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【ブラックメタルの話】ポーランドのカルトバンドLegionとMysteriesについて

 フィンランドのブラックメタルバンドSatanic Warmasterが来日する前にNSBM(National Socialist Black Metal)ではないかと批判され、そうではないと声明を出していたのだが、その後の来日ライブで中心人物であるWerwolf御大が着ていたバンドTシャツがポーランドのNSBMバンドLegionのTシャツと、なかなかパンチの効いた不謹慎さだったのだが気付いた人はいるだろうか。今回はそのLegion周辺のバンドについて紹介したい。

 まず、Legionというメタルバンド自体、世界中に存在しておりThe Metal Archivesで検索すると、数え間違いがなければ解散したバンドも含め41、The Legionを含めると全部で43バンドあった。別ジャンルも含めるとおそらくもっとあるのではないだろうか。そんな世界中に存在するLegionだが、ここで取り上げるのはポーランドのブラックメタルバンドである。ちなみに、ポーランドには過去にLegionと同名のデスメタルバンドも存在していたらしい。ネットが発達してなかった当時は致し方ないにしても、これからバンド名を決めようとしている方々は一度Googleで調べるようにしてほしいと思う。

◆ポーランドのLegionとは

 LegionというバンドはGravelandやInfernumで活動しているRob Darken、同じくGravelandやInfernum、Thor's Hammerなどで活動しており、現在は薬物中毒でシーンから去ったCapricornus、VoのLeinadにより結成された。ノルウェーの悪名高きインナーサークルのポーランド版と言えばイメージしやすいだろうか、ポーランドのNS思想のブラックメタルバンドが集まったTemple of Fullmoonというサークルに所属しており、作品は1994年にデモテープを一枚残している。

 このデモは現在、Blood on My KnifeというタイトルでポーランドのNSBMバンドVelesのデモとカップリングされた盤と、同じくポーランドの異教をテーマにしたダークアンビエントPerunwitのデモとカップリングされた盤があり、どちらも再発の際のリマスターによる違いはあれど同じテイクなので、興味があれば好みの方を買ってみてほしい。

 Blood on My Knifeの内容は、劣悪な音質で初期衝動溢れる初期BURZUM系のプリミティブなブラックメタルをベースとして随所にエピックなメロディが入る楽曲に、Capricornusのお世辞にも上手いとは言えないタッタカタッタカといった感じ~ブラストビートのリズムとRobによる薄く被せたチープなキーボードの和音白玉が合わさるという90年代のTemple of Fullmoon周辺バンドらしい内容であった。特筆すべきはLegionのVoで、絶叫系の奇声を中心に不気味な笑い声が入ったりする発狂系であり、今でこそ珍しくはないが年代を考えるとかなり異質な存在だったのではないだろうか。


◆Leinadが参加していたMysteries

 ここまではブラックメタルのマニアにはよく知られた内容だが、今回はLegionのVoであるLeinadが在籍していたMysteriesというバンドにもスポットを当てたい。MysteriesはLegionとほぼ同時期の92年から95年にかけて活動していたらしく、こちらもLegion同様にデモしかリリースしていなかったバンドである。近年、90年代のポーリッシュブラックメタルの再発ブーム(?)なのか、ポーランドのアンダーグラウンドなシーンでデモテープのみ残して解散したようなバンドの音源再発が多く、幸いこのMysteriesもその流れに乗れたことでようやく日の目を見ることとなった。Mysteriesは今まで再発がなかったためオリジナルの入手が難しいのはもちろん、海賊盤のレコードもプレミアがついていたので、自分もこの再発によりようやく手に入れることができた。

 今回の再発はIn the Dark and Sodomyに94年のリハーサルデモをカップリングしたものと、Promo '94の音源で、この二枚でおそらく全ての音源を聴くことができると思われる。どちらもLegion同様、初期Gravelandと初期BURZUMをお手本にしたかのような楽曲であった。(もう想像はつくかもしれないが)幽霊の正体見たり枯れ尾花とはよく言ったもので、あれほど喉から手が出るほど欲しかったレア音源もいざ再発され聴いてみるとあまり褒められた内容ではなかったし、実際、再発後にメタルアーカイブスでもレビューが投稿されたがあまり高いポイントではなかった。

 そうは言ってもブラックメタルは(今となってはサブジャンルが多岐にわたり一概には言えないとはいえ)、商業などに対するアンチテーゼとして意図的にローファイなサウンドにしているバンドがあることから、多少演奏に難があったり、デモ音源のローファイなサウンドでも許容できるリスナーが多いという土台があるうえ、Mysteriesは荒々しい初期衝動と禍々しさ、バンドを取り巻くカルトな要素が相まって、ブラックメタルの原始的なカッコよさを感じることができる。もし、LegionかMysteriesがフルアルバムを一枚でもリリースしていたらInfernumのように短命だったが名盤を残したといった扱いを受けられたかもしれないし、LeinadのVoの特異さから発狂系Voの名盤の一つに名前を連ねたかもしれないが、残念なことにMysteriesもLegionも解散しており、Leinadも交通事故でなくなっているため、それは叶わぬこととなった。

◆最後に

 ここまで読んだ奇特な人に忠告すると、近年掘り返されて再発されているポーランドのアングラバンドのデモ音源は玉石混交というよりほぼ石ころみたいなクオリティなのに、ポーランドのレーベルはRIP-OFFが多い(過去にWitching Hour Prod、Hellfire Rec、Batushkaの公式ショップからRIP-OFFを受けた)ので、ハイリスクローリターン極まりないと思う。どうしても音源が欲しい場合、別の国の実績あるショップに入荷するのを待つのが最適解。
 最後にポーランドの古き良きブラックメタルを貼ってお茶を濁しておく。

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