見出し画像

知財業界での教育 知的財産管理技能検定2級受験の理由と勉強法

2024年の弁理士の日記念ブログのテーマは、「知財業界での教育」です。
 私が2023年の春に知的財産管理技能検定2級を受験した理由と、約3ヶ月の試験勉強で合格したときの勉強法を紹介します。

1.知的財産管理技能検定2級とは

 知的財産管理技能検定は、技能検定 の中の「知的財産管理」という職種に関する国家試験で、2級は「知的財産管理の職種における中級の技能者が通常有すべき技能及びこれに関する知識の程度」とされています(知的財産管理技能検定ウェブサイトより引用)。
 過去の試験問題を見て、企業の知財部や知財担当者に必要な知識を試す問題が出題されているように思えました。

2.知的財産管理技能検定2級受験の理由

(1)知財の専門的な知識を身につけたかった
 私は特許法の条文は、特許の仕事のルールブックであると考えています。
 私の仕事は特許調査ですが、知財の仕事である以上、特許法の条文という特許の仕事のルールを理解することで、より適切な仕事ができると思い、特許法を中心に知財の条文や制度をより深く学ぶことにしました。

 実際、特許法の条文に特許調査で役に立つ知識が書いてあります。
 例えば、

① 特許調査の対象となる「発明」とは何か?(特許法2条1項)
② 出願前先行例調査で抽出すべき公報は何か?(特許法29条1項各号、同条2項、39条)
③ 無効資料調査で拡大先願を含めた調査を行う場合、拡大先願となり得る公報はどのようなものか?(特許法29条の2)
④ 侵害予防調査(クリアランス)をするとき、公報の「発明の詳細な説明」の記載のみを考慮して公報を抽出してはいけない理由は何か?(特許法70条1項)

 などです。

 無資格のサーチャーは弁理士法75条に抵触する鑑定等の業務はできませんが、クライアントである弁理士さんや知財部の方へ、特許制度に基づいた最適な調査結果を得るための検索やスクリーニングをする必要があると考えていました。
 そのため、特許制度を中心とした知財の制度について学ぶ必要性を感じ、知財の学習の一つとして知財管理技能検定2級合格を目指しました。

(2)弁理士試験の学習のための基本的な知識と学習の習慣の取得
 弁理士試験の受験を考えていたものの、自分がどの程度知財の基本を理解しているのかがわからず、また講座についていける自信もなく、弁理士試験の講座を受講する前の予習を兼ねて、知財管理技能検定2級の受験とそのための学習をしました。
 弁理士試験を受験するという前提で知財管理技能検定2級の学習をするため、テキストや過去問集だけでなく、条文集や逐条解説なども使って学習をしました。

2.教材と文房具
(1)教材
① テキスト
 内容を確認して、自分に合ったテキストを選ぶと良いと思います。
 法改正等がありますので、必ず最新版を買ってください。 

② 過去問集
 過去問は知財管理技能検定サイトで公開されていますが、過去3回分しか公開されないので市販の過去問集を使うと良いでしょう。
 私は「知的財産管理技能検定2級厳選過去問題集」(2024年7月1日現在の最新版は2024年度版)を使いました。

③ 条文集
 法改正があるので、必ず最新版を購入してください。
 発明推進協会とPATECH企画から出版されていますが、使いやすさや購入のタイミングを考えて選ぶといいでしょう。

③ 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説(最新版は第22版)
 いわゆる青本ですが、PDFを無料でダウンロードできます。
 私はダウンロードした逐条解説をスマホのPDFリーダに入れて、いつでも読めるようにしていました。

④ 令和5年度著作権テキスト(文化庁)
 知財管理技能検定2級は著作権の問題が多いので、「著作権テキスト」があると便利です。
 文化庁のウェブサイトから、無料でPDFをダウウンロードできます。

⑤ 逐条解説 不正競争防止法(経済産業省 知的財産政策室編)
 2024年7月1日現在の最新版は、令和6年4月1日施行版です。
 PDFを無料でダウンロードできます。

(2)文房具
① ボールペン
 弁理士試験の受験とそのための学習を想定し、文房具店で持ちやすくて書きやすい3色ボールペンを購入しました。
 ずっと一緒にいたい、お気に入りのボールペンを探すのも知財の学習の楽しみの一つだと思います。

② 蛍光ペンセット
 条文集にマーキングするため、5色くらいの蛍光ペンのセットを用意することをおすすめします。

③ ノート
 気に入ったノートを用意してください。

3.勉強法
(1)受験までの勉強期間
 受験を決意してすぐに申し込み、試験まで約3ヶ月間の勉強期間でした。

(2)テキストを読む
① テキストの通読
 最初にテキストを全て読み、試験の範囲や内容の把握をしました。
 わからないこと、詳しく知りたいことが書いてあるページを見つけたときは、付箋を貼っていました。

② わからなかったことを理解する
 ①で付箋を貼ったページに書いてあることを確認し、条文と逐条解説を確認していました。
 条文はキーワードを蛍光ペンでマーキングし、三色ボールペンの黒、赤、青を使い分けて条文集やノートにメモを書きこんでいました。
 テキストにメモを書きこまなかった理由は、弁理士試験の受験を想定していたためです。知財管理技能検定2級のテキストは知財管理技能検定2級の受験が終われば使わなくなるので、弁理士試験の学習でも使うノートや条文集にメモを書きこみました。

③ ひたすら過去問を解く
 問題文を音読、選択肢も読み上げて、各選択肢について〇か✕かで回答。
 わからない問題や間違えた選択肢に目印をつけていました。
 答えを間違えたら、不正解1問につき腕立て伏せを10回して、問題集の解説と条文、逐条解説を確認。条文のキーワードを蛍光ペンでマーキングして、メモを書きこんでいました。過去問で筋肉も鍛えられる学習方法です。

4.知的財産管理技能検定2級と弁理士試験(短答)の出題範囲の違い。

 弁理士試験の短答は、特許・実用新案、意匠、商標、条約、不正競争防止法、著作権法から出題されるのに対し、知的財産管理技能検定2級は特許・実用新案、意匠、商標、不正競争防止法、著作権法、種苗法、民法に加え、特許調査(IPランドスケープ等を含む)が出題されます。

 出題範囲が広いように思えるかもしれませんが、テキストや過去問に書いてあることを中心に「基本的なことを広く浅く」学習すれば問題ありません。逆に言えばテキストや過去問に書いてあることは十分に学習した方がいいと思います。
 ただし著作権は問題数が多いので、前述の文化庁の「著作権テキスト」も使いました。

 もし余裕があれば、特許・実用新案、意匠、商標は、逐条解説で趣旨を確認しておくとよいでしょう。
 私が受験したときは 不正使用取消審判(商標法51条)による商標取消が制裁規定であるか否かを問う問題が出題され、その答えは商標法逐条解説に書いてありました。

 民法と種苗法は、テキストのみで学習しました。
 特許調査(IPランドスケープ等を含む)は、調査の考え方の基本を問う問題が中心で、特許検索の経験がなくても特許調査の内容とポイントを抑えておけば解ける問題だと思います。

 なお、第49回の知的財産管理技能検定(2024年11月17日実施予定)より、1級及び2級の試験範囲が拡充され、「経済安全保障推進法(第5章 特許出願の非公開)」が出題範囲に追加されます。
https://www.kentei-info-ip-edu.org/exam/scope.html
 経済安全保障推進法は、弁理士試験では出題されません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?