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アンドリュー・ヒル「Smoke Stack」

今日はならどっとFMさんの日。ここ最近は「番外編」みたいなのが多かったので、今回は硬派に、Andrew Hillの「Smoke Stack」(1963年)より、タイトル曲。

モンクの進化版?

この、アンドリュー・ヒルというピアノの人。微妙に新主流派に入れられてたり、フリー派にされていたり、どちらからも忘れ去られていたり、と少々可哀想な人です。アルフレッド・ライオンが最後に発掘した人材でヒンデミットの弟子だったりと中々凄い人なんですが、一部マニアがいるとはいえ、一般的にはあまりブレイクしなかった。

 よく彼を評してモンクの進化版、なんて言われるけれど、確かにかなりひねくれたアプローチをするし、曲も難解。だが同時にモーダルでもあり旋律は美しい。難解なことをキャッチーに聞かせる、一般に響くキャッチーさも兼ね備えていた、充分に売れる要素のあったピアノだと思うのですが。
 Richard Davis、Eddie Khan、というダブルベース、という編成も、この頃には割とあった編成ではあるけど、この一筋縄ではいかない、ただのピアノトリオに終わらせないことに一役買っている。それに絡むロイ・ヘインズ(ds)が素晴らしい。

早すぎた、不運なピアニスト

 先にも書きましたが、このヒルはアルフレッド・ライオン(ブルーノートの創始者)が最後に発掘した人材といわれています。実際、ライオンは「この男こそ、我が生涯最後の大発見になる」(ブルーノートストーリー/M・カスクーナ著)と言ったといわれ、5ヶ月で4枚のアルバムを録音した、というから、ものすごい力の入れようです(この「Smoke Stack」も、そのうちの1枚)。

だが、せっかくブルーノートの総帥、ライオンに一押しされていたにも関わらず、当のライオンは67年に引退してしまうんですね。ひょっとしたら盟友になりえたかもしれないエリック・ドルフィーも64年に亡くなってしまう。そしてこの時期、なかなか意中のピアニストに巡り会えなかったマイルスは、ちょうどこの「Smoke Stack」が録音されたのと同じ63年に、ハービー・ハンコックを手に入れます。でも、もしハービーという存在がいなければ。実際、マイルスはヒルにも目をつけていて何度かライブに呼んでいた、という話も聞いたことがある。もし、ヒルがマイルスクインテットに入っていたら、なんて、つい考えてしまいます。

 ECMの時代には早すぎた。ヒルは40年代組のチックやキース・ジャレットに比べて、ひとまわり上の世代(1931年生まれ)なんですよね。なんとも、時代の狭間、世代の狭間で埋もれてしまった、だけど素晴らしすぎる、僕の大好きなピアニストです。もちろんこの前後のアルバムも名盤揃い。
興味がある方は、ぜひ聴いてみて下さい。


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