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ぢぬし生活とついにおさらばした話1

うら若き女子高生時代から、おしりの違和感は感じていた。

当時から便秘がちだったためトイレ滞在時間は30分以上は当たり前。毎回文庫本を持ち込み、まったりトイレ生活を楽しむのが日常だった。しかしその頃はまだこんな未来が訪れるとは、病名すら知らなかった十代の私の憐れよ。
約10年後の寒い日、そいつは突然やってきた。
お風呂でしゃがんだところ、何やらいつもよりも大きい違和感が!
そして、立ち上がっても何物かが挟まった感覚のまま、戻らなくなった。
「え?」「えっ?」「えええええっ???」
いやいやいや、認めない、認めたくない…何物かを挟んだまま、急いでお風呂から上がり、見えないものをみようと、合わせ鏡を駆使し、アクロバティックな態勢でそいつの正体を見た瞬間…。
………残念ながら認めざるを得なくなった。これは間違いなく病院案件だと。

翌日、仕事に向かうも、とにかく座るのが怖くて怖くて座れない。一応気休めにナプキンをちょいとずらして装着してきたものの、何の慰めにもならなかった。嗚呼、新卒の頃、円座座布団に座っていた隣のおじさんを横目で笑った罰が当たったに違いない。あの座布団、どこに売ってるのか教えてください…。と心の叫びを飲み込んで、職場に到着。しかし当時の仕事は勤務時間中の動きの少なさには定評がある経理事務。地獄である。朝から無意味に背筋を伸ばし、椅子の前のほーーーぅにちょこん、とお尻の端を乗せて、体重を少しでも分散させるべく、右へ左へ…不審な動きを繰り返す。同僚とのランチも断り、食堂のソファ席にダッシュ、意識高い系を装いながら、スマホでひたすら近所の肛門科を検索、どうにか仕事終わりに立ち寄れそうな病院を見つけ、「緊急」の予約を入れてほっと一息。
午後からは微妙に席を立つ時間を増やし、書類の整理をしてみたり、わざわざ遠くの倉庫に要りもしないファイルを取りに行ってみたり、とまさに歯を食いしばり、涙ぐましい努力を重ねてようやく終業時刻を迎えた。
とにかく病院へ!!!定時ダッシュをかましながら、丸一日の不自然な動きですっかり疲れ切った肉体にムチ打ち、ついに予約を入れたクリニックに到着。私…一日よくやった…頑張ったよ…。
そこは女性に優しいクリニックを謳っているだけあり、間口の狭いそれでいて築浅でお洒落な雑居ビルの上層階。男女別の待合室に、女性専用診察日も設けられてる、かゆいところに手が届くサービスの良さ。なんだ、女子も結構いるんじゃないか、という安堵感が沸き上がる。
室内はアロマの香りで満たされ、内装もピンクを基調とした温かい雰囲気で女性用雑誌やホテルのような豪華なパウダールームも完備。一瞬婦人科と勘違いしそう…まあ確かに対象の臓器は隣同士ですがね。
受付のおねえさんの顔を見た途端涙が出そうになるのをぐっとこらえ、無意味に堂々と「初診です」と告げ、問診票を受け取る。
「お掛けになって記入くださいね」ってだから、座れない……と思ったら!キュートなデザインの円座クッションが全席に色違いで完備!!さすが!!って当たり前か…。ありがたく腰を下ろす。あぁ…全体重をかけて座るなんて何時間ぶりだろう…まるで旅先の温泉で足腰を伸ばした瞬間のような快感が体を巡り、血も巡る…生き返ったわぁ…。

続く

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