漫画をSNSでプロモーションする方法

こんにちは漫画家の根田啓史です。

電子漫画取次のNO.9が主催する「漫画家ミライ会議」なるものに出演したのですが、そこで

「漫画をSNSでプロモーションする方法」

と題してお話させていただきました。

総括するにはまだまだ発展途上だし、僕より経済規模の大きな作家さんも沢山いる中、偉そうに語っていいのかなという感じもあって、

だから、主語を小さく「僕はこうやっていて、こういう結果になっている」という一つの事例的な感じで見ていただけると助かります。


と、予防線張りつつ、そこで話したことを記事としてまとめましたので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。


僕の経緯

主語を小さくしましたので、前提になる自分のいきさつを少し紹介します。

僕は2017年、web雑誌ジャンプ+での連載を終え、次の活動について二つの方針を立てました。それは

・商業でやるなら週刊少年ジャンプ一択

・それ以外だったら個人発信に切り替える

というものです。


それまで活動方針を立てる時、どうやったら漫画が面白くなるかとか、どんなジャンルやキャラ描けば売れるだろうかとかを悩んできたのですが、

初めて、根本的な部分での方針転換を考えました。

それくらい内容どうこうより、業界の座組自体に摩擦を感じていたからです。

(そこについては業界最適化をテーマに書いた以前の記事がありますので、良ければ読んでみてください)


ジャンプか独立かは生存戦略としては全く逆で、選択にとても勇気が要ったのですが、個人発信の市場が急成長していて、このままいくと参入するハードルがどんどん上がって、結局ポジショニングがジャンプ連載と同じくらい難しくなる事が予想された一方、

ジャンプ連載のハードルはもうこれ以上上がらないと思ったので、意を決して個人発信に切り替えてみました(普通に会議落ちたのも大きいですが 苦笑)。

そこから一年間は、個人発信でどうやって生き残っていけばいいのか試行錯誤して、なんとなく肌感が掴めてきた気がして、2019年の夏頃から今の座組でやっています。


具体的には、Twitterを活動の中心として、漫画づくりをしながら、各エージェント会社と協力して漫画のコンテンツ化をしています。

やっていることの流れ自体は、結局商業でやってることと変わらないんですよね。。。全部自社内組織でやるか、個人×各外部小組織で再現するかの違いです。

決定的に違うのは著作権の帰属場所で「会社に渡すか、市場に返すか」なのですが、それは論点ずれるので、詳しくはまた別の機会に話せたらと思います。

産業構造は以下の感じで代替できます、

連載会議→Twitter4P漫画投稿

連載→各インディーズweb漫画雑誌掲載・電子書籍販売

自社プロモーション→SNS運用

自社単行本化・コンテンツ化→各エージェント会社委託

さすがにジャンプほどではないですが、SNSと電子化のおかげで、個人発でも商業ベースに遜色ない規模で展開できるようになりつつあると考えています。

結果として、2019年の夏の時点で、Twitterフォロワー数は2.7万人くらいだったのですが、

2020年12月現在で、フォロワー数は13万人まで増やすことができ、

「異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話」というタイトルで、

電子書籍の実売累計2.5万部、

youtubeアニメ化、

角川のレーベルから紙媒体の単行本化

をすることができました。

今後もスケールアップしていって、

実売累計30万部、各媒体とのコラボレーション、ゲーム化、テレビアニメ化など目標に活動を続けていけたらなぁと考えています。


これが、ざっくりとした僕の紹介です。

ではここから、僕が具体的に取った施策や思想について、もう少し詳しく書いていきたいと思います。


主戦場にするSNSを決める


SNS運用上、最も大切だと思うことは、苦なく運用を続けられるということです。

アクティブユーザー数が多いとか、ECが充実しているとか、漫画雑誌とUIが近いとか、色々判断基準があると思うのですが、それらを全て天秤にかけても、日常的に使っていて負担を感じないSNSを選ぶべきだと思います。

何が自分に合っているかよく分からないって人は、まずは適性を測る所から始めた方がいいかもしれません。

僕は、TwitterのRT機能に惚れ込んでいて、絶対Twitterを使いたかったのですが、SNSがそもそも苦手で、自分が運用始めるにあたって、正直恐怖感しかなかったです。

だから2017年から一年ほど、匿名アカウントで自分の適性を測るために毎日呟いていました。結構インフルエンサーの人に絡みに行ったりして、どうやったらリアクション引き出せるのかとか、どんな文化コードが存在するのかとか、研究していきました。。。

それを通してTwitterの好きな部分をいっぱい見つけることができて、自分が続けられて、且つTwitterに馴染めるスタンスをある程度見つけられたような気がしています。

裏垢のフォロワーは数十人でしたが、フォロワーが10万人に増えても、ほとんど同じテンションでやっています。

周りの人からは、もっと漫画家のアカウントっぽくすればみたいに言われることも多いのですが、一番続けやすいスタンスをとることが大切だと考えているので、相変わらずそういう使い方をしています。関係者各位、すみません、、、


因みに、運用媒体を増やすのは、主にしたSNSの運用がうまくいってから少しずつ広げていくべきだと思います。

個人のリソースは限られていますので、同時展開しても分散してなかなかうまくいきません。

独立したての頃、6つくらいSNS同時やってたのですが、マジで無理でした。

勿論一つのSNSに頼りすぎるのは、長い目で見たらリスクにもなりえるのですが、まずは一つしっかり足場を作ってください。


プラットフォームに合わせた漫画づくりとプロモーション


さて、自分が苦にならないSNSを見つけたら、次はローカライズです。

雑誌ベースに合わせて作っていた漫画をただSNSに転載しても効果が薄いです。プラットフォームの仕様や文化を感じ取って、そこに合わせた展開を考えていく必要があります。

自分の中では、言語の違いと性質が似ているなと思っています。

外国語、勉強しないとコミュニケーションすら取れませんし、勉強してコミュニケーションできるようになっても、現地で店を構えるとなるともっともっと理解に深度が必要ですよね…。それと同じくらいSNSによって事情は違います。

僕はTwitterの事しかあんまり分からないので、Twitterでの具体的な施策を話します。

☆4ページ以内の漫画

マジで大したこと言ってなくて申し訳ないのですが、Twitterの性質上漫画は4ページ以内で書くべきです。

ツリー形式で投稿することも可能なのですが、4ページ漫画を10本投稿するのと、40ページの漫画を1本投稿するのでは、全くパフォーマンスが違います。

最近Twitterで漫画を読む文化が浸透してきて、ツリー形式の漫画も読まれやすくはなってきているという話もあるのですが、今の段階では僕はまだ4ページ以内にするべきだと思っています。

ただ、4ページで大作は書けません。

だから、先ほど「連載会議→Twitter4P漫画投稿」と代替したのですが、そこの意識が大切だと思っていて、僕はTwitter4ページ漫画をコンテンツ全体の設計図のようなつもりで作っています。

「バズりやすいか?」どうかよりも、「コンテンツ化に耐えられるか?」の方を重要視しています。

・キャラクターデザインはコンテンツ化に耐えうるか

・主人公の目的ははっきりしているか

・サブキャラや横軸の展開方法が想像できるか

そういう所を意識して、そこが伸びしろとして提示できる4ページを心掛けています。


そうすると、様々な業界の人がSNSにはいますので、結構色んな話が舞い込んでくるようになります。今、こんなにクリエイターがいて漫画も多いのに、なぜかコンテンツ不足な雰囲気があって、ゲーム化や雑誌連載、youtubeアニメ化などの話まぁまぁいただくようになりました。

しかも実際の感触として、バズってるかどうかよりもコンテンツ化しやすそうなものに話が来るなと感じています。個人的な感触ですが…。


☆関係性を常に念頭に置く「RT」

Twitterの真髄はRTです。

自分のフォローしていない(現状興味を持っていない)人のツイートが強制表示される悪魔の機能。。。

今まで漫画雑誌が莫大な広告費を掛けてやっていたことが、人差し指でできてしまう世の中になりました。

ていうか、テレビCMや駅ナカ広告よりも強いと思っています。自分の興味持っている人(フォロー先)からの紹介になるので、、、何の気なしにターゲティングされてしまっています。

それを代理店などを介さずにできてしまうのは、結構革命的だと思います。

ただ、経費フリーかというとそういう訳ではないです。フォロワーの時間や信用を消費していますので。そこがRTの難しいところです。

ただ、すごいシンプルな気持ちがその解決になると思っています。


それは周囲の人たちを「楽しませたい」とか「喜んでもらいたい」とか「分かち合いたい」という気持ちです。

それが共有できる人とは関係性が維持されるし、共有できない人とは関係性が薄くなっていきます。Twitter上の関係性はほとんどそれで説明できる気がします。

それを繰り返すことで関係性の疎密が生まれ、場にある種の強度が生れていきます。

僕はその人の疎密と関係性の強度の塊を「仮想の雑誌」のように思っています。

だから僕はRTをとても重要視していて、自分がどんな雑誌でどういう立ち位置の作家になるかを考えるような気持ちでRTしていますし、

RTのハードルが低くも高くもなり過ぎないように気をつけています。


(追記)自分のコンテンツのプロモーション100%に絞りたいのであれば、RT機能を使う必要はありません。その方がコンバージョン率もめちゃめちゃ高くなると思います。ただ、やはり場としては成長しづらいです。自己コンテンツ一本で雑誌を創刊するようなものなので。しかも将来軸足を変えるのがめちゃくちゃ難しくなります。そのコンテンツと始まり、共に終わっていく覚悟してる方以外にはお薦めしません。


☆再掲載・再告知を恐れすぎない

最近(再掲)とついている漫画ツイートも増えてきました。少なくともTwitter上で再掲載は恐れる必要はないです。

フォロワー数万人規模のアカウント運用されてる方は分かると思うのですが、ツイート時間帯のアクティブユーザーって10~20%だと思います。

TLは高速で流れていくし、皆常にTwitter開いてる訳ではありません。インプレッションの見た目の数字は同じくらいでも、中の人たちは彼らの生活サイクルによって全然違っています。

ちょっと乱暴な数字の切り方ですが、別々の時間帯に全く同じこと5~10回投稿して、やっとフォロワー全員に伝わるレベルだということです。

だから、再掲載や再告知は恐れすぎない方がいいです。

あんまりしつこくすると、確かに「うっ…」てなることあるかもですが、定期的な再掲載、新刊発売の時の告知の繰り返しは頑張ってやってみてください。

同じ理由で、日常ツイートとかも適度にした方がいいと僕は思っています。

皆すぐ忘れます。でも適当にTwitter開いた時に呟きがTLにあれば思い出すきっかけになります。「あ、この人最近どうしてるのかな」と思ってプロフィールクリックした経験ありませんか?


余談ですが、

僕は今、全10話の4ページ漫画を年5本作るのを目標にしています。

一年は50週で、それを毎年、毎週一話ずつ再掲していけば、アカウントのコンテンツ増強になるし、再掲してる間に、新しい事にチャレンジする時間が作れるので。

一作を50話ではなく、五作を10話にしているのは、僕は新しい事をやるのが好きなので、軸足を変えやすい環境をつくるためと、

他の人との共同企画などで、漫画を載せる枠としてアピールできるからです。10週分くらいなら、コラボ漫画とか載せててもそんなにアカウントに影響ないと思うので。

異世界妹のような、長く大きくやるタイトルで独立系の大きな成功例を作る一方で、10話使ってコンテンツの設計図をどんどん作って、小さなIPの作り方も見せていけたらなと思っています(どっちもただの夢ですが)。


☆「続く」がポイント

これは「100日後に死ぬワニ」以降の現象だと思ってるのですが、Twitterに「続く」という概念が生まれました。

このアカウントフォローすれば、続きが見られるということです。

これって、ちょっと考えれば分かることではあるのですが、ものすごいスピードで情報が流れるTwitter上では、きちんと「続く」と書くのと書かないのでははっきりと明暗が分かれます。

一般的にプロフィールクリック数がフォロワー増と相関があると言われていますが、それより遥かに強いです。

実データじゃなくて申し訳ないのですが、同じプロフィールクリック数でも「続く」や「○○まであと何日」の有無では、体感として3倍くらいフォロワーの増え方が違います。

えー…と思うのですが、それくらいTwitterの仕様で、情報はぶつ切りになってるってことです。

同じ理由で「終わり」とか「最終話」は入れない方がいいです。以前「最終話」と入れたらその日フォロワーが数百人減ってびっくりしました。最新話公開したのに、フォロワー増えるどころか減ってしまうのは単純に損失です。

よく考えると読者の人にも失礼なんですよね…。好きで見てたのに、一方的に世界を終わらせられたら辛いです。。。

ストーリーとして区切りつけたとしても、ちゃんとこの世界は続いていくっていう安心感を伝えてあげてください。実際に続き描く機会は沢山あると思いますし。


☆告知の仕方

外部リンク貼る時は、画像用意した方がいいです。

Twitterの仕様上リンク先のサムネイルが出る時と出ない時があって、サムネイル出ないとなんだかよく分からないので。。。

また、告知文は簡潔な方がいいです。

リンクや画像をクリックするのが目的なので、告知文が長いと見た人に負荷がかかって、読み飛ばしたり、そこで満足してしまうので。

そして、クリックすると結果が分かるような文面にしておくことも大切です。


プロデューサーの重要性


ここまで読んでくれた人いますか!?

結構長くなってしまいました。

これが、こんなに長くならないために、プロデューサーが必要だと思っています。

プロデューサーというのは、

クリエイターや作品の本質的な価値を見極め、

需要を最大限引き出し、

最大効率でそれを流通させる、

を提案してくれる人です。

そして、その三つをできる人が今マジで少ないです。。。

昔は出版社がその役割を果たしていたのですが、雑誌→単行本→書店という流通の黄金経路が揺らいでる今、全然上手にできてないというのが自分の印象です。

当時はその黄金経路が完成され過ぎていて、もはや「面白いか面白くないか」くらいしか差別化するポイントがなく、未だに編集者たちは「漫画を面白くするにはどうすればいいか」ばっかり考えている印象なのですが、

今はその流通経路が壊れてきているので、面白い如何よりも、「どう売るか」の方がよっぽど大きな問題になっていると思っています。

鬼滅の刃とか君の名は。とかFGOとか、最近モンスターコンテンツに成長したものって、全部プロデューサーが良い仕事してるなと思っています。あくまで個人的な見解としてですが。。。


僕は今、「異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話」というタイトルで、No.9の小林さんにプロデュースを依頼しています。

小林さんは敏腕で柔軟でパワフルなビジネスマンです。

編集者はメンタルマネジメントが得意な人が多い印象で、商売がうまい人と組めたのはとても新鮮でした(本人はマネジメントや企画立案も得意なんだけどな…とか言いそうですが)。

プロデューサーというと、Nizi Project的な熾烈なオーディションで選ばれた金の卵たちと鬼P的なものを想像してしまいますが、

もっと小さいスケールの話です。

一つ一つの企画で、これはどんな風に売っていったら、一番効果があがりそうかを話し合うパートナーというか。。。

雑誌連載して単行本出して売れなかったら打ち切りで、作家も会社も赤字…みたいな悲劇を減らして、単行本出さないけど、イベントと支援サービスで食っていけるとか、、、

そういう、漫画にまつわる仕事で食っていくための座組を組んだり、そのアイディアを出してくれる人が今とても重要だと思っています。


入口づくりする人の重要性


プロデューサーと同時に、大切だなと思っているのがポータルやハブ、

つまり作品や人を繋いでくれる存在です。

Twitterにはこの方がいらっしゃいます。

最近、ステッカーに僕の絵を使って頂いているのですが、それは僕がこの方に重要性感じまくっていて、

元々使っていた保健室の死神のステッカーを使うのを止めるとの宣言があった時に勢い余って寄稿したものです。。。まさか使ってもらえるとは。

有志でこんなことしてくれているなんてマジでTwitterの宝なので、みんなもっと感謝した方がいいのにといつも思っています。

もはや一つのネットミームであり、メディアでもあると思っていて、Twitter漫画市場と一緒に成長していく分野だろうと思います。

しかも最近アーカイブ機能まで作ってくださっていて、民主的な座組で業界が習熟していくのは、個人的に好みなので、見ていて楽しいです。


僕も、Twitterで漫画以外の情報をRTしたりしているのはそういう目的もあって、色んな業界の人に漫画家として関わっていくことで、他業種と漫画業界を繋ぐ役割できないかなと常々思っています。


以上、

長くなりましたが、「漫画をSNSでプロモーションする方法」と題して、自分の思っている事や活動についてまとめさせていただきました。

うまく整理できたか分かりませんが、皆さんの活動や興味のお役に立てたらなと思います。

今後ともよろしくお願いします。頑張ります。

それでは。

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