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ジェームズ・ハーデンの新契約について

The Athleticのサム・エイミックが、シクサーズはトレード前にジェームズ・ハーデンがマックス以下での契約をしてもいい的な情報を得ていたとレポートをしていましたが、本当にシクサーズにとってそれができると考えていたのか検証してみます。

ちなみにハーデンのマックスはオプトアウトすれば、5年で$269.7Mの契約になります。

外的要因から探る

まず、状況としてハーデンにはマックスを交渉するためのレバレッジがあまりありません。Sportracによると、今キャップがもっともあるチームはマジックの$28.6Mで、ハーデンどころか0~6年選手のマックスすら出せません。もちろん、選手をトレードするとかチーム・オプション次第でもっとキャップスペースをあけらるのですが、リーグのキャップスペースは干上がっている状態です。これはハーデンはFAになって他チームに行くという脅しの交渉ができないことを意味します。

また、ブルズのラヴィーンやウィザースのビールとのサイン&トレードなども可能ではありますが、他の選手やチームが入ってくると裏をとっていないと交渉もできません。ハーデンにはエージェントがいないようなので、そこまで話を広げた交渉をまとめるのは大変な作業になります。まさか、またトレード要求することはないとは思いますが…

そうなると、ハーデンにとっての金銭的ベストはシクサーズに残って、バードライトを使っての再契約や契約延長をすることになります。これらの外的要因はトレード前から変わっていません。

そのため、シクサーズは金銭的にハーデンに対して強く出ることができ、別にマックスではなく、他のチームがハーデンにオファーできるちょっと上の金額を提示しても良さそうです(逆にシクサーズもハーデンに出て行かれたら代わりをどうするかという話もありますが)。たとえそれが自分の希望金額に満たなくても、ハーデンにとってはそれがベストオファーになり、その目安としては$30Mからはじまる5年で$173Mくらいの契約でしょうか。他のPGと比べてもこのような金額になるのですが、それは後述します。これだとマックスから$100M近い差が出てしまうので、もうちょっと高い金額からの交渉が現実的だと思います。

次は「マックス」の観点から見たケースを紹介します。マックスの解釈次第では、実はハーデンは「マックス」ではなくても「マックス」をもらえるため「マックス以下での契約はしても良い」という話も成立してしまうのです。

マックスのカラクリ

マックスとはCBAで規定されたサラリーの最高減額をもらえるという意味ですが、今やボーナス込みでもマックスと言っていたり、契約年数も関係なくマックス金額もらえるならマックスと言っているケースも出てきているので、その定義も曖昧になってきています。ここではそう言った変数は省いてハーデンの「マックス」を観ていきます。

ハーデンには今3つの「マックス」契約があります。

ここではキャップは予想されている$122Mと仮定して計算していきます。

マックス①

来シーズンの$47.3Mのプレーヤー・オプションをオプトアウトした場合です。ハーデンのような10年選手のマックスは$42.7Mになりますが、実は、マックスを超えても前のシーズンから5%多いサラリーをもらうこともできます。ハーデンの場合、2021-22シーズンの$46.5Mから5%多く契約をはじめることができ、新しい4年のマックス再契約は$223.3Mになり、5年のトータルは$269.7Mになります。

この場合、初年度は来シーズンオプトインすればもらえる$47.3Mよりも低い数字になりますが…

マックス②

ハーデンはマックス①よりも多い契約を結ぶことも可能です。来シーズンの$47.3Mのプレーヤー・オプションをオプトインして、4年のマックス契約延長するのです。そうすると、サラリーはマックス②よりもおよそ$5M多い5年トータルで$273.5Mになります。これがハーデンにとってはベストです。

マックス➂

もし仮にハーデンがバードライトを放棄してFAになった場合のマックスは$42.7Mになります。これは①と②よりも少ないですが、シクサーズとは4年で$192Mのマックス再契約が可能です。しかし、これを実現するためには、シクサーズはキャップスペースを空けるためにトバイアス・ハリスをトレードして、シェイク・ミルトンとファーカン・コークマツをサラリーダンプして、アイゼィア・ジョーとチャールズ・バッシーを放出することが条件になります。シクサーズがわざわざこの方向に行くことも、ハーデンがバードライトを放棄することも現実的ではありませんが、数字的にはこれもハーデンのマックスになるので一応言及してみました。

このようにハーデンのマックスは➂$192M > ①$269.7M > ②$273.5M、となり、仮に①の$269.7Mの契約をしても「マックス以下の契約」になり得ます。

これであれば、モリーお気に入りのハーデンのメンツも保ちながら、シクサーズのキャップ事情にも少しだけ優しいとWin-Winの契約内容になる上に、「マックス」以下の契約と言うこともできるので、エイミックのレポートはこのことを指しているとも考えられます。

その場合は、37歳のハーデンに$60M+を払わなければいけなくなりますが…トレードした時はもちろんみんなロケッツ時代のハーデンを得たと思っていたと思うので、トレード時はその金額も納得していたのかもしれません。

はじめからマックス以下で合意していた可能性も

または、文字通りマックス以下の契約で合意していたかもしれません。32歳のハーデンに5年マックスをあげるのはシクサーズにとっては不確定要素が大き過ぎます。なにせ37歳攻守で動けない選手に$60M+払うことになってしまうかもしれません。

また、クリス・ポールやレブロンと違って、今32歳で夜遊びが好きなライフスタイルもプレーの質に影響してくるのではないかと不安視されています。

そのため、両者ともにある一定の金額で事前合意していた可能性もあります。

その時の数字は、1年平均$35~37Mのオプションなしの5年契約という$175M~$185Mというレンジの契約が現実的な数字かもしれません。オプトインして$35Mの4年契約延長で、5年トータル$187.3Mと「マックス以下」の数字に落ち着く等いろいろ考えられます。これならハーデンにとっては37歳になった時もそこそこもらえるので、本人もケガやパフォーマンスが衰えた場合のリスクヘッジとして納得できる数字なのではないでしょうか。

最終的な見通し

このようにハーデンの状況を見て行くと、ハーデンの契約は187.3M~$269.7Mの間で収まると思われます。

ただ、これはトレード前の話なので、プレーオフで良いパフォーマンスを見せれなかった今はどうかはわかりません。現状のハーデンのプレーからはマックス・プレーヤーが見えてこないので、シクサーズも上記のようなマックスやマックス近くの契約オファーには躊躇するのではないでしょうか。

数字の衰えに関しては、The Ringerのケヴィン・オコナーがまとめていたので紹介します:

  • フローター:過去4シーズンで46.7%→33.3%に

  • ブロウ・バイ:ロケッツでの最後のシーズン48.2%→33% ターボ・ファーストステップがなくなり、リムへドライブしなくなっている。

  • ドライビング・レイアップ:過去4シーズンで55.7%→今年48.1%に

  • パス:68回/試合、ロケッツでは53回/試合と多くなっている。アシストはシクサーズでは10.5/試合で、ロケッツでは7.7/試合。

  • アイソ:この4シーズンは16.7回で、アイソ平均得点は1.14→今シーズンのアイソは11.1回/試合で、アイソ平均得点は1.06

他のアドバンス・スタッツの数字も落ちていて(ネッツでトレードされるために手を抜いていた試合もあったからかもですが):

  • BPM:3.9。これよりも低かったのはサンダー時代の最初の2シーズンだけ。

  • TS%:58.3% これはキャリア最低ラストから2番目。

  • PER:20.9。これよりも低かったのはサンダー時代の最初の2シーズンだけ。

ロケッツ時代と比べると役割/チーム構成やチームメイトも変わっているも数字を出せていない一因でしょうが、最近のハーデンはかつてのような活躍ができていません。ドリブルで抜けずにドライブができないこことや、ドライブしても決められなかったり、ステップバック・スリーがあまり決まらないことは様々なところで言われていますし、32歳のハーデンが今後も以前のようなプレーは取り戻せる保証がありません。

(シクサーズで再び一緒になったハーデンとプレジデントのダリル・モリー)

ただ、プレーオフで調子が悪かった(?)と言っても、まだ来シーズンまではオールスターです。少なくともプレーメーカーとして活躍できるのは間違いありません。そのようなPGのサラリーと比べると、ディアンジェロ・ラッセル($31.3M)、カイル・ラウリー($28.3M)、ジュルー・ホリデー($32.5M) と同レベルかそれよりも多い金額は行くでしょう。そうなると、前述したように$175M~$185Mあたりが現実的な数字かもしれません。

その場合は、1年目:$47.3M ➡︎ 2年目:$36.2M ➡︎ 3年目:$33.3M ➡︎ 4年目:$30.4M ➡︎ 5年目:$27.5M ➡︎ トータルで$175.0Mと1年目の大きな金額を払ってさげていくこともできます。これならシクサーズは将来的にハーデンをトレードしやすくなります。

あとは契約年数も交渉時の大きなポイントになるかと思います。また、他にもプレーヤー・オプションのありなしや、ギャランティーがあるならその数字に合意したり、スタッツやプレー時間をインセンティブ(ボーナス)を組み込んだりといろいろな要素が絡み合ってきます。最終的な契約内容がわかれば、どちらがどれだけ譲歩したのかわかるかもしれません。

とりあえずは、ハーデンがプレーヤー・オプションをどうするのかですね。期限は6/30までです。そこから次が見えてくると思います。

ハーデンのマックス閑話

これはプレーオフ・シリーズとヒートとのゲーム3の場面ですが、守備のミスについてエンビードから苦言を呈されている時の場面です。ハーデンが最近チームメイトからこのように言われているのはちょっと見たことありません。

他にもゲーム5の1Qでもふたりのプレーの意見のくい違いが出ていました。エンビードがハーデンにウィークサイドにいるサイブルにボールを回すジェスチャーをした後、ハーデンはエンビードにスクリーンをするように要求していたりしました。その時は軽くスクリーンをかけに行ったエンビードとのPnPになりましたが、その後そのことについてニエンが2人と話をしに行ったように見えました。

以前、ハーデンのトレードの記事でも紹介しましたが、ロケッツのスタッフによると、ハーデンは自分の味方でなければ敵だと捉えるそうです。これまでも。自分とうまくいかないとチームメイトをトレードで入れ替えてきました(ドワイト・ハワード、クリス・ポール、ウェストブルック、ネッツは自分がトレード要求)。この性格のハーデンと、物怖じせずに何でも口にしてしまいそうなエンビードのコンビはうまくいくのでしょうか?こういう場面を見ると試合展開よりもハラハラしてしまいます。

まさか、シクサーズが、MVP投票2位で「ザ・プロセス」のエンビードをトレードするとは思えません。ハーデンはエンビードと仲良くするしかないのですが、チーム・ケミストリーはうまく醸すことができるのでしょうか。ハーデン本人は、チームが成長して優勝するためならなんでもする的なことを言っていましたが…新契約後のハーデンに期待です。


参考サイト:James Harden contract primer: Everything you need to know about the star Sixers guard’s deal and what he could make

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