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ボス猫の貫禄を知りたくて。

少し伏せるように傾いた左耳と、こげ茶色の縞模様がトレードマークの猫。グレはもう10年以上生きている。

その愛嬌ある見た目に反し、グレがまとい、醸し出すその形容しがたい雰囲気は特筆せざるをえない。

ボス猫のグレ

まったりどっしり、優しい瞳の元親分

野良時代、グレはいわゆる地域のボス猫だった。東京のある地域からやってきたグレは、この地域のボランティアさんによってTNRされた猫のうちの1匹であった。

TNRとは、野良の猫を捕獲し、不妊去勢手術を行ったのち、元の暮らしていた場所に戻すことを指す。TNRを受けた猫は、その目印として片耳にV字のカットを施される。このTNRを受けたグレは、地域の猫としてボランティアさんたちから長年可愛がられてきた。

少し話はそれるが、グレがTNRを受けた地域では町内会費の一部としてTNRの費用が含まれているらしい。町内会から地域の動物のための費用が集金されるというのは、他の地域と比較して保護猫への関心が高いと言える。TNRに関するより詳しい話は、別の機会に。

しかし、ある年のこと。グレの住む地域で、猫の虐待の報告が相次いだ。そんな折に、グレが大きな怪我をしているところをボランティアさんが発見した。

地域のボス猫であるグレにとって喧嘩は日常茶飯事であったため、この怪我が人によるものなのか、猫同士の喧嘩によるものなのかは定かではなかった。だが、怪我の治療のため、家の中で保護されるに至った。

ねこひげハウスの秩序

元野良だったグレ

その後、怪我も完治したグレは、紆余曲折ありねこひげハウスにやってくることになった。

ここで、恒例になるのが先住の保護猫たちとのご対面。そして、猫同士の関係構築だ。グレの初対面はなかなか類に見ないものだった。

先住の保護猫たちにとって、新入りは格好の遊び相手だ。そして、ちょっかいを出すのにも最適な相手なのだ。

ところが、グレに限っては同じようにいかない。なぜなら、長年地域の「ボス」をしてきたから。そんなグレがまとう雰囲気は、保護施設でぬくぬくと育ってきた“箱入り猫”たちにとっては、言わずもがな圧倒されるものだったのだろう。

この貫禄である

どの先住猫もグレを一瞥(いちべつ)こそするが、ちょっかいは出さない。喧嘩も売らない。

グレの周りだけ別の時間が流れているかのかと錯覚するほど、ゆったりとした動作からはある種の貫禄が感じられる。どうやら猫にも、そういう目には見えないけど、人(猫)となりを形成するものがわかるらしい。

人間でも「やめときなよ〜」って言われるほど、どうしてもその行為をやりたがる人間がいるように、猫にも同じようなコがいる。やめておけばいいものを、グレに喧嘩を売りにいったのだ。

しかし、グレは微動だにしない。野良時代、命の綱渡りにも等しい喧嘩を数々経験してきたグレにとって、こんなのは喧嘩でもなんでもないのかもしれない。あるいは、グレがほんの少しやり返せば、喧嘩を売ってきた猫に怪我をさせかねないことを承知しているとも考えられる。

こうして自然と、ねこひげハウスの中でも一目置かれる存在へと難なく落ち着いた。

「幸せ」を問うて。

グレには一緒にねこひげハウスにやってきた猫がいた。名前はギャロ。ギャロはとにかく他の保護猫たちに寄り付かない。

ところが、グレは別だ。保護される直前まで、同じ家で一緒に過ごしてきた2匹は仲がいい。

まるでグレときょうだいのような「ギャロ」

その様子を見たねこひげハウスの代表は、2匹一緒に迎え入れられることを願っている。しかし、初めて保護猫を迎え入れる家族にとって、いきなり2匹も家族が増えるのは少しハードルが高く感じるのかもしれない。

そして、グレは猫エイズに感染している。「猫エイズ」と聞くと「きっと通院など大変になるのかもしれない」と危惧される方も多いかもしれない。

しかし、猫エイズは人へ感染しないうえ、発症せずに寿命を全うするコも多い病だ。こうした誤解もまた、お迎えのハードルをあげている要因だろう。

グレにとっての「幸せ」とはなんなのか

1匹でも新しい家族のもとに迎え入れられることが「幸せ」なのか。気の置けない仲にあるギャロと共にいることが「幸せ」なのか。

新しい家族に迎えられるにあたって、人間はその猫一匹一匹の最大限の「幸せ」を願う。けれど、この「幸せ」には正解なんてない。

雲をつかむようなこの願いを、少しでも「現実」に近づけるために人間ができることは限られている。だから、霧で隠されてしまった「幸せ」の破片を出来うる限り集めてあげたい。

そして、この文章もまたグレにとっての「幸せ」の破片になるのだと信じてる。

そうして、今日も貫禄と同じだけの存在感を放ちながら、グレはマイペースに闊歩する。


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