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ウルブスのビッグボールは機能するか

  1. 2023年1巡目指名権(プロテクションなし)

  2. 2025年1巡目指名権(プロテクションなし)

  3. 2026年1巡目指名権スワップ

  4. 2027年1巡目指名権(プロテクションなし)

  5. 2029年1巡目指名権(トップ4プロテクション)

  6. 2022年1巡目22位指名のウォーカー・ケスラーのドラフト権

  7. マリック・ビーズリー($15.8M)

  8. パトリック・ビヴァリー($13M)

  9. ジャレット・ヴァンダービルト($4.3M)

  10. リアンドロ・ボルマロ($2.4M)

これが何だかわかりますか?

そうです、これがルーディー・ゴベアーを獲得するためにウルブスが彼につけた「価値」です。サラリーマッチの選手に実質5つの1巡目指名権が付けられました。ジャズにして見れば、DPOY3回でオールスターのゴベアーのリターンで得られる選手にしてみてはもの足りなさがありますが、指名権の多さが決めてになったのでしょう。それにしてもウルブスがリーグトップ10にも入らないゴベアーにこの数の1巡目指名権を出したのは驚きでした。

私もウルブスがジャズに差し出したアセットの量を見て「ホーリー・カノーリ!」とつぶやいてしまいました (笑)。

おそらくジャズのCEOのダニー・エインジがウルブスにアントやジェイデン・マクダニエルを要求したため、彼らを手放したくなかったウルブスが元々のオファーに指名権のプレミアムを乗せてトレードを成立させたと思われます。

さすがにどのメディアもウルブスはゴベアー獲得に払い過ぎだと話題になりました。このトレードについて、ESPNのザック・ロウは、NBAフロントのエグゼクティブたちからリスク以上の「無謀だ」と話を聞いていたり、ESPNのブライアン・ウィンドーストもそのトレードの話をした10人全員から「信じられるか?なぜそんな事が出来るんだ?」的な文句を聞いているようです。

その文句も理解できます。このトレードはジャズやウルブスだけではなく、リーグ全体にもインフレの影響を及ぼすからです。現に、今売りに出されているオールスターのケヴィン・デュラントとドノヴァン・ミッチェルのトレード価値がこのトレードにより上がってしまっています。ゴベアーで4つなら、このふたりには最低希望選手+少なくても1巡目指名権の4つ+全てスワップですべて差し出すくらいじゃないといけません。少なくともトレードで出す側のオーナーはそう思うでしょう。

グリズリーズのVPだったThe Athleticのジョン・ホリンジャーも、GMはオーナーに「ゴベアー以下のリターン」だとは報告しずらいだろうと言っています。

そのホリンジャーもこのトレードについて:「ウルブスはユタに完全なコートニー・ラヴ的待遇を与えた (“いいよ、全部残らず持って行って…")。ミネソタが送ったパッケージは、リーグ内でのゴベアーの業績、年齢、そしてもっとも重要なことだが、ウルブスには同じポジションにすでにオールスターがいることを考えれば驚異的だ」と述べています。

しかもゴベアーの契約は4年$170Mも残っています。

さすがに、この規模のアセット放出はノリではできないので、ウルブスはそれだけの価値をゴベアーに見出したと言うことでしょう。

ホリンジャーも言っている通り、ウルブスにはすでにセンタースポットにカール・アンソニー=タウンズ(以下KAT)がいるので、このトレードは、ウルブスがゴベアーに賭けたというよりも、ウルブスは「ゴベアーとKATのツインタワーでビッグボールをする」事に賭けたのだと思います。

そこで疑問になるのが、この先7年間のアセットの半分以上を出してまで手に入れたツインタワーがこのペース&スペース時代のバスケ相手に機能するかという事です。

その前に、KATとゴベアーはどんな選手なのか見ていきましょう。

KATとゴベアー

KATは自称ベスト・シューティング・ビックマンだそうで、昨シーズンはその通り名に恥じない数字を残しています(スリーは41%/TS%は64%)。しかし、ディフェンスが苦手で、PnRのディフェンスやリムプロテクションはうまくありません。

ゴベアーはDPOY3回受賞しているリムプロテクターで、ESPNのザック・ロウが、彼はレギュラーシーズンはひとりでチームのディフェンスをリーグ5位まであげることができると言うほどディフェンスがすばらしい選手です。ESPNのケヴィン・ペルトンは、ゴベアーのディフェンスを「ワンマン・トップ10チームディフェンス」と呼んでいました。しかし、彼のオフェンスはディフェンスの真逆で、スリーはキャリア0%でシュートもポストアップもありません。

スウィッチされたら点を取れないゴベアーと、リムを守れないKATにとっては、お互いの長所を活かしつつ弱点をカバーし合えます。ふたりのフィットは問題ありませんが、チームバスケ的にはどうでしょうか?ツインタワーのアプローチは機能するのでしょうか?

ディフェンス

このウルブスのビッグボールのディフェンスのアプローチで良いモデルになるのはセルティクスです。セルティクスはアル・ホーフォードとロバート・ウィリアムズのふたりのセンターを使ってレギュラーシーズンのディフェンスを圧倒してきました。ウルブスでは、KATがホーフォード、ゴベアーがタイムロードの役をすることになるでしょう。KATがガードにアグレッシブにハードトラップをしたり、そこで4対3をつくられてしまったら、後ろに控えているゴベアーがそれを無効にすることが考えられます。

しかし、さすがにセルティクスのようにオールスウィッチができるようなラインアップではないので、守備の課題はペリメーターに残りそうです。

このビッグボールのディフェンスのいちばんの課題は、マーヴェリックスやクリッパーズのような5アウトのスペースボールに通用するかです。ジャズがプレーオフでスペースボールに破れたのは、ゴベアーが相手のスモールラインアップに対してオフェンスで無力だったため、相手がスモールのままスペースボールができてしまったからかもしれません。しかし、ウルブスにはKATがいます。KATがスペースボールのスモール・ラインアップを虐めることで点の取り合いに持ち込めるかもしれません。

また、ウルブスはKATだけではなくPGのディアンジェロ・ラッセルのディフェンスも良くありません。ゴベアーがラッセルのミスをカバーできるという話も聞きますが、ゴベアーも万能ではありません。実際ジャズにゴベアーがいても、プレーオフでディフェンスをしなかったドノヴァン・ミッチェルの分まではカバー仕切れませんでした。ゴベアーがいればディフェンスは良くなるのは間違いありませんが、優勝を狙うためにはKATとラッセルのディフェンス力アップも必要になるでしょう。

オフェンス

ゴベアーのオフェンスはダンクとロールとスクリーン・アシスト以外はあまり良くありません。前述した通りシュートがないだけではなく、パスもポストプレーもありません。ユーセッジの割にはTOも高めです。ゴベアーのオフェンスが酷いため、ジャズの選手は彼にパスをするのをためらっていたという話もあった程です。

また、チーム的にはゴベアーがスペースを消してしまう可能性があります。昨シーズン、ウルブスのオフェンスではジャレッド・ヴァンダービルトが5的な動きをしてスペースを消していたので、ストレッチ4の必要性が語られていました。それでもオフェンスはリーグ7位だったので、ヴァンダービルトよりもロールが上手いゴベアーのオフェンスについてはあまり問題にはしなかったのかもしれません。

ただ、そうなるとアンソニー・エドワーズがドライブするためのスペースはつくれません。ゴベアーがスクリーンしても相手のビッグがアントをドロップで待ち構えています。ウルブズがアントをどう使うのかは来シーズンの楽しみのひとつです。

その代わり、ディアンジェロ・ラッセルがゴベアーとのPnRで活きると思います。ラッセルにとってゴベアーは良きPnRパートナーになりそうです。

いずれにしろ、ゴベアー以外はシューターで揃える方が良さそうです。ウルブスがゴベアーとのトレードのパッケージに含めることを拒否したジェイデン・マクダニエルスはスリーが昨シーズンは31.7%だったので、プリンスが3でスタートするかもしれません。ぜひ、マクダニエルスにはスリーをリーグ平均以上の35%までにはあげて行って欲しいです。そうなれば、かなりのロスター問題が解決しそうです。

ローテーションも、常にKATとゴベアーのツインタワーを並べる必要もありません。マッチアップ次第で、スペースをつくれるラインアップでKAT+アントのコンビを中心にプレーさせてもいいでしょうし、KATが休んでいる時は、ゴベアーとラッセルのPnRコンビをプレーさせたりといろいろバリエーションもつくれそうです。

一抹の不安は、ひょっとして、ゴベアーのいるビッグボールよりも、シューターを5人揃えた5アウト(ラッセル、フォーブス、アント、スリーの決まるようになったマクダニエルス、KAT)の方が良かったりするかもしれない事です。試合をクロージングできない選手に$38M払うのは、流石にちょっとどうなんだろうと思ってしまいます。ここで守備もスリーも良いハリソン・バーンズやグラント・ウィリアムズ的な4がいれば尚良しと思います。彼らならゴベアーの半額で買えたかもしれません…

話がちょっとそれましたが、このようにディフェンスとオフェンスを総合的に見てみると、ウルブスはディフェンスで勝ちに行くように見えます。オフェンスが少し良くなって守備がトップ10に入れば、激戦のウェスタン・カンファレンスの中でも現状維持かそれ以上を望めそうです。ネット・レイティングをうまいこと+3にまであげられれば、リーグでも10位以内に入れそうです。そのポテンシャルは出てきたと思うので、あとは実際にどうなるか待つのみです。

ビッグボールについて

ザック・ロウ的に言えば、このウルブスのセンターでしかプレーできないゴベアーのトレードは、マルチ・ポジションをプレーできる選手やスキルを重視するリーグのジグの潮流に逆らってザグしています。

ただそれだけで成功しないかと言えばそうではありません。昨シーズン優勝したウォリアーズは、ケヴォン・ルーニーとドレイモンド・グリーンのふたりのビッグをスタートさせて、ファイナルズでも一緒にプレーしたりしています。ふたりはプレーオフで一緒に1試合平均12分プレーして+12.8でした。

前述したセルティクスも同様に、ホーフォードとタイムロードはプレーオフで1試合平均13分一緒にプレーして+5.0でした。2021年に優勝したバックスは、ブルック・ロペスとボビー・ポーティスとヤニスを並べてプレーしたりもしていました。ウェストで2位だったグリズリーズには、アスティーヴン・アダムスとJJJがいました。ジャレット・アレンとイヴァン・モブリーを擁するキャヴァリアーズのディフェンスは、セルツ、ウォリアーズ、サンズヒートに次いで5位になっています。

ビッグコンビの悪い例としてよくあげられるのが、ペイサーズのドマンタス・サボニスとマイルス・ターナーです。それでも2020-21シーズンのサボニス、ターナー、ブログドン、レヴァート、デュアーテのラインアップは148分で+14.6でした。(ちなみにサボニスとターナーの2マンラインアップは+3.5でした)

これらの数字を見ていくと、ビッグボールが良いとか悪いとか言うよりも、ラインアップ次第ではビッグがふたりいても勝てるという事だと思います。それにウォリアーズ、セルティクス、バックスなどのビッグになっても戦えるチームには、スリー(スペース)とディフェンスにも重点を置いています。サイズよりも大事なのは、どのようなマッチアップにも対応できるような柔軟性があるラインアップが必要なのではないでしょうか。

そのためには、ストレッチビッグや3&Dウィングにまだもの足りさがありますが、それも今後トレードなどで補強して行くことになると思います。FAで獲得したカイル・アンダーソンがスリーを一昨年の36%くらいまで決めれるようになれば、その心配もなくなるでしょう。スローモにはぜひがんばってスリーの%をあげていって欲しいです。

ESPNのJJ・レディックはポッドキャストで、ウルブスの鍵を握るのはビッグボールではなくアントだと言っていました:「アントがチャンピオンシップレベルのトッププレーヤーにまで成長すれば、激戦のウェストでも上位4位に入ることができるだろう」

また、ヘッドコーチのクリス・フィンチは、ペリカンズのアシスタントコーチ時代にアンソニー・デイヴィスとデマーカス・カゥズンズをコーチし、ナゲッツ時代にもニコラ・ヨキッチとユスフ・ナーキッチのビッグラインアップをコーチしています。そのため、ビッグボールのヘッドコーチとしては、ゴベアーとKATを活かせるだけの経験と知識があると言われています。

最後に、2023年にウルブスの新オーナーになるマーク・ロリーは、大のアドバンススタッツ好きのようで、ウィンシェアなどいろいろな数字を見ているそうです。どの数字を見てゴベアーのトレードに了承を出したのかわかりませんが、KATとゴベアーのコンビで勝てる何かの数字を得てビッグボールに確信できたのかもしれません。そのような数字的な決め手がなければ、ゴベアーにこれだけ多くのアセットを出すことはないのではないでしょうか。

ただ、ウルブスがどこまで勝てば成功だと考えているのかはわかりません。新オーナーたちは、プレーオフに毎年進出できれば成功だと定義しているのかもしれません。なにしろウルブスがプレーオフ進出できたのは、2000年から6回だけで、しかもプレーオフ・シリーズで勝ったことは1度しかありません。そのため、新オーナーたちのまず最初の目標は、毎年のプレーオフ進出なのかもしれません。目標設定を優勝ではなく、レギュラーシーズンでの勝ち星に重点を置いた場合、ディフェンス力があるゴベアーの獲得効果は大きいと思います。

はたして、ウルブスのビッグボールは成功するのか、それともリーグにトレードインフレを引き起こしただけで終わってしまうのか…?すでに来シーズンの楽しみのひとつです。


参考サイト:Timberwolves’ ‘big-ball’ experiment is either the NBA’s future or a future disaster/The Offseason Move Aftermath w/ David Thorpe


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