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初めての日。




私はみんなとは違うみたい。
ここにいる人達は沢山喋って、沢山笑っている。
でも私は同じようには出来ない。

ずっと1人で旅をしてここに辿り着いた。
ここはとても賑やかで、暖かい。
昔にもこんな暖かさを感じたような気がするけれど、思い出そうとすると黒いぐちゃぐちゃした何かに邪魔をされてしまう。

私にできるのは満月に怯えて泣くことだけ。
なぜ涙が出るのかもわからない。
怖いのかな、悲しいのかな、分からない。
知りたいな、みんなが持っている物がどんな物なのか。




ここは学園という場所らしい。
私はこの場所の1番見晴らしのいい場所が気に入った。
この場所から周りを眺めるといろんな音が聞こえる、ここにいる人達の音。

ここに来てからどれくらい時間が経っただろう、今日はいつもより静かだ人も音も少ない。
下に降りて探検しよう。
高いところから降りるのは得意だ、ジャンプしてそのままふわふわと落ちるだけ。
地面に足がついた頃には、男の子と目が合っていた。

「………え…あ…」

人と目が合うことなんて今まで無かった、どうやらこの人には私が見えるらしい。
目がまんまるになっている男の子は、髪に赤い髪飾りをつけていた。

「えっと…学園の人……じゃ無いですよね………」

見ると男の子は沢山の紫色のキラキラしたものを抱えていた。
とてもキラキラしている。

「ん?あ、これは今畑で取ってきたナスです」
「……沢山あるので、持ち帰りますか?ちょっと待ってて下さいね」

ここのナスは美味しいって評判なんですよ。
そう言って、どこかから出してきた袋に手際よくナスを詰める。

「はい、どうぞ」
「あ、そろそろ片付けて帰らないと。またいつでも来てください!」

ニコニコしながらナスを渡すと、ペコっと頭を下げ帰っていった。
人に話しかけられるなんていつぶりかな。

そんな事を思いながら元いた場所に戻った。
貰ったはいいけれど、この紫色のキラキラをどう扱えばいいのか分からない。
美味しくて評判だと言っていたから、食べられるのかな。

一口かじる。
すると視界がぐにゃぐにゃしてなんだか体がくすぐったくなって、気がついた時には人間の姿になっていた。
そして体を包んでいるのはマントではなく、学園にいる人達が着ているものに良く似ていた。
この姿なら、皆んなと遊べるかな。
そう思いながら、また一口かじる。

「これが、皆んなと一緒の美味しいって感じかな…」



いつのまにか空はオレンジ色になっていた。
夜が来る、今夜は満月じゃありませんように――。




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