♢ 神様になれなかった天使 【上】


私は天使として生まれた。
天使は天界に沢山いて、私もその1人だった。
でも私は他の天使とは違った。
他の天使達より、私の翼はとても大きかった。
大きくて、大きすぎて、重すぎて、飛べなかった。
私は飛べない天使だった。

お前は出来損ないだーー。

周りの天使達に見放された飛べない天使にできる仕事も、居場所はなかった。
私は天界で独りぼっちだった。
寂しかった、悔しかった、絶望した、飛べなければ仕事が出来ない、神に使えられない。
私が天使である意味がない、生まれた理由が無かった。

皆が仕事でよく行っている下界に一度行ってみたかった。
沢山の人間達が毎日生きている世界。
一度でいいから見てみたい、毎日上から下の世界を眺めていた。
一日ずっと眺めて、夢中になって、うっかり落ちてしまった。
飛べない私は下界の地面に、叩きつけられた。



目を覚ますと、古屋に敷かれた布団の上にいた。
ズキズキと痛む体を無理やり起こした。

「おぉ!お目覚めになられた!!」

入り口の側に座っていた老婆が声を上げ、勢いよく部屋から飛び出して行った。
何が起こっている、私は上から落ちて、、、
それからの記憶がない。
見ると身体中に包帯が巻かれていた、手当を受けている。
あの高さから落ちて無事で済むのだから、天使の体というのは頑丈らしい。

開け放たれたままになっていた、ドアの向こうかから飛び出して行った老婆と、若い娘が入ってきた。

「お目覚めになられたばかりで申し訳ございません、貴方様の身の回りの世話を仰せ付かりま
した、かんなぎのお美代と申します」

老婆と娘が頭を下げる。

「今後、神様のお言葉は、このかんなぎ様より村の者に伝えさせていただきます。」

老婆が頭を伏せたまま言う。

「神様?私のことですか!?」

老婆はなにも答えない。

「ここは何処だ?なぜ何も答えてくれないんだ!?」

私がいくら叫んでも、返ってくる答えは無かった。

「それではかんなぎ様、あとはよろしくお願いいたします」


そう言うと老婆は顔を伏せたまま部屋から出て行った。
私が神様?どう言うことだ、私は神様なんかじゃあないそれどころか天使にだって成り切れていないのに、、、

「神様、包帯を取り返させていただきますね」

お美代と名乗った娘が口を開いた。

「かんなぎさん?は、私と喋ってくれるのか?」

「はい、お美代とお呼びください神様」

返ってきた。

「私、神様なんかじゃないよ?」

「いいえ、貴方様は我が村の神様にございます」

にっこりと微笑んで仕事を続ける。

「えっと、私どのくらい寝ていたの?」

「十日ほどです」

十日も眠っていた?
睡眠を必要としない天使の体でも、大怪我をすれば話は別なのか。

包帯を変え終わると、かんなぎは食事を持ってきてくれた。
食事を食べながらお美代に私がここに来た時のことを教えてもらった。

ここは小さな集落で、私が今居るところはこの村の神社の離れだと言うこと。
そして十日前この神社の本堂の屋根に私が降ってきて、そのせいで本堂は修復中だと言うこと。

しかし、それだけで私が神様扱いされる理由にはならない。
訊くと運悪くこの神社で祀っている神様と言うのが、鳥の翼を持つ神様らしく私がその神様の生まれ変わりだとこの村の人達は思い込んだらしい。
そして今度、私のお披露目をすると言う。
私は神様でもなんでもない、ただの天使だと何度も説明したが取り合ってもらえなかった。

そのまま、お披露目当日になった。





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