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サンズ売却について

ロバート・サーヴァーは最初、比較的ゆるいと非難されていたNBAからの1年停職の罰則に意地でも対抗しようとしていたようです。Wojは、サーヴァーは「自分の振る舞いが1年の停職処分と$10Mの罰金に値するという考えを受け入れず、罰則を与えるプロセスは大きく険悪になった」とレポートしていて、NBAの罰則に納得がいっていない様子が伺えます。

罰則についての声明でも、サーヴァーは「NBAの調査の詳細の一部には同意できませんが、従業員を怒らせた私の言動について謝罪したいと思います」と自分には非のない部分もあると考えているようで、完全に状況を理解できていないようでした。また、「私はNBAの決定の結果を受け入れます。この時間は、すべての従業員が快適で価値があると感じられる職場カルチャーをつくり続ける中で、私の学び成長する能力を示す機会になります」とも言っていて、停職後に帰って来る気まんまんだったのが感じられます。

このように、なかなか自分の非を認めず復帰を示唆していたサーヴァーでしたが、急にフェニックス・サンズとWNBAのフェニックス・マーキュリーを売却すると発表しました。9/16の金曜にNBAが罰則を発表してから5日後の水曜のことです。罰則が発表してからは、1年後にはサーヴァーがコートサイドに戻ってきてしまうという失望があっただけに、この電撃的な展開には皆よろこんだのではないでしょうか。

サンズのスタッフ:「ロバートは当初、自分の行動を心から反省していたわけではありませんでしたが、彼が自分のニーズや欲望よりも、組織と街を優先できたことを知って安心しました。これで彼のリーダーシップまつわる傷や苦悩なしに前進することができます」

他のサンズのスタッフ:「私は安堵し、幸せを超えていて、力を与えられています。このカルチャーを支持していた組織の中で、まだ権力を握っているすべての男性たちを確実に根絶していきます」

サーヴァーを非難し続けていた公民権運動で有名なアル・シャープトン牧師:「これは”正義への長い道のりの最初の一歩”で、NBAはまだ”魂の探求”をする必要があります。プロスポーツにおける人種差別主義者の老害クラブは正式に閉鎖されました」

もちろん、リーグを代表するレブロンやカリーもそれを支持。レブロン:「進歩にコミットしたリーグの一員でいることに誇りに思う!」

カリーもメディアデーで「結果はそうなっているべき事そのものだったと思う…チームが早めに売却されて、そうあるべきところに行くと知りながら前進できるところまで来れたのは嬉しい」と話しています。

アダム・シルヴァーも声明で、それを支持しました:「私はフェニックス・サンズとマーキュリーを売るというロバート・サーヴァーによる決定を完全に支持する。これは球団とコミュニティーにとっての正しい次のステップだ」

このシルヴァーの声明は彼史上最短だと言われており、それが実際に彼がこの件についてどう考えていたのか物語っています。

なぜ頑固で自分の非を受け入れられないサーヴァーが、こんなにも早く心変わりをしたのでしょうか?

その理由は、自分への声明に対するメディアの突っ込み、選手やスポンサーの反発が予想以上だったからだと言われています。

なぜサーヴァーは売却に傾いたのか

前回の記事でも紹介しましたが、まずNBAを代表するスーパースターのレブロンからの批判があり、その後にドレイモンドからも、「サーヴァーがNBAの一員で自分たちを代表する事はOKではない、投票が必要なら投票をしてどのオーナーが自分たちの味方なのか見てみよう」的な突っ込んだ発言をしていて、サーヴァーへのより批判的な意見が増えることが予想されます。特にメディアデーが控えているので、記者たちも選手たちにサーヴァーについての質問をしていくと思われ、そうなると一気に罰則を重くする空気に変わるかもしれません。

また、NBPAのエグゼクティヴ・ディレクターのタミカ・トレマリオも、選手の代表としてサーヴァーの永久追放を強く要望しました。CBA交渉の中、もしNBPAがオーナーやリーグとの対立したら交渉に影響が出て、今後ロックアウトなどのやっかいな事に繋がる可能性もあり得ます。

裏では他のオーナーもサーヴァーを説得していたとも言われています。このソースは誰だったか忘れてしまいましたが、ESPNのウィンドーストかザック・ロウだったと思います。

そして、いちばんの理由は「金」だったと言われています。

サンズのパッチスポンサーであるPayPalも来年サーヴァーが戻ってくるようなら契約更新はしないと発表。そしてサンズの別のより大きなスポンサーのVerizon(通信会社大手)も動くのではないかと言われていました。

シーズン開始前のメディアデーで、もしサンズのスターのクリス・ポールやデヴィン・ブッカーが声をあげて問題が再燃すれば、このままスポンサーが離れが続いたり、ファンが試合に来なくなるリスクがあります。サンズの収益は$15Mと高くはなく、その上、しばらくタックス生活が続きそうです。このような財政状態でスポンサー離れが起きれば、更に金を失うことになり、借金に入る可能性がないとは言い切れません。

それよりも、今のうちに売ってしまえば大金を手にすることができます。フォーブスによると、2021年のサンズの球団価値は$1.8Bと言われていて、サーヴァーの持分は35~40%と言われており、球団を売却すれば少なくても$630Mを手に入れることができます。税金でどこまで引かれるかわかりませんが、一生南国でバケーションしても問題ない金額です。サーヴァーももうすぐ61歳ですし、引退して静かに暮らすのもありではないでしょうか。

サンズ売却について

サーヴァーは2004年にサンズ・レガシー・パートナーと呼ばれる投資家グループを率いて、当時の最高買収額の$401Mでサンズを買収しています。サンズには$201Mの借金があったので、実際にサーヴァーたちが払ったのは$200Mだけでした。当時のサーヴァーのシェアは30%だったようですが、The Athleticのマイク・ヴォークノヴによると、今の彼のシェアは40%近くまで行っているようです。ESPNのラモナ・シェルバーンは35%と話しています。サーヴァーの持分は35%~40%の間と見て良さそうです。

フォーブスはサンズの現在の価値は$1.8B、Sporticoは$1.92Bと試算。サーヴァーがサンズを買収した時よりも価値は4〜5倍になっています。

また、フェニックスはロスから1時間、ベイエリアから1.5時間と他のメジャーな街に近く、プライベートジェットを使えばすぐに行ける場所に位置し、気温も暖かいので、球団を持つには魅力的な街のようです。The Ringerのビル・シモンズ曰く、NBAの中でも、ロス、サンフランシスコ、ニューヨーク、ボストン、マイアミ、ヒューストン、シカゴに次ぐ有望な都市だそうです。

そのため、サンズの売却金額は少なくとも$2Bは行くと思われます。中にはThe Ringerのビル・シモンズのように$4Bちかくまで行くと予想している人もいますが、シェルバーンやヴォークノヴは$3Bになるという予想しています。

ちなみに、ここ最近の球団の買収額はこんな感じです:

他にも2022年には、ナイキの設立者のフィル・ナイトがブレイザースの買収に$2Bをオファーしています。

WNBAの球団のバリュエーションはもっと低く、今年優勝したラスベガス・エースズは昨年$2Mで買収されていたそうなので、今回のマーキュリー売却はあまり全体的な数字的に影響はなさそうです。

NBAチームの運営は独特で、チームによってそれぞれ違うそうです。そのため、サンズに関しては、球団の売却に関しては、取締役会を通さずにサーヴァーの一存で売りに出すことが可能だそうです。スポーツ球団はステークホルダーが限定されているからなのか、会社という組織として定義されていないからなのか、どうやら会社法の適用外のようですね。

売却先を誰にするのかも、サーヴァーが決めれるようです。

アンドスケープのマーク・J・ピアーズは、償いのためにもサーヴァーは黒人に売却するべきだと言っていました。サーヴァーが自分のような人に売ってしまうかもしれませんが、今のところ、それを止める術はなさそうです。NBAがなんとかバックグラウンドチェックを厳しくしたりして、球団が再びサーヴァーのような事が起きないことを祈ります。

現在サンズの買収に興味があると言われている人たちです。

  • 元ディズニーのCEOのボブ・アイガー(プレミアリーグのチェルシーの買収に参加、NFLのライダースをロスに持ってこようとした。どれだけキャッシュを集められるか不明)

  • アマゾンのジェフ・ベソス(最近NFLにマンデーナイト・フットボールの権利を買い、スポーツ進出に積極的。2022年9月時点で純資産$151Bで世界富豪ランキング2位)

  • オラクルのラリー・エルソン(ウォリアーズの買収時、金はあったがジョー・レイコブに出し抜かれた。2022年9月時点で純資産$92.7Bで世界富豪ランキング9位)

  • ジョブスの妻だったローレン・パウェル・ジョブス(亡きジョブスの妻で、ウィザーズのマイノリティー・オーナー)

ちなみに、クリッパーズのオーナーのスティーヴ・バルマーは2022年9月時点で純資産$$90.7Bで世界富豪ランキング10位になっています。これで新オーナーがベソスかエルソンになれば、超金持ち球団が爆誕します。サーヴァーとは違い、サンズはこれからタックスなど気にせずにチームを組めそうです。

また、最近のビリオネラーが大事にするのは金よりも、金では買えない「アクセス」で、コンサートやスポーツのイベントにアクセスがあるのは大きなステータスのようです(「ビリオンズ」のショーランナーのブライアン・コップルマン談)。そのためスポーツ球団買収も人気があるのではないかとの事。ビル・シモンズによると、ウォリアーズのオーナーのジョー・レイコブも無名でしたが、ウォリアーズのオーナーとなり、セールス・フォースのCEOのマーク・ベニオフのようなシリコンバレーでの成功者たちと同じテーブルに座れるようになったようです。

サーヴァー経験を活かして

NBAはサンズの売却と平行してオーナーについてどうにか改革した方が良いと思います。マーヴェリックスのセクハラ横行の時に、サンズのサーヴァー問題も、スターリンの人種差別問題もメディアが取り上げなければNBAは何もしませんでした。マーヴェリックスの時に電話をオープンにすると発表していましたが、今回のサーヴァー問題で何も機能していない事がわかりました。

また、明らかな人種差別をしていたスターリンの時でさへ、他のオーナーたちは球団強制売却の投票をしませんでした。今回の件ではっきりしたのは、NBAのオーナーたちは問題が起きても投票をしないことです。そのため、横暴な王君的オーナーを球団の取締役会で追放できるなどのあらたな制度や規約が必要です。

ESPNのケヴィン・ペルトンが提唱するように、オーナーのバックグランドチェックを徹底的にして入り口を極端に狭くするとか、コミッショナーの権限をあげるとか、NBPAの3/4が合意すれば、オーナーは強制的に投票しなくてはならない等いろいろ考えられると思います。問題が出た時こそ、改善して前進するチャンスです。

これからNBAは変わることができるのでしょうか。スポーツ界でもっとも進歩的なリーグとしての真価が問われています。


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