どうでもいい話

すっごくどうでもいいことを思い出した。

「どうでもいい」と言うからにはそれ相応の内容に与しなくてはいけないような。今更すぎた悲しい話を思い出し、感傷に浸る理由も今の僕にはなく「どうでもいい」って言ってしまえる。そもそも今の僕の悲哀も過去逃げてきた僕からの贈り物ってだけだ。
それでもなにか、僕以外のものから生まれた不幸に塗れて、今の悲哀を人のせいにして「悲しい人間だ、こんなことになってしまったのは仕方がない」と言えるよう、僕は僕を成り立たせたい。とどのつまり、今の自分を肯定したい。逃げてきた僕に責任を負わせるだけじゃなく、そういった人間になってしまった出来事にもエサをやりたい。

そんな「どうでもいい話」は沢山ある。

今日思い出したもの、一つ。

去年の5月。
ちょーどゴールデンウィークの終わり。
今でも記憶に残ってる。ありきたりな言葉だが、1年経ったんだと感情が動かされる。

僕が1年遅く大学へ無事入学ができ、大学の友達とも親交を深めながら、昔馴染みの友達とドライブに行くことになった。目的地は静岡、さわやかのハンバーグを食べに行くこと。その日は天気が悪く、雨は降らないが風がとても強かった。それもこれも、僕の好きだった人に「お前が雨女のせいだ」ってみんなが言っていた。混むことで有名なさわやかの整理券を取って大学の友達に聞いたおすすめのカフェへ行った。些細なことさえ覚えてる。カフェの向かいに君が座ってきたこととか、そこで匂わせの写真を撮ってインスタにあげたこととか、同じメニューを頼んだこととか、同じ静岡茶のお茶を飲んだり。香れば思い出す匂いと全てが針みたいに無意味に突き刺さる。
思ったよりさわやかのハンバーグは美味しくなかった。「東京の某所にあるハンバーグ屋さんに比べたら、美味しくないね」って僕はそのままに言った。
どうせなら海で見て帰ろうと思い、手っ取り早く近くの湾岸まで向かった。想像してるような湾岸とは違ってて、公園とか芝生とか整備されてあって楽しそうな場所だった。それでも、如何せん風が強く吹いた。海の隣なのに磯っぽい匂いも何もしなかった。写真を見見返すと公園に添えられたヤシの木が強い風に煽られる姿とショートカットの髪が風に揺られる姿が重なる。こっちから沿ってる向こう側を見て、お店を見つけて行こうとした。でも、結局、大したイベントにもならないでその場を後にして友達の運転する車に乗り込んだ。
そこからは順調に車内で恋バナでもしながら地元へ帰ってきた。お酒によってカラオケに連れてかれて、色々した話とか。当時は聞くに耐えなかった。どうにかその男を否定することで自我を保っていた。
「お酒の力頼る時点でクソ男だよ」
そう沢山言いくるめて、その男との関係を断つようなLINEを返信させた。
僕の脳みそにはこのことがずっともあって、後に僕は全く別の女の子にどこか誰かの男がその子にしたように、同じことをした。うぶで健気で可愛らしい僕には筆舌に耐え難かったから色々したって濁したが、所詮キスの手前。僕の人生は誰かにやられたことをのほほんと誰かにやり返す因果の途中で生きている。「その時のあの子の気持ちを知りたいから」と言う甘い言葉。

話は戻って。
そんな大好きな子の筆舌に尽くし難い話を経て、地元へ戻ってきた。そのあとはその子の実家へ潜り込んだ。実家って言ったって僕らは何度も行ったことがあったし、もはやたまり場だ。幸いその子が離婚し、前住んでた家で住むのはその子の父しかおらず、時間に恵まれて顔を合わせることもなかった。お酒を飲みながら、まだまだ雑談の手が緩まない。夜も深まり段々と帰る人も出てきた。かく言う私は帰りたいと思うはずもなく、「この時が続けばいいのに」とノホホンと思っていた。その子は酔っ払うと変なことを言う。本当に変なことだ。僕からはわざとやってるのではないかと思うほどあざとくて可愛く見える。「力士のまわしが飛んでる」とか、「アンパンマンの赤いやつってどーやってくっついてるの?」とか。酔いが回った状態で、眠気が最大まで来て、もはや寝てる状態になるとそんなことを言う。可愛さを半分に時間が過ぎると僕も段々、不安が勝ってきて寝るように諭す。そうするとすぐに寝る。愛おしい。
朝みたいな時間にそんなことがあって、少し目をつぶるとすぐに朝が来て。僕とその子が目覚めたのは昼前だった。その時には僕とその子と、もう1人だけになった。何も無い日の朝。無気力に起き、あの子のおばあちゃんが買ってきてくれたらしいお弁当を2人分。温めて食べる。グリンピースがのった三元豚の卵とじカツ丼。味噌汁もなく、朝の喉に辛くお水をコップにもらって流すように食べた。有り体みたいに言えば奥さんみたいだった。砕けた顔に、だらしない服。キッチンに立ち、手にはコップを持って、僕の水道水を注いでくれている。グダグダ食べていると最後の友達も帰った。ずっと帰るのを待ってた。2人に。僕はもちろん帰りたくもない。一生ここがいい。住民票をここに移す。「まだ帰らないでいいかぁ」と君が言った。今という時間を引き伸ばしたい僕には千載一遇のチャンスだった。「俺もまぁ、いいや」と言ってお弁当を食べた場所とは別のテレビの前のソファに2人で座った。一刻も早く、一刻も長くここにいる理由が必要で、夜に他の友達を誘うことにした。それまでの時間を潰すことになった。
お互いの好きなYouTubeを見せあった。
僕はダウ90000のコント「今更」
あの子がジャック・オ・蘭たんのグノーシアと言うゲーム実況。
内容はよく分からなかった。でも、知りたかった。沢山質問した。会話をひとつでも多くした。
その次はゲームをすることにした。マリオカートは好きじゃないから、別のゲームをすることにした。他のゲームの選択肢に「桃鉄」があった。2人でソファから腰を降ろして、テレビの前に向かった。隣合わせのソファとはまた変わって、少し向き合うような形であぐらで隣合って画面に向かった。名前だけは知ってる桃鉄。よく知らないから、簡単なルールのやつにした。3年間だけで決着をつけるモード。運だけのCPUに翻弄されたり、あの子ばっかりボンビーに取り憑かれたり、変なところに行ってずっと海の上にいたり、ちょっと勝ちたくてムキになったり。

「これまでの人生が不幸だった。」
「1番不幸だったことは簡単に思いつくけど、1番幸せだったことは思いつかない」
そう僕は思う。
死んでしまいたい。

そんな僕が1番幸せだった瞬間を考え、挙げるとするならばその時だと思う。日々の小さな幸せと言うだろう。それを一挙にまとめて受け取ったような幸福感。
それしか思いつかなかった。
手放して知ったとか、無くしてから大切さに気がついたとかじゃない。すぐ、その日帰り道に気がついた。これ程、儚くて、大切なものは無いじゃないか。
「友達」と言う名前の檻すら、看破してしまうほどの想いを胸にした。檻を破壊しようと心に決めた。翌日になってすぐに連絡を取ろうとした。次に会う日を決めたかった。次にあった日こそ、破壊であり、新たな始まりなのだ。

次の日、君は事故にあった。
「現実は小説より奇なり」とは言ったもんだ。でも、これが小説なら君は死んでる。思ってもない言葉を言うが、もしも君があれで死んでしまったら僕はどうなってたのだろうか。きっと僕の中では、傷として一生ここにいることになる。
現実はそんなことも無く、君は単純にアルバイトへ向かう途中に自転車で派手に転んで、背中を打った。それでも、大事には至ってないが入院が必要になった。次に会う日が、3ヶ月後になった。今は5月。次に2人で会えるのは8月。

その3ヶ月と言う時間は、あまりにも長かった。
考える時間になった。
当時考えてたことは覚えていない。

きっと、このnoteのどこかでホコリ被ってるだろう。
見たくもない。
きっと、みっともない今と同じような言語化された理由を述べているだけだ。理由という名の言い訳を。信じきれなかった自分の言い訳と、トラウマと言う便利な言葉の反芻を。
でも、他責に意識を向けるなら事故で会えなくなったことが悪い。きっと神様とか、はたまた小さな日々と偶然が積み重なった結果。そいつらが僕に考える時間を与えてしまったからこそ、僕に幸せが掴めてないのでは無いか。あの時に、幸せになっていれば。破壊さえ、告白さえ出来ていれば。今とは違う運命だった。運命とは便利な言葉だ。自らの決断を無限定に広げることができる。しっかりと考えた故の結果だ。
でも、そんなことさえなければ、今の僕の不幸に居ない世界線へ移れた契機だったのかもしれない。

そこからは同じことを繰り返した。
諦めると決断の連続。
似たようなことがまた起きて、決意して、諦めて。
そんなことをするのにもいい加減、目処が見えてきて。どちらかになるまでは結果が出ない。意を決したデートを断られた。その瞬間に全てを諦めた。全てはあのタイミングが悪い。そうだ。僕は悪くない。幸せになりたかった。

先週に君の夢を見た。このまま同じ未来を歩んで、荒んだ僕が同窓会へ行った。仲が良かった友達からも、尊敬してた先生からも嫌われていた。そんな中、君が子供を連れて現れた。誰かと君が話している。君は今、離婚してシングルマザーになっているらしい。
夢とは思えない程にそんな未来が現実感を帯びてるような気がしている。
「お前は絶対に離婚してシングルマザーになる」
そう、仲のいい友達からは口々に言われている。そんな雰囲気がある。強い人だし、自分がしっかりあるからこそ、人との衝突も耐えないと思う。モテる君のことだから、君に声をかける人も少しはモテる人だろう。それでも衝突は避けれずに君は離婚する。そんな未来な気がする。僕も思う。というか、そうであって欲しい。僕には君じゃなきゃダメで、君には僕じゃなきゃダメであって欲しい。そういった願望からもある。
そんなシングルマザーになった君を見て僕は、何を思うのだろう。それでも幸せにしたいと僕は今更ながらに願うのか。
僕はこれから君について考えることが今日で最後かもしれない。はたまた、会っても、会わずとも君のことを考えるのかもしれない。いずれにしても僕の君に関することは、全て「今更」になってしまう。
「今更」「今更」「今更」「今更」

そんな時にあの時に一緒に見たダウ90000の「今更」でも思い出してくれればいいなと思う。そうやって思い出してくれれば、あの時のことは君も大切だと思ってくれたことの証明になるから。あのこれまで不幸の人生の狭間にあった、幸せな時間がひとりよがりのものじゃないと信じたいから。

そう言えば、さわやかのハンバーグより美味しかったお店、あの子だけ連れてったことがなかった。連れてこうとしたデートに断られて、行けなかったんだった。