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課金という形態のモラル

MODへの課金誘導

Fantiaやpixiv Fanbox、その他大勢の個人スキル販売ショップ。自作コンテンツを頒布できる場や、埋もれている個人のスキルを活用してもらって代金を頂く――聞こえはいい。しかし、世はなんでもかでも課金に転化されていく。この手の資本主義には節操がなく、無分別なままだ。国内では相変わらず、ソーシャルゲームにおける課金誘導が一番分かりやすい。

いま、ゲームのMODが有償化されていく過程を目の当たりにできる。MODとはゲームへのModification、つまり「改造」のことを広く表す言葉で、改造されたコンテンツの類いをMODと呼ぶ。

ベセスダが販売するStarfieldは約100ドルという高額な値段設定にもかかわらず、内容が20年は旧いオープンワールドゲームだったことで、SkyrimやFalloutで有名な開発元(ディベロッパー)としての評判を一気に失墜させた。その社が、StarfieldのMODを自在に作成することを補助するCreation Kitを、これまでのように無償ではなく有償で、6月10日から配信しはじめた。

しかも、15分程度で解決する追加コンテンツに7ドルの値段をつけた上で。

同人誌即売会化していく課金

これまで、MODの類いは無償で提供されることが文化だった。MOD開発に携わるModderはそのスキルの代償を、有志として栄誉でのみ受けてきた。MODコミュニティは将来のゲーム開発を目指す求道者や純粋なホビイスト、あるいは現開発者でさらに待遇のよい求職先を探している人々ら作り手と、MODを使うだけの消費者からなる集まりで機能している。

公式にサポートされたMODがコンソール(※)で遊べるようになった利点と裏腹に、Modderに現金化の手法を提供すると共に、手数料を徴収するという新しいビジネスモデルが発表されたことになる。
 ※プレイステーションなどゲーム機を指す一般的な呼称

これは即売会でしか購入できなかったはずの同人誌がネット上で頒布されるようになり、取り扱う大手業者が手数料を取るというビジネスモデルと同じに見える。

社会倫理という企業コンプライアンス

一方で、同人誌や同人ビデオ、同人ゲームが内包する課題には、成人向けコンテンツという影響力が挙げられる。漫画やイラストが記号と認識されるうちはいいが、現実を描写可能な身体性がある場合には、頒布者や作り手にはそれ相応の責任が課されるという見方だ。

ゆえに米国での判決を重く捉えたクレジットカード大手は、公共性をより大きく認識し始め、日本国内の成人向けコンテンツを扱う業態からは手を引く動きを見せているか、あるいは表現の自由を奪いかねない修正義務(※)を負わせるようになってきている。
 ※問題と見なされる言葉を検閲して直すよう要求し、交渉が決裂すると手を引く――ひよこババア事件。

社会正義が表現の自由にどこまで立ち入るべきかという問題でもあると同時に、モラルの目が日本の成人向けコンテンツに向けられているという喫緊の共通認識であることを悟らないといけないだろう。成人向けコンテンツとして、日本では厳格に運用されているとグローバルで認めてもらう必要がある――だからこそ、表現の自由を奪うような暴挙は控えて頂かなければならない。一般の目には触れないゾーニングの運用で通っている、と。

話を戻すが、MODの有償化によってModderコミュニティには変化が訪れると思われる。また、MODおよびModderへの対価の支払いを歓迎する立場以外に、(有償DLC、Microtransactionに続いて)商慣行を再び変えてきたパブリッシャーのモラルを指摘できる。

ベセスダは開発者(ディベロッパー)であると同時に、マイクロソフト傘下となったことで、大手パブリッシャーの意向を助長しなければならない一員でもある。

哲学者のマルクス・ガブリエルは、倫理資本主義 co-immunism を唱えていて、収入の増加ではなくモラルの進歩を目指すべきだとしている。つまり、日本でも言われている「企業コンプライアンス」という考え方のモラルを重視した先の、普遍の倫理的協調性から成り立つ生産者/販売者の形態を言っている。

企業利益だけを追求するパブリッシャー

高騰化する開発費に対して、ゲームソフトの価格は安すぎるのだろうか? 不出来具合で酷評を受けた内容は、消費者が望む効率的な費用対効果の開発がなされなかった結果でもある。そこにパブリッシャーが付けた値段を妥当と測るのは極めて難しい。

Starfieldの場合であれば、旧いゲームエンジンによるローディングの頻発は、そもそもの企図からして悪手であったことを意味する。そうした次世代エンジンの研究開発に手を抜いた作品が約100ドルの価値を持つのだろうか――Unreal Engineのライセンス供与を受けることだって可能だったはずだ。そして、新手の有償MODによるビジネスモデルである。

短期的な企業利益のために有償MOD政策を推すのであれば、パブリッシャーにはその理由を説明する義務がある。それが企業モラルに反していないかどうかを。Starfieldの影に隠れたマイクロソフトという巨人の商振る舞いには今後も注意しておくべきだろう。

とはいえ、費用対効果の高い開発を行えるようにすることが、駄作を世に出した作り手が反省して着手する最初のことかもしれない。少なくとも、どの判断が間違っていたかを内省して指摘するリーダーシップは必要だろう。社内にそれができる者がいないなら雇うべきだ、Todd Howard。

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