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Wojとネッツ

前回特集したKDの最終通告のニュースではESPNのWojの姿が見られませんでした。Wojはツィッターを8/7~16の間更新していなかったので、きっと夏のバケーションに行っていたのでしょう。ただ気になるのは、WojだけではなくESPNのレポート自体がなかった事です。あるにはありましたが、他社のようなビックニュース的な扱いではなく、とても地味な取り扱いでした。タイトルも「ブルックリン・ネッツのガバナーのジョー・サイが、ケヴィン・デュラントのトレード要求があった後、フロントオフィス、コーチのサポートに声をあげた」で、KDの最終通告のかけらも見当たりません。しかも記事はアウトソースしたAPからのもので、内容も「首」の言葉はいちども出さずに「どちらかを選択」という表現で乗り切っていました。Wojのライバルであり、このネタを最初にレポートしたThe Athleticのシャムズ・シャラニアの記事のタイトル「ケヴィン・デュラントがネッツのオーナーに、彼をトレードするかスティーヴ・ナッシュとショーン・マークスを首にするか伝えた:ソース」とはほぼ真逆の扱いです。

この辺りの同じニュースの取り扱いの違いが気になるところですが、それはなぜなのでしょうか?NBAレポーターについてのマニアックでオタク的な内容になりますが、今後のネッツにまつわる情報との付き合い方にも影響してくるので、このタイミングで取り上げてみたいと思います。

Wojとソース(情報源)

ハーデンのトレード情報の出遅れ方や、このKDとサイのミーティングに関する情報をネッツ寄りの表現にしていることから、Wojはネッツまわりの情報をネッツのフロントオフィス ー特にGMのショーン・マークスー から直で得ていることはまちがいないでしょう。そう考える理由ですが、今回の記事でもESPNがマークスの「首」という表現を避けたように、Wojは情報を提供してもらっているGMのことは決して悪く言わないからです。

その傾向はWojがYahoo Sports所属の時からありました。Wojは、当時ピストンズのプレジデントだったジョー・デュマスから情報をもらっていたため、ピストンズの2008年の11/4のアレン・アイヴァーソンのトレードから2014年のヘッドコーチだったモ・チークスを首にすることまでスクープできていました。その見返りに、Wojはデュマース寄りの記事を書いていました。

KNRのケヴィン・ドレイパーによると、Wojは2008年から2014年までピストンズが低迷していた時期もデュマスの仕事ぶりを否定するような記事を一度も書いていないばかりか、彼のことを擁護する記事を書いていたそうです。2012年にWojがピストンズの再建がうまく言っていないことを無視できなくなり、そのことについての記事を書きますが、その中でも「ゆっくりと、でも確かに、デュマースはピストンズを再生させている」とデュマース擁護の表現を盛り込んでいます。ちなみにピストンズの成績は、2011-12シーズンは25勝41敗、2012-13シーズンは29勝53敗、2013-14シーズンも29勝53敗でした。2014年にデュマースは再建を果たす事なくプレジデントから降ろされてアドバイザーになっています。

Wojとデュマースの関係が明るみに出たのは、2010年のことでした。NBAは、球団に送ったメモ内容がリークされ過ぎるため、誰が情報をリークしたか囮捜査をした事があります。NBAはチーム別に数字や文言を変えたメモを送り、どのメモがリークされたのか調べたのです。犯人はデュマースでした。デュマースがWojに何度も情報を流していたようです。このためデュマースは当時史上最高額の$500Kの罰金を課せられています。ひょっとしたら、Wojは自分のせいでデュマースが5000万円以上の罰金を払うことになってしまい、自責の念(または借りを返すために)にかられ、デュマース寄りの記事を書いていたのかもしれません。

もしそうであれば、反省したWojはある特定のGMに対しては好意的な記事は書かずに、その後はジャーナリズムに徹して公平な記事を書いているはずです。そこで、Wojが他にも情報源を守るような記事を書いてないか調べました。

それが出てきました。それはブレイザースの元GMのニール・オルシェイについてです!

オルシェイは昨年パワハラで首になりましたが、Wojはデュマースの時のように、彼の仕事ぶりを擁護する記事を書いていました。2021年にオルシェイがパワハラ調査で首になりそうだと囁かれている時、Wojはリラードの契約延長について「ポートランドに相応しいプロフィールを持つトップレベルのGM候補の何人かは、リラードに2026-27までの大きな契約延長を与えることには乗り気ではない」とか「今、リラードのグループはその契約延長で秘密裏に価値のあるベテランチームメイトをトレードして、彼中心に再建するアイディアを売っている」など、オルシェイの仕事ぶりを正当化し、うまくいかないことをリラードのせいにするようなナレティブをつくろうとしていたのです。

この記事を読めばWojのポジショニングがわかるので、このリラードへの”誹謗中傷的な”記事はWojとオルシェイが共同で書いたとまで揶揄されていました。そしてリラード本人は、そのことについて下のようにツィートして反応しています。トランプがWojで、ペンスがオルシェイでしょうか。

リラード:「それに驚きはない」(ニュアンス的には「彼らはそういうヤツらだ」と言っているのだと思います)

このように、Wojは情報源を良く見せる記事を書く傾向があります。今回のESPNのKDの記事もそうです。内容の中に「首」という言葉を使わないところを見ると、Wojの意向がかなりからんでいると思われます。

WojがESPNで権力を得ているはニュースブレイク能力だけではなく、社内の力関係も影響していそうです。ESPNのCEOのジェームズ・ピタロはヤフー時代にWojと一緒でした。ピタロの方が1年ほど早くESPNに移りましたが、その動きに関しては、Wojがピタロを先にESPNに送り込んだと言う人(アミン・エルハッサン)まで出てきています。それは言い過ぎだとは思いますが、このパワーバランスもWojが懇意にしているGMについての記事のニュアンスをコントロールできる要因のひとつではないでしょうか。最近では、ピタロはWojの年間$10Mの複数年契約延長(推定)を主導していました。

Wojという男

パワハラGMを擁護するために、スター選手がまるでチームのことを考えずに自分の契約延長のことだけ考えているかのような記事を書く… Wojはソースさえ守れば情報を操作するようなことをしても問題ないと思っているのでしょうか?そうなると、ちょっとジャーナリズムからは外れた感じすらします。学者風な風貌と解説者的な話し方なので、きっちりとした情報を伝えている印象ですが、実際はそうでもなかったという事です。

悪く言えば「性格が悪い」、良く言えば「競争心が強い」という感じでしょうか。

それを良くあらわしているのが、頭角を現しはじめたYahoo時代の彼の言動です。彼は業界大手のESPNのことを「チアリーディング・ネットワーク」とか「スポーツ・ケーブル・ネットワーク」などと小馬鹿にしたような呼び方をしたり、元ESPNでPERの生みの親であるジョン・ホリンジャーがグリズリーズのVPになってルーディー・ゲイをトレードした時に、トレードを批判し、ホリンジャーのことを「ケーブル会社に勤めていた統計学者」と呼んだりしていました。

そのホリンジャーが空港の駐車場から出て行く時に、駐車場にいたWojに車の中から「ヤフーの全てのオペレーションを止めれば良かった」と冗談を言った時も、Wojはホリンジャーの走り去る車に向かって「私たちは墓の中からでもお前をやっつけてやる!」と叫んだこともあったようです。

また、Wojは2010年のスポーツメディア・ウォッチのワースト・スポーツメディアのNo.1になっています。大きな理由は、レブロンのキャブスからの移籍のレポートがまったく的を外したものだったと思われます。Wojはレブロンの「The Decision」の時、レブロンの移籍先としてデュマースのいるピストンズや、ヒート以外のチームの名前をあげていました。「The Decision」の1週間前、Wojは「まだシカゴ・ブルズが有力で、クリーヴランドが近い2位で、ニュージャージーがワイルドカードになりつつある」とレポート。その4日前には「クリーヴランドを去ると脅す必要があった、彼にそんなつもりは全くなかったのだが」とレポートしています。結局レブロンはヒートへ移籍しました。

Wojはレブロンの事をあまり良いように書いていた事はなく、2007年のオリンピック代表の記事では自分ファーストの態度だったと否定的な記事や、2009年には「レブロンは負け犬としてプレーオフを去った」という記事でレブロンはすねた子どものような態度だと書いています。まるでレブロンに恨みがあるかのような記事でした(ほんとに)。他にもレブロンのフリーエージェンシーで「彼はモンスターを生み出した」とか、「彼のエージェントや子どもの頃からの仲間や仲介人は彼を見失わないように彼の後を行進している」等、レブロンを敵視するかのような記事を書き続けていました、そのためWojは「The Decision」の時にレブロンからの情報がもらえなかったのではないかとも思えてきます。

Wojのレブロンの批判記事はヒート移籍後も続き、ヒートはプレーがよろめいてもろくソフトだとか、レブロンがプレー時間の不満を言っていることをニュースにしたりと、レブロンを責めるような記事を書いています。あるチーム・エグゼクティブはそのことを「とても個人的な何かが関係しているのがわかる」と言っています。同業者からは「エイミック、スピアーズ、ステインらのレポートはニュースなのか、ただの彼らの意見なのか混乱することはない」と皮肉られていました。

また、Wojは上院議員に「Fuck you」とメールをしたこともあります。

コロナパンデミックの時のバブルで、ミズーリ州の上院議員のジョッシュ・ハウリーがNBAコミッショナーのアダム・シルヴァーにソーシャル・ジャスティスのメッセージをユニフォームにつけることや中国との関係を批判したプレスリリース出しました。Wojはそのプレスリリースに自分のiPhoneから「Fuck you」と返信したのです。日本で言えば、自民党保守系の衆議院議員に「ファックユー」とメールするようなものです。せめて裏垢でやればいいのにと思うのですが… これでWojはESPNから2週間の停職処分を受けています。

このように、Wojは情報源のことは良く書く傾向がありますが、気に入らないと否定的な記事を書き続けるというストーカー的な要素も持ち合わせています。ひょっとしたら、Wojはニュースブレイクのトップに立つという競争心の強さから、そのような行動をとってしまうのかもしれません。

Wojとネッツ

ハーデンのシクサーズへのトレードの時に意外にも出遅れていたのはWojです。同じESPNのブライアン・ウィンドーストでさへ、ハーデンはトレードされたがっていると言っていた時に、Wojはネッツとシクサーズは交渉をしていないと言い張っていました。同じESPN内でWojとウィンドーストの情報が違ったので皆が混乱したこともあります。これまで見てきたWojの傾向から、この件に関しては、ハーデンの情報を漏らしたくないマークスから情報を得られなかったか、ネッツをトレード噂のごたごたから守ろうとしてかのどちらかです。

また、ハーデンのエージェントはハーデンの友人のため、フロントオフィスやエージェントからの情報頼みのWojにとって情報を引き出すのが難しかったのかもしれません。それでもウィンドーストやシャムズはきちんと仕事をしているので言い訳にはなりません。

結局、Wojが積極的にハーデンの情報を出してきたのはトレード要求が出てきた後でした。これもWojの情報源はネッツサイドだったことを裏付けます。

そして、今回のKDの最終通告についても、Wojはデュマースの時のようにGMのマークスを守るためにESPNにトーンを抑えるように指示していたとも言われています。元ESPNでWojの同僚だったイーサン・ストラウスは「ショーン・マークスは、ケヴィン・デュラントが彼を首にするという情報を出したたくなかったと思う。もし、あなたがチームのGMで、そのチームのスーパースターがあなたを首にしたがっているというのをみんなに話して欲しくないかもしれない。この件では、ESPNにいる人たちははこれは”侵入禁止”ゾーンだとわかっていたようだ」と言っています。

ストラウス:「Wojはが皆に”これには触れるな”と伝えたかは知らない。そうだという情報はない。でもこれだけは言える。Wojは彼の情報源を困らせたり、情報源が世に出したくないことを明かしたりした時、多くの人たちの喉元を襲ってきた」

その証拠にネッツのビートライターのニック・フリーデルもKDの最終通告に関しては無言を通していましたが、カイリーのことになると、「ネッツは彼を信じていない」等の情報を出しています。

このように、ネッツの情報に関しては、Wojはネッツに偏った情報になりがちで、どうしてもシャムズに遅れを取るためオススメしません。また、KDのエージェントは大手エージェンシーに所属していないリッチ・クレイマンです。カイリーのエージェントは義理の母で、ベン・シモンズのエージェントはレブロンのエージェントのリッチ・ポールです。Wojはクレイマンとは話をしているようですが、みんなはWojはネッツサイドだとわかっているはずです。そのため、彼らからの情報も戦略的で限定的になると思われます。

実際に、WojはKDがトレードを取り下げたことをブレイクすることができませんでした。マークスは、KDがチームに戻ることに合意したことをKDとクレイマンの会社のBoradroomとネッツの連名で発表しているます。リークを出さなかったのはKDサイドの意向でしょう。

ESPNのこれに関して記事にはライターの名前はなく、ただ「このレポートではESPNのWojの情報を使っている」とだけ書かれていて、Wojはこの件から大きく距離を取っています。The Athleticがビートのアレックス・シファーやエース級のサム・エイミックに記事を書かせているのとは大違いです。KDの最終通告でもそうでしたが、WojがこのKDのいざこざをトーンダウンさせようと動いているのは確かだと思います。

ネッツにはこれからもカイリーのシーズン中の契約延長などの話題が盛りだくさんなので、NBAファンはネッツの話題を避ける事はできません。特に、シーズン開幕2ヶ月で勝率が5割でプレーイン争いに入りそうになった場合、またKDのトレード話が再浮上するかもしれません。シモンズのトレード、ナッシュの去就などネッツドラマが大盛り上がりするでしょう。その時、フロントに偏り過ぎるWojの情報を取る前に、The Athleticのシャムズ、ESPNのウィンドースト、Bleacher Reportのジェイク・フィッシャー、殿堂入りしている元ESPNのマーク・ステインらの情報から入って行った方が良さそうです。

ただ、「Woj Bomb」というWojが爆弾を落としたという言葉が生まれるように、やはり、ニュースブレイクは最強です。ドラフト、FA、トレードなどのスポード感がある情報はWojから拾って行った方が良いでしょう。

Wojのマンバスピリット

ここまでWojのネガティブなことを書いてきたので、バランスを取る意味でもWojのポジティブなことも取り上げたいと思います。

Wojはベストなニュースブレイカーでい続けるために相当の努力もしてきています。試合でもレポーター達が部屋に集まって食事などをしている時でも、Wojはコートまわりで人脈づくりをしているそうです。挨拶をするためだけにデトロイトやマイアミへ行くこともあったそうです。そのためか、球団が誰かを雇った時、Wojはその人のことを知っているとまで言われています。

私生活でも、子どもとキャッチボールしている時に電話やテキストが送られてきていないかチェックしていたり、バケーション先でもWiFiを探してWoj Bombを落とすこともあるようで、すべてをこの仕事に捧げています。本人曰く、「これは1年52週間の仕事」だそうで、来年のフリーエージェンシーの情報を得るために、今の内(から動いているとの事。Woj:「私はトップ・フリーエージェントのチャートを持っていて、その年を通して毎日ずっと6/30や7/1に向けてニュースをブレイクできるポジションにいられるかをしているか自問している」

ESPNのザック・ロウ:「誰かがWojに情報を与えたと聞くのが嫌いだ。誰も何も与えてくれはしない。自分の時間をリレーションシップやみんなに注ぐことによってそれを受け取けるんだ」

Wojの努力は電話やテキストだけではありません。ストラウスによると、Wojはエージェンシーに対しても「なぜ自分に情報を集めるべきか」というプレゼンをしていたようです。その時のWojのプレゼン資料です。ESPNのロゴを使っていますが、ESPNは「彼のためにソーシャル・メディアのプロモーション資料はつくっていなかった」そうです。後にこれはCAAがつくったことがわかりました。資料には「彼のツィッター、インスタ、フェイスブックの700万人のフォロワー数は他のNBAメディア・パーソナリティーの誰よりも多い」と書かれています。おそらく、なぜ情報をWojに渡した方が得になるかを訴えた資料なのだと思います。ちなみに2位はビル・シモンズ、3位はジェイレン・ローズ、4位がケニー・スミスで、シャムズが5位、マーク・ステインが6位になっています。

また、Wojは、今年のサマーリーグの終わりにNBAのフロント・エグゼクティブたちを招いて「ディナー with Woj」というパーティーを主催したようです。

あるプレーオフの試合で、他のレポーターたちが深夜1:00ごろに飲みに行っている時に、Wojが電話を片手に情報を得ようとしていたところとすれ違ったそうです。そのレポーターは「この時間でもまだ彼は試合の何か他の何かを掘り当てようとしている。さらに彼はまだそれについて書きはじめていない」と言っていて、おそらく皆が寝ている時に記事を書いていたようです。Wojのこのような献身的な姿は、コービーはベガスで行われたチームUSAのキャンプで皆が寝ている早朝から練習をはじめていたというエピソードと重なります。トップでいようとする競争心はまさしくマンバスピリットです。Wojはレポーター界のマンバなのです。

最後に。これからはドノヴァン・ミッチェルとニックスのトレードレポートも加速していくと思いますが、これもWojではなく他の情報源を当たった方が良いと思います。WojのエージェンシーはCAAで、ニックスのプレジデントのレオン・ローズはCAAのバスケットボール部門創始者でした。ローズはあまり情報を出さない & CAAつながりと言うこともあり、Wojはニックスにとって不利になるような情報は出さないでしょう。もし出したとしてもWojの出す情報は身内情報になりそうです。しかも相手は確執があったと言われているダニー・エインジです。公平性に関してバランスが保てるのか疑問が残ります。

そうなると、やはりミッチェルのトレード情報は、シャムズやフィッシャー、SKYのイアン・ベグリーらのレポーターから取っていった方が良さそうです。


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