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君は雨の日に生まれた

雨である。
今日は一日ずっと雨だった。

朝方ぼんやりと白い沢山尻尾のあるきつねの夢を見て目が覚めた。

昨夜、きつねうどんを食べたからかもしれない。

そんな事を思いながら、いつものぼんやりした世界で目を覚ます。

外は雨。

薄いグレーの色が一面映る窓を見つめて、朝が来た事を知る。

沢山寝ても疲れなんて取れやしない。

なんなら朝が一番疲れてる気がする。


なんて。

のろのろと支度をして、電車に揺られ、一駅だけ座れて、少し得した気分になって、でも身体は重くて、タイムカードを押して、雨だからか仕事は暇で、今日はなんとなく雨の日の学校の休み時間みたいで、窓の外を見て、湿気がすごいですね。身体だるいですね。なんて言ってたりして。

そう。それでね、仕事帰りに電車を待つ時にLINEを見て、君が生まれた事を知ったんだよ。

LINEの画面を見つめて、ポケットに入れて、またLINEの画面を見て、なんだか気持ちは纏まらずぼんやりしながら電車に揺られて、マクドナルドに入って、背筋を伸ばてバニラシェイクを啜りながら、私は一体何をすれば良いのか考えているんだ。

落ち着く為にも心を整理しようと思うが、別に見たくないのにトレイをマジマジと見てしまって、そしてまたどう言葉を紡げば良いか考えている。

妹の子どもが産まれたのだ。

妹が子どもを産んだのだ。

頭の中が?だらけになる。

思い出すのは小さな頃の妹で、その妹はずっと私の後ろをついてきて泣いていたのに。

あの小さな妹が子どもを産んだのか?

私を真似して石垣に登り、頭から落ちて血を出していた妹が?

よく分からない。

昨日までこの世界にいなかった(正確にはお腹の中にいた訳だが)Girlと印字された札がついている写真の中の赤ん坊を見つめる。

変な感じだ。

こんな小さな君に何を思えば良いだろう。

考えた。

けど、分からなかった。

でも恐らく、この世界にやってきた君は私の事なんて知らないだろうから、まずはその辺りから伝えていこうと思う。自己紹介である。

まず、私は君のお母さんの姉である。

長年お母さんの姉をやってきた。

性格はどうだろう。

似ている所と、似ていない所がある。

お互い別のものを持ち合わせて生まれてきているので、その辺は、良いところは真似をして、悪い所は笑い飛ばしてほしい。

ちなみに君と私の共通点といえば、干支が同じである事だ。もう亡くなってしまったが、君のおばあちゃんも同じ干支である。

計算はしなくて良い。

大丈夫。分かっても言わなくて良い。

私の話に戻そう。

私は方向音痴で、前に出て何かすることは苦手だ。

緊張しやすく、

よく眠る。

よく失敗して、泣くくせに、喉元過ぎれば熱さを忘れる。

三半規管が弱い。

料理は出来ない。

猫が好き。

笑う事、楽しい事が好き。

小さい頃から偏食家だったから、君に好き嫌いがあっても何も言うつもりはない。

この通り、割と地味な性格だ。

特に意外性も持ち合わせてないし、特技もない。

ただ好きなものは沢山ある。

好きな人も多くはないがちゃんといる。

そう、それとここは重要だ。

給料日。

これは覚えていて損はない。

今の所、給料日は15日だ。

その辺りでピザを一緒に食べてもいいし、焼肉を食べてもいい。

なんなら映画や観劇、音楽やお笑いを観に行くのでも良いし、家でゴロゴロするのも、本や漫画を読むのも良い。

甘いものでもいいね。

でも強要はしない。

君が好きな事を教えてほしい。

私は運動出来ないけど、君がするのであれば応援は出来る。

色々な事を知るのは楽しい。

君がどんな子になるのかも分からないし、もしかしたら私の事を好きにならないかもしれない。

もしかしたら、何にもない伯母さんにガッカリするかもしれない。

でもこれだけは覚えていてほしい。

私は君を愛してる。

無条件で。

まだ会っていなくても。

君の幸せを願っている。

だから君の周りの人の幸せも願っている。

それが大事だと思っているから。

柔らかな春の雨の中で、どこからか聴こえる優しい音楽の様に君にずっと幸せが降り注ぐ事を祈ってる。

世界は常に変わっていき、戸惑う事もあるだろう。

何かを知る時、同時に痛みや悲しみを覚える事もあるだろう。

そんな時、あなたの周りで支えれる一人でいられるように。

疲れた時、悲しい時、あなたが休めるように。

沢山の情報の中で、あなたが良しとするものを選べるように。

あなたが今日、平凡な日々の中突如として生まれて、私の中に光が差した。

雨の中に降る光は美しかった。

その美しさを、光を、ずっと君の中で保てるように。

きっと君には教える事より、教えてもらう事の方が多いでしょう。

君に接する機会も少ないかもしれないし、

君のお母さんやお父さん程、君を愛する事も、愛される事もないでしょう。

けれども、私は君を愛しているから。

それだけは覚えていてほしい。

君が生まれてきてくれてよかった。

本当にありがとう。


それでは、こんな感じですけど、末永くよろしくお願いします。

君のいるこの世界。

これからとても楽しみにしています。



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