ウィザーズの5チーム・トレード Part 3:ディンウィディーのサイン&トレード篇
フリー・エージェントになったスペンサー・ディンウィディーは、自分と同じポジションにラッセル・ウェストブルックがいたのでウィザーズに行くことは考えていませんでした。
ディンウィディーはフリーエージェンシー前に、エージェントと一緒にどうなるかのシナリオをいろいろ想定したそうです。カイル・ラウリーはどこに行くか?CP3はサンズを出て行くのか?ロンゾはペリカンズと再契約するのか?それでどうなるのか?キャップルームはどうなるのか?みんなで集まって、深夜2時くらいまで考えていた日もあったそうです。
その時に、ディンウィディーたちがPGを必要とするであろうチームだと想定していたのは、レイカーズ、ヒート、マーヴェリックス、ペリカンズだったそうです。ドラフトの日(FAの3日前)にウェストブルックがレイカーズにトレードされたため、メインのPGを失ったウィザーズも選択肢に入ってきました。
ウィザーズにPGの枠が空いた時、ディンウィディーは同年代のブラッドリー・ビールと自分のスタイルやパーソナリティーがうまくはまりそうだと感じていたようです。ビールともフィットできるし、PnRのパートナーになれるブライアントやギャフォードがいることもプラス要因になったのではないでしょうか。何よりも、ウィザーズにはキャップがありませんでしたが、タックスまではまだ余裕があったので希望するサラリーももらえるチャンスがありました。
ディンウィディーは、フリーエージェンシーがはじまった8/2にウィザーズと3年契約に合意をします。
しかし、ディンウィディーがキャップのないウィザーズに行くには、ネッツとのS&Tしか方法がありません。もしネッツがこのS&Tで首を縦に降らなければウィザーズへの道は閉ざされます。
そうこうしてウィザーズがネッツと交渉している内に、獲得競争が激しいPGまわりのフリーエージェンシー市場は早く動き、カイル・ラウリー、ロンゾ、マイク・コンリー、クリス・ポール、デリック・ローズと次々に契約合意を決め、PGに空きがあったチームがどんどん減って行きました。
キャップがあったマブスはティム・ハーダウェイと契約、ニックスも次々と契約を決めていきます。続いて、アレックス・カルーソ、コーリー・ジョセフの控えのPGも契約をまとめていきます。そしてロンゾがいなくなったペリカンズはS&Tでデヴォンテ・グラハムを獲得。ここまでフリーエージェンシーがはじまって3時間です。
ディンウィディーはフリーエージェンシー初日は落ち着くことができず、交渉していたホテルでずっと行ったりきたりしていたそうです。どうなるか余談を許さない状況が続き、ディンウィディーは昼も夜もあまり寝られなかったそうです。そんな状況でもNBAは彼らを待つことはなく、多くのチームのMLEやロスター枠がなくなって行きます。
それにつれて、ディンウィディーのお金も選択肢もレバレッジもなくなって行きます。もしウィザーズがネッツとの交渉がもつれれば、どこへも行けなくなってしまう可能性もあります(*シュルーダー)。
翌日の14:00にはネッツはPGのパティー・ミルズと契約合意します。その4時間後にはイッシュ・スミスも移籍先を確保します。
ここまで来ると、ディンウィディーが望むサラリーがあるキャップが残っているのはサンダーくらいしかありません。サンダーは再建中で、来シーズンもタンクしたいそうなので、お互いに良いパートナーにはなれないでしょう。あと残すは、強豪ならミニMLEの約4.9億円、金をとるならフルMLEの約9.6億円くらいです。
それを避けるためには、本当にサイン&トレードで移籍するしか方法がないのですが、問題はネッツがサラリーをリターンでもらいたがっていないことです。こうなると、ディンウィディーにとってはウィザーズの交渉がうまくことに希望を託すしかありません。
ネッツの最大の問題はサラリーです。KD、アーヴィン、ハーデンの3人ですでに約119億円とキャップをはるかに超えており、タックスは約100億円を超えてしまっています。そのため、ネッツはタックスに大きく影響する選手たちは取りたくなかったそうです。
もちろん、ウィザーズとのS&Tでもクズマ、ハレル、KCPには興味がなく、どちらかと言うと彼らよりも安くて若いデニ・アヴディアを欲しがっていたそうです。しかし、ウィザーズは昨年のロッタリー指名のアヴディアを諦めませんでした。
そうなると、サラリーマッチをしなければいけないウィザーズは、ディンウィディーをラッセル・ウェストブルックの巨大なサラリーを利用してレイカーズとのトレードに含めるしかありません。
おそらくこの流れで5チーム・トレードになり、ウィザーズはネッツの他にもレイカーズとスパーズと同時に交渉しなくてはいけなくなります。この辺りの様子はPart 2に書きましたので、気になる方は読んでいただければと思います。
その間にも、時間がどんどん過ぎていきます。ディンウィディーは最後の方は寝不足になっていて、昼寝をしなければもたないと思った時もあったそうです。
フリーエージェンシーがはじまってから約48時間後、やっと複雑怪奇な5チーム・トレードの交渉がまとまり、ディンウィディーのウィザーズ行きが決まりました。
ネッツがウィザーズから得たのは、2024年と2025年の2巡目指名権とディンウィディーの約11.5億円のトレード・エクセプションです。セルティクスもフォーニェのS&Tで2巡目指名権を2つもらっていので、S&Tで2つの2巡目指名権は妥当なリターンだと思います。
また、ネッツはディンウィディーに2018年の契約で借りがありました。ディンウィディーがマーケット価値よりも低い3年で約34億円の契約にサインをしたため、ネッツは2019年にカイリー・アーヴィンとケヴィン・デュラントと契約するキャップルームを空けることができました。また、ディンウィディーはカイリー・アーヴィンのリクルートもしていました。今回、ネッツは最終的に彼をS&Tで希望するチームへと行かせたことで彼に報いたのかもしれません。
ディンウィディーがトレードを振り返って:「私が頼っていたのはネッツと交渉しているウィザーズだけではなかった。他にも5つ、6つのチームに頼っていた…。だからとても厳しい状況だった」
ハグリット:「お前はウィザードだ、ハリー」
ハリー:「僕がなんだって?」
ハグリット:「ウィザードだよ」
5チームトレード詳細
ウィザーズが得たもの:
スペンサー・ディンウィディー(via ネッツ)
KCP(via レイカーズ)
モンテレズ・ハレル(via レイカーズ)
カイル・クズマ(via レイカーズ)
アーロン・ホリデー(via ペイサーズ)
31位指名権、アイゼィア・トッド(via ペイサーズ)
キャッシュ(via ペイサーズ)
ネッツが得たもの:
2024年の2巡目指名権 グリズリーズ/ウィザーズの最高順位(via ウィザーズ)
2025年の2巡目指名権 ウォリアーズ/ウィザーズのスワップ(via ウィザーズ)
2015年の1巡目指名権のニコラ・モルティノヴ(via ウィザーズ)
約11.5億円のトレード・エクセプション
スパーズが得たもの:
チャンドラー・ハッチソン(via ウィザーズ)
2022年の2巡目指名権 ブルズ/レイカーズ/ピストンズの最高順位(via ウィザーズ)
レイカーズが得たもの:
ラッセル・ウェストブルック(via ウィザーズ)
2023年のブルズの2巡目指名権(via ウィザーズ)
2024年の2巡目指名権 ウィザーズ/グリズリーズの最低順位(via ウィザーズ)
2028年のウィザーズの2巡目指名権(via v)
ペイサーズが得たもの:
22位指名権のアイゼィア・ジャクソン(via レイカーズ)
ディンウィディーの契約詳細
ディンウィディーのサラリーの詳細です。
21-22:約17,14億円+約3.47億円(+1ドル)ハードキャップになるのでボーナスのすべてがキャップに計上されます。合計で約20.61億円
22-23:約18億円+約3.47億円(+1ドル)
23-24:約18,85億円+約3.47億円(+1ドル)
もしウィザーズが優勝すれば、ボーナスは1ドルだそうです。ウィザーズは最初、その優勝ボーナスはジョークだと思っていましたそうですが、ディンウィディーが本気だったと気づいたそうです。これはまちがいなくNBA史上最低額のボーナスでしょう。
ディンウィディーとウィザーズ
ディンウィディーがウィザーズでのプレーについて語りました。
ディンウィディー:「レイカーズで、KCP、クズマ、ハレルはブロンとADのまわりでプレーしてきた。それはここでは変わる。そして、ビール、塁、ギャフォードもまったく新しいシステムでプレーすることになる。そしてネッツから来た私が入ってくる。ペイサーズからはアーロン・ホリデーがくる。それでローテーションの多くの時間分数が使われることになるだろう。どうお互いにかみ会えるようになるかはやってみないとわからない」
ウィザーズはもう若いチームというわけではありませんが、新しいチームなので、ローテーションやお互いどうプレーするのかわかりませんし、新しいコーチに新しいシステムなので、まだどう転ぶかまだわかりません。それでもディンウィディーはプレーオフを狙っているようです。
ディンウィディー:「プレーオフには行きたい。プレーインに入るチームにはなりたくない。できるならホームコートを争いたい。それが理想的だ」
また、新ヘッドコーチのウェス・アンセルドがやっていきたいのは、昨シーズンやっていたような1パスや0パスのオフェンシブ・ポゼッションをなくすことだそうです。彼はもっとモーション・オフェンス、またはもっと動きのあるオフェンスをやりたがっているそうです。
それについてディンウィディーは、個人よりも総合力の方が大事なのもわかっているけど、チームのヒエラルキーも大事だと思っているそうです。ディンウィディー:「トーマス・ブライアントがビールよりも多くシュートを撃つ試合が複数回あってはならない。でもそれはビールにボールをパスし過ぎるということでもない。微妙なラインだ。でもそれができるようになれば、ボールが動き、チームのためにプレーできるようになり最高の結果につながる。それはチームの現実を見て、チームが勝つためになんでもするということだ」
他にディンウィディーが強調していたのはピック&ロールです。019–20シーズンにNBAのロブ・コンビネーションのトップ3の内の2つに入っていたそうです。
1位はディンウィディーとデアンドレ・ジョーダン
2位がジェームズ・ハーデンとクリント・カペラ
3位がディンウィディーとジャレット・アレン
そのため、ウィザーズのビックにはギャフォード、トレズ、トーマス・ブライアントと複数の選択肢があり、いろいろなスタイルでプレーできると考えているようです。
ディンウィディー:「ブライアントはポップバックしてスリーを撃てるし、私はショートロールしているトレズにパスを出せる。彼は得点だけではなくプレーメークもできる。ギャフォードはロブの大きな脅威になれる」
ディンウィンディーは優勝ボーナスを真剣に1ドルを要求するような「ハイキャラクター」でもあり、自称「ジャンパーが撃てるテック系」で、テック企業のアントレプレナーでもあります。7月に約7.5億円を調達した仮想通貨とソーシャルメディアを組み合わせたアプリ「CALAXY」をリリースしたばかりです。「CALAXY」は簡単に言うと、世界初のクリエイターによるクリエイターのためのソーシャルメディアで、ファンとクリエイターをつなげる場だそうです。
高校時代はハーバード大に楽勝で入れるくらいの成績とSAT/ACTのスコアを取っていたディンウィディーは、早くからビットコインやブロックチェーンなどの最新技術に興味を持っていて、2019年にも自分のサラリーをトークナイズして売ろうとしましたが、NBAにギャンブルだと認定され禁止されたりしています。
2019年のカワイのフリーエージェンシーから2年。それがこのような大型トレードに影響していると思うと、まるで人生のようで奥深いですね。そしてこれがまた次のフリーエージェンシーに続いて新しい物語をつくって行くのでしょう。このようなオフシーズンの動きもNBAの醍醐味だと思います。
ウィザーズの5チーム・トレード Part 1:ウェストブルック篇はこちら
ウィザーズの5チーム・トレード Part 2:ウィザーズ篇はこちら
参考サイト:Spencer Dinwiddie on Wizards fit, playing with Bradley Beal, Thanos, a $1 championship incentive and more / Spencer Dinwiddie to Wizards in 3-year, $62 million sign-and-trade: source
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