♢ 神様になれなかった天使 【中】


豪華な装飾が施された椅子に座らされ、目の前には沢山の村人達が私を一目見ようと集まっていた。
村人達が変わるがわるやって来て、私の翼をひと撫する。

立派な翼だーー。

今まで誰からも言われなかった言葉だった。
中には産まれたばかりの子供を連れてきて「この子に御加護を」と言ってくる者もいた。
私が直接話しかけるのは禁じられているので、隣に控えているお美代にそれらしい言葉を言うと、村人に伝えた。
村人達は感謝し、干し肉や果物を沢山置いていった。

沢山の人に感謝され、必要とされるなんて初めてだった。
天界にいた頃は、誰からも感謝されなかった。
ただ周りから疎まれるだけ。
ならいっそここに居ようか、ここにいて人間達が喜ぶのなら、そう思った。

どうせこの大きすぎる翼じゃあ天界には帰れない。




村に来て、神として暮らし始めて数十年が経った。
私のかんなぎをしていたお美代はすでに他界し、今はその娘がかんなぎをしている。
その日は稀に見る豪雨だった、川が氾濫し村の家々が流されそうだった。
村人は全員高台にあるこの神社に避難していた。
神社の本堂に集まった村人達が叫んでいる。

「神様!我らを、村をお救い下さい!」

かんなぎが外で村人達を宥めている。

当の私は、本堂の奥でただ怯えていた。
怖い、天災も怖いが何より恐ろしいのは信頼を失うこと。
みんなの声に応えなければ、また役立たずだと言われる。
それが何より怖かった。

「私に天災を操る力など無い、やめてくれ…」

1人怯えていると、腹の底に響くような地鳴りがした。
地面が揺れ出した瞬間、本堂の屋根が吹き飛んだ。
吹き荒れる雨風に晒されながら上を見ると、そこには神が立っていた。
私ではない、本物の神。
かつて私が仕えていた、仕えられなかった神だっだ。



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