2匹の猫に教えてもらった、“自分らしさ”のはなし ハリー&ベンツ
猫には個性があり、その個性を汲み取ることの大切さに気付くきっかけになったのが、「ハリー」と「ベンツ」だった。
猫に対しても人に対してもちょっぴりクールな猫のハリー。猫にも人にも寛大なベンツ。それぞれの魅力に惹かれながら。
今回は、そんな2匹が在籍している保護猫コミュニティカフェ「てんしんらんまんなラッキー(略称:ラッキー)」を運営する小林さんから2匹の猫のお話を伺った。
梁の上のハリーと高貴なベンツ
ーーハリーとベンツはどんなところから保護されたのですか?
栃木県の多頭飼育崩壊の現場から保護されました。
元々の飼い主さんはご両親を亡くしたあと、約10年間一人暮らしをする間にどんどん猫が増えてしまったみたいです。猫の知識が少なかったため、多頭飼育崩壊が起きてしまったのですが、ご本人はすごく猫を大切にされてる方で。
一方で、猫を大事にするあまり自分自身まで犠牲にするような方でもありました。
ーー2匹を保護したときの様子はどんな感じでしたか?
保護現場には大体20匹ほどの猫がいて、てんしんらんまんなラッキーではそのうち約10匹を保護することになりました。
保護したとき、ベンツは捕獲自体はすぐにできたのですが、ベンツは体格が大きくて……キャリーバックに入れる際にバックが壊れて、脱走してしまったんです。そのときはてんやわんやでしたね。
ハリーも1ヶ月くらい家の梁(はり)の上に籠城してしまい、保護するのに時間がかかりました。それが由来になってハリーという名前がつけられたんです。
保護したときからエピソード満載な猫たちでした(笑)。
ーーベンツの名前の由来はなんですか?
頭の模様を見ると、車メーカーのベンツのマークになっているんですよ。見た瞬間、頭のベンツマークが目に留まって(笑)。
ーー なるほど!良いネーミングセンスですね。
「僕のベンツに近寄らないで」
ーー多頭飼育崩壊の現場に入っていくのは行政からの依頼だったのですか?
行政にいた方が動物福祉協会と繋がりがあり、その方のところにいつも猫保護の情報が入ってきていたそうで、行政と団体が協働して猫を保護する取組みが実現しました。その方はラッキーのボランティアでもあったので、一部の猫をラッキーで収容することになりました。
行政とボランティア団体の協働ということもあり、新しいケースとして新聞にも取り上げられました。
ーーそんなハリーとベンツの2匹は、元々仲が良かったのですか?
来たときは今ほどは仲良くありませんでした。でも、シェルターで過ごしていくうちに、他の猫とよくケンカするハリーがベンツとだけは仲が良いと気付いて。
ハリーは他の猫とはケンカしてしまうので、一時期は他の猫が外に出ているときはゲージに入れて、他の猫がいないときにハリーを外に出していました。
今はシェルターの一室が空いたので、ハリーとベンツ、加えてももこという猫の3匹が優雅に過ごしています。
ーーベンツは他の猫とはどんな感じなんですか?
ベンツは誰とでも仲良くて、どの猫からも「ベンツ兄さん」みたいな感じですね。でも、決してベンツの力が強いわけではなく。風格なのか、貫禄なのか、みんなが一目置くような猫です。
それで、ハリーが「ベンツに気やすく寄るな!」といった様子で他の猫を攻撃するんですよ(笑)。本当に不思議な猫ですね、ベンツは。
最少面積だけで感じる温もり
ーーベンツとハリーは人に対してはどんな感じなんですか?
ベンツはすりすりするくらい、人懐っこいです。
ーー猫に対しても人に対しても社交性があるんですね。ハリーは人に対してどんな感じですか?
ハリーは、ちょっとビビりなんですけど、寄ってきてはくれます。人の方から来られるのは嫌だけど、ハリーからおしりを寄せてくる感じです。
ーー僕はそっちの方が好きですね(笑)。
座っているといつの間にか横にぴとりとくっついている感じ。それはそれで猫らしいですけどね。
ーー猫らしくていいですね。 他に2匹の愛おしいなと思うところはありますか?
狭いベットとかもハリーとベンツ、2匹一緒に入るんですよ。
2匹とも大きいのに、ベンツの上にハリーが乗っているときもあります。私たちの膝の上に乗っていても重いと感じるので、「つぶれるぞ?」って(笑)。
潜るタイプのベットとかも2匹でぎゅうぎゅうで入っていたり。夏でも冬でも、オス猫の――おじさん2匹がくっついています。
2匹だから見つけだせる幸せへの近道
ーーハリーとベンツは一度一緒にトライアルに出たけど、戻ってくることになったそうですね。どうしてだったのですか?
トライアル先は先住猫がいるご家庭で、ベンツとハリーに対しても理解のある方でした。先住猫とも最初は隔離し、徐々に顔合わせを進めてくれたのですが、ハリーが先住猫に対して攻撃的になり、先住猫がけがをしてしまって。
その後も、様子を見てくれていたのですが、やっぱりハリーと先住猫がけんかをしてけがをしての繰り返しで、ハリーだけシェルターに戻ることになりました。
ですが、今度は戻ってきたハリーが分離不安症を起こし、床を掘って数日でボロボロにしてしまったり、ずっと鳴き続けたりという状態が続いてしまいました。私たちも、ベンツと離れたことによるハリーの精神面の負担を心配していて……。
その様子を見たトライアル先の方々が家族内で検討してくださり、「猫の気持ちを第一優先に」とベンツもシェルターに戻そうと決断をしてくれました。
ーーそれぞれが猫のことを考えてつらい判断をされていると思いますが、「愛されているな〜」というのが感想ですね。
人間側からすると、気に入った猫と一緒に暮らせない、返さなければならないのはつらいことだと思います。それでも、トライアル先は何よりも猫のことを一番に考えてくれている方々でした。
先住猫もけが以外にストレスで具合を悪くしてしまったこともあり、「猫たちがみんな元気に楽しく過ごしてもらうために」とたくさん考えてくれていました。
ーー先住猫に対しても、ハリーとベンツに対しても考えて判断をしてくれていますね。
なかなかそういうふうに、猫を第一に考えてくれる方も少ないと思います。たまたま本当に良い方に出会い、良いトライアルができたなと。
だから、次にベンツかハリーを気に入った方がいたら、2匹で一緒に譲渡できたらと思っています。
ーーお子さんがいるご家庭でも、一人暮らしの方でも2匹が暮らしていける環境であれば大丈夫ですか?
てんしんらんまんなラッキーでは、子どもがいるご家庭でも一人暮らしでも、住環境などを確認させてもらって、大丈夫であれば譲渡します。
だから、ベンツとハリーのことを好きで可愛がってくださる方であれば歓迎します。
ーー僕のイメージでは、ハリーとベンツは体が大きいし、抱きしめても大丈夫そうだから、猫が好きすぎる子どもとかでも相性がいいのかなと。ぎゅっとしてあげられたら子どもも喜びそうですよね。
少し前にも2歳の子と赤ちゃんを連れているお母さんが会いにきてくれたんです。2歳のお兄ちゃんのほうがベンツを気に入ってくれて、なでてくれていたんですが、ベンツは全然問題なかったですね。
――さすが。ベンツは貫禄がありますね。
猫たちと見つける自分の“あり方”
就職活動中であるわたしは、就活を始めてから「普通とは何か」について友だちと話すようになった。
社会では「普通」という言葉が用いられ、それが求められる風潮がある。でも、社会から求められる「普通」の型に収まろうとすると自分の個性を見失うこともある。
今回、ハリーとベンツ、そして他の猫との関係性をみて、社会や他者とのかかわり方についてもっと自由でいいと考えられるようになった。
猫の個性は多種多様。生い立ちも性格も見た目も。
それは人も同じであり、すべての人に自分のすべてを合わせる必要はない。ハリーとベンツのように、個性を尊重し合える人を大切にしながら、自分らしく。
他者に寄り添いながらも、自分の個性も他者の個性も大切にし、その個性を認めあえる存在を大切にする。
2匹と共に時間を過ごせば、自分らしさと向き合い、他者の個性にも目を向けるきっかけになるだろう。
ベンツのプロフィールはこちら🐈
ハリーのプロフィールはこちら🐈
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