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プールとマキシィから見るNBAの未来

プレーオフがはじまり、もうすべてのファーストラウンド・シリーズも終わろうとしています。その中でも特に目覚ましい活躍をしていたのが、タイリース・マキシィ、ジョーダン・プール、ジェイレン・ブロンソン、アンソニー・エドワーズら若手のガードたちです。

今回はその中でもドラフト1巡目の後半の20位台に指名されたウォリアーズのジョーダン・プールとシクサーズのタイリース・マキシィにフォーカスを当てて、彼らの成功の秘訣を探ります。

ジョーダン・プール

ドラフト28位(2019)

ルーキー時代は57試合(1274分)に出場し、PERが7.2でBPMは-6.6とベンチにも入れないような数字でした。ドレイモンド曰く、このままいけばリーグで生き残れるかの瀬戸際だったそうです。それが、去年のGリーグのバブルで活躍した後、ヘッドコーチのスティーヴ・カーの信頼を得てローテーションに入るまで成長しました。今シーズンに入ってからはクレイの代わりにスターターに入り、チームの20勝3敗のスタートダッシュに貢献しています。途中波がありましたが、オールスター後から本格的に覚醒しはじめ、17試合連続で20点をとるようになるまでインプルーブしました。ドレイモンドの信頼を得たのがプレーに大きく影響したように感じます。

そして、キャリア初のプレーオフで更に爆発し、最初の2試合で29ショット撃って59点取っています。その2試合でのプレーオフでのスリーは59.1%(レギュラーシーズンで36.4%)。今シーズンのオフムーブメントからのスリーは39.8%とすらばしい数字です。クレイからは「ベイビー・ステフ」だと呼ばれるようなプレーをし、ドレイモンドとのコンビネーションはまるでステフとのコンビネーションのようです。

http://nbareporter.net/wp-content/uploads/2022/04/JordanPoole_1.mp4

プールは自身の成長について:「毎日ステフとクレイを見ることができて、彼らのフィルムを観る。彼らはそれをハイレベルでやっている。だから私は彼らがやっていることをマネしているだけだ」ただ、マネをしているのは良いところだけではなく、悪いところもマネしまっていたそうです。レギュラー・シーズンでのサンズ戦でプールがオフェンスの流れを乱すシュートをした時、ステフはコーチたちに「私は良く彼に教えられていない。彼は私を見すぎている!」と冗談で叫んだそうです。

ただ、この3年でプールがステフを超えたものがあります。それはフリースローです。

FTAが最低200本以上のFT%ランキングでは、プールが92.5%でリーグ1位で、ステフが92.3%で2位になっています。それでもステフはテクニカルのFTはプールに譲る気は全くないようです。

プールにいつテクニカルFTを譲るのか聞かれたステフ:「絶対に(それは)ない。私が10本連続で外そうが、私がまだラインに立つ」

プールのプレーオフの数字が良い理由のひとつに、ナゲッツにはポイント・オブ・アタックを止められるディフェンダーやウィング・ストッパーがいない(アーロン・ゴードン?)のもあるでしょう。次のグリズリーズ(おそらく)のシリーズでは数字は落ちるでしょうが、ハンドルもフットワークもスピードもあり、バスケットも両手で決められ、パスもあるのでプレーのクオリティーはサステイナブルのように見えます。

その中でもプールが特徴的なのが、「縦のスピード」と「スリー」の共存です。アナリストのデヴィット・ソープはプールのことを「普通であれば、こんなに速い選手がアウトサイドのショットを決められるはずがない」的なことを言って褒めていました。

また、他にもすごいのがプールがラインアップに入った時のウォリアーズが叩き出す数字です。

今シーズン、カリー、プール、クレイ、ウォギンス、ドレイモンドのラインアップは、プレーオフの最初の2試合で11分で、オフェンシブ・レイティングが204.3、ディフェンシブ・レイティングが75.0で、ネット・レイティングが129.3とスクリーン画面が爆発してしまうかのような驚異的な数字でした。

4試合32分では、オフェンシブ・レイティングは147.8、ディフェンシブ・レイティングは113.4、ネット・レイティングは34.4と落ち着いてきましたが、まだ(懐かしの)デス・ラインアップ級の数字です。

デス・ラインアップ、ハンプトンズ5、そしてこの新しいラインアップの数字を比較してみました。

シーズンプレーヤーオフェンシブ・レティングディフェンシブ・レティングネット・レティングデス・ラインアップ2015-16カリー、クレイ、イギー、バーンズ、ドレイモンド 142.095.047.0ハンプトンズ52018-19カリー、クレイ、イギー、KD、ドレイモンド125.397.328.0ニュー・デス・ラインアップ2021-22カリー、プール、クレイ、ウィギンス、ドレイモンド 147.8113.434.4

まだスモールサンプルではありますが、レギュラーシーズンでは、カリー、クレイ、プールの3人が揃った時のオフェンシブ・レイティングは121.7、ディフェンシブ・レイティングが89.0、ネット・レイティングが32.7とすばらしい数字になっているので、これも継続性があるのではないかと思います。

さっそく巷では、この5人のニックネームは何がいいのか議論がはじまっています
● Stats Museは「DeathCon 5」、
● ジョン・ホリンジャーは、「Magadeath Lineup」
● ティム・カワカミは、「Death and Maxes」と呼んでいます。

プールが入ったラインアップはどんなニックネームに落ち着くのでしょうか。

タイリース・マキシィ

ドラフト21位(2020)

レギュラーシーズンはPER 16.2 TS 59.4% BPMが0.6でしたが、ハーデンがトレードされて来てから、パスする役割から解放されてスコアラーになりました。ディフェンスのターゲットが、ボールを持つハーデンに移ったからか、TS%が65.5%で平均18.5得点を記録できています。

プレーオフでは、リストリクテッド・エリア内では13本中13本決めて、TS%が脅威の72.9%になっています。

ファーストステップは電撃的に速く、フローターがとても巧いです。レギュラーシーズンとプレーオフ合わせてリーグ10位に入る(72本)ほど決めています。彼のように走りながらフローターを決めれる選手はあまりいないのではないでしょうか。

https://cdn.theathletic.com/app/uploads/2022/04/19203821/maxey-fvv.mp4?_=1

切り込むだけではなく、シュートも決まっています。今シーズンはスリーのキャッチ&シュートが44.9%、ドリブルからのスリーが40.3%になっており、この2つで40%を記録している5人の選手の中の1人になっています。

プレーオフの最初の3試合ではスリーを14本中8本決めています。昨シーズンのスリーが30%だったので、その成長は目を見張るものがあります。

ESPNのティム・ボンテンプスによると、それはルーキーシーズンを終えた夏にスリーをたくさん練習した賜物だったそうです。マキシィ:「朝6時に一番のりでジムに行き、少なくても700~800本を決めようとしていた。それから筋トレして、10時に戻って同じことをする」

彼は去年のシーズンを終えてからは、毎日1%でもうまくなるように練習してきたそうですが、このペースで成長していけば、あと数年でオールスターも狙えてくるのではないでしょうか。

ニュータイプのガードがゲームを変える!?

プールとマキシィのような「スピード」と「シュート」の2つが揃ったタイプのガードはなかなかいません。確かに、速い選手は運動能力に頼りがちで、シュートはうまくない印象です。今シーズンのジャ・モラントもスリーは34%ですし、NBA最速と言われているディアーロン・フォックスのスリーは29.7%でした。かつてのスピードスターのジョン・ウォールは、スクリーンでは必ずアンダーにいかれていて、相手にとっては対策しやすかった印象です。反対に、トレ・ヤングのようにシュートが上手いガードはエリート級の運動能力がありません。

また、このような選手はチームのためにスペースを与えることができ、時には自分でもスペースをつくって点がとることができるため、走るオープンコートも良し、ハーフコートも良しで、常にディフェンスにプレッシャーを与えることができます。ボールを常に持つ必要もないので、スター選手との相性も良さそうです。

タイミング的に同時にこのようなスピード&シュートの選手が、NBAでもっとも大きなステージで活躍をしているのを見ている若者やコーチも刺激を受けるのではないでしょうか。来シーズン、彼らがオールスター級の選手に成長できれば、これからもこの2人のようなスピード&シュートを兼ね備えたタイプの選手が増えて来きそうです。今後は「3&D」のように彼らをひと言で表す言葉も生まれてくるのではないでしょうか。

そうなると、対戦チームはスピード&シュートに対応するディフェンスを組み込む必要が出てくるため、長くて横に動けてスウィッチできる3&Dの需要がますます高まっていきそうです。それに伴い、ペリメーターでのディフェンスの重要度も加速して、リム・プロテクションと同等かそれ以上に考えられるようになるかもしれません。

加えて、今シーズンではヒートのゾーンに展開したり、スウィッチでプレッシャーをかけるディフェンス、セルティクスのリム・プロテクションとペリメーターのディフェンスが共存しているスタイルなども出てきています。それが勝利に貢献していることは間違いがないので、数年後にはこのようなディフェンスがメジャーになっていくと思われます。

そう思うと、このプレーオフでの2人の活躍は、NBAのゲームが進化し続けて行くことを意味しているとも言えます。みなさんもプレーオフではこの2人のプレーに注目してみてください。


参考サイト:NBA playoffs 2022: The driving forces behind Tyrese Maxey's second-year leap with the Philadelphia 76ers

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