて安心しようとすることは、まさに一般に批判されている「信者」的行為そのものなのだが、彼ら自身にはやはりそういう自覚はないようなので、いつも嘆息している次第なのである。


※今日のおまけ写真は、修築中の大仏。こういう保守管理には、ミャンマーの人たちはとても熱心です。

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