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スモールボールからスペースボールへの進化

去年のカンファレンス王者でもあり、優勝候補にもあがっていたサンズとバックスがNBAプレーオフのカンファレンス・セミファイナルズで敗退しました。主力選手のケガや不調などの要因もあるでしょうが、ふたつのチームの負け方に共通していたことがあります。それは相手の5アウトのオフェンスに対応できなかったことです。

逆に言えば、サンズを破ったマーヴェリックスも、バックスを破ったセルティクスも、サンズとバックスが得意な伝統的なラインアップをスモール+スペースで打ち破ったことになります。

The Athleticのジョン・ホリンジャーはこのスモール+スペースを「スペースボール」と呼び、スモールボールの次の進化だと言っています。今回はこれから流行りになるかもしれないスペースボールについて紹介していきます。

スペースボール

最近は試合をスモールボールでクローズするチームが増えています。スモール相手にペリメーターに出ていく伝統的なリムプロテクターが、相手ボールハンドラーにBBQチキンにされてしまうため、こちらも横に動けるビックで対抗しなければならなくなっているためです。

スモールボールは、スウィッチ可能な選手を揃えて相手のスリーをシャットダウンし、オフェンスではPnRやドライブ&キックでチャンスをつくっていきます。王朝を築いたウォリアーズのデス・ラインアップ、ハーデンのロケッツ、レブロンのキャブスなどのチームがこれに当てはまります。これらのチームの成功を見て、リーグ中でスモールボールも可能なロスターづくりが流行り、ストレッチ・ビックや3&Dの選手の需要が高まりました。

スペースボールはそこから一歩進んで、すべてのポジションからスリーの脅威を与えるシステムです。具体的には、5人をペリメーターに並べて、ヘルプがむずかしいワン・オン・ワンから相手ディフェンスを崩して、リムへアタックし、オープンスリーへ繋げていきます。選手のサイズよりも基本的にどこに位置しているかが問題になってきます。ミスマッチのためにスクリーンをかけるのはスモールボールも同じですが、スペースボールではスクリーナーはスリーポイントラインにリロケートして、最後はボールハンドラーのアイソで攻めていきます。どちらかと言うとピック&ロールと言うよりも、ピック&ランという表現が合っているかもしれません。

ホリンジャーによると、最初のスペースボールはクリッパーズが去年のプレーオフでジャズとのシリーズで見せたものだそうです。そのシリーズでカワイ・レナードを失ったタイ・ルーは、スペースボールで25点差をひっくり返してジャズとのシリーズを制しています。

今年のプレーオフでそのクリッパーズと同じようなオフェンスをしているのが、今カンファレンス・ファイナルズで戦っているマーヴェリックスとセルティクスです。マヴスはプレーオフのファーストラウンドでは、ジャズ相手に5人のスリーポイント・シューターを揃えて、ジャズのリム・プロテクターのルーディー・ゴベアーを無力化して勝ち進んでいます。マブスはセカンド・ラウンドの優勝最有力候補のサンズとのシリーズでも、スリーが撃てる5アウトをメインの武器にしてサンズを破っています。

セルティクスもバックスとのセカンドラウンドで、ペイントを固めるバックスのディフェンスに対して5アウトを展開し、スリーポイントで撃破しました。

このスペースボールを展開しているマブスとセルツのスリーの威力は破壊的で、ファーストラウンドとセカンドラウンドではスリーのアテンプトが1位と2位です。同時に、彼らは相手チームのスリーアテンプトを制限することで数字上の有利に立っています。

それぞれのシリーズごとの100ポゼッションでのスリーのアテンプト(3PA)と決まった数字(3PM)を見ていくと…

◾️マブス対ジャズのシリーズ平均比較:

◾️マブス対サンズのシリーズ平均比較:

マブスはジャズに対してスリーを13本以上撃っていて、10本近く多く決めています。サンズに対しては11本以上撃っていて、5本近く多く決めています。

総合的には、マブスは6試合で3PA/3PMでジャズに72本差/44点差、サンズとは7試合で3PA/3PMは83本差/33点差をつけています。サンズやジャズがこの差を乗り越えるのは不可能に近いと思われます。

◾️セルツ対ネッツのシリーズ平均比較:

◾️セルツ対バックスのシリーズ平均比較:

セルツは3PMでバックスに2倍差をつけていて、7試合でセルツがスリーで110点とっているのに対してバックスは57点でした。この数字の差がセルツの勝利の最大の要因のひとつと言ってもいいでしょう。

サンズとバックスの問題は、相手のスペースボールに対応できるビックがいなかったため、伝統的なラインアップでスペースボールに立ち向うしかなかったことです。サンズはカム・ジョンソンが5になると、今度は小さすぎ問題も出て来ますし(ルカに吹っ飛ばされたりした)、横の動きも弱いため、ルカの餌食になってしまいます。ジャズもスモールボールで5ができるルーディー・ゲイを獲得しましたが、なぜかあまり使われることはありませんでした。バックスはブルック・ロペスのマッチアップをアル・ホーフォードからグラント・ウィリアムスに変えると、グラウントがスリーを決めまくりました。また、ヤニスが5になった時のウィングが足りなかったと思います。タックスを節約するためにPJ・タッカーとドンテ・ディヴィチェンゾを切ったのが痛いですね。

ちなみに現在のカンファレンス・ファイナルズのスリーの状況です。

◾️マブス対ウォリアーズのシリーズ平均(5/23時点)

マブスはスリーをかなり多く撃っていますが、決めているのが3本差で、スリーを外しまくっています。見ている限り、オープンスリーはかなり撃てていると思うので、これが決まり出すと勝てる試合も多くなってくると思います。サンズとのシリーズが7試合になってしまい、ウォリアーズとのシリーズまでに休みがなく、疲労がたまってきているのがスリーの精度に影響しているのかもしれません。

◾️セルツ対ヒートのシリーズ平均(5/23時点)

セルツはスリーを制限され、数字的優位が消されているので、どうヒートのディフェンスを攻略すのか注目です。

これからのスペースボール

基本的なロスター構成で必要なのは、ボールハンドリングできて得点力がある選手、3&Dウィングを数人、相手のPnRや相手ビックにも負けずにスウィッチできるビックです。特に、ビックではスリーも撃ててヤニスやルカを守れる強い選手が望ましいのですが、そのような選手は需要が高く供給が低いため、得ようと思っても得られるようなものではありません。

そのため、もし他チームがセルツのマネをしようとしても、セルツの精度まで高めることはなかなかできないでしょう。スモールボールが出てきた時も、相手センターもガードも守れるドレイモンド・グリーンのような選手の需要が高まりましたが、その時の状況に似ています。

具体的にこのスペースボールのビックになれる選手には、6’6” のグラント・ウィリアムスやアル・ホーフォード、PJ・タッカーらがいます。他には、JJJやOG・アヌノビー、スリーが入るようになればディロン・ブルックスも入るようになるかもしれません。マヴスにはルーキー時代はスモールフォワードとしてスカウトされていたマキシ・クリーバーがいますが、現在はセンターを守っています。彼もこのプレーオフの活躍で未来を約束された選手のひとりになったと思います。

そうなると、選手の供給が少ないため、スペースボールの優位性はしばらくは保たれそうです。同時にスペースボールの進化は選手の供給がある程度満たされるまでは比較的ゆっくりと進んで行きそうです。

また、リーグのスペースボールへの意識や、スペースボールの進化の加速度は、6月のドラフトでこのようなタイプの選手が何位で指名されるかでも測れるかもしれません。

今年のドラフトでスペースボール・タイプの選手としてあがっているのは、コロラド州立大のデヴィット・ロディーやオハイオ州立大のEJ・リデルです。ふたりが何位で指名されるかで、本当にリーグがスペースボールへと進化していくのか読めるのではないかと思います。

他のバロメーターになるのは、セルツのグラント・ウィリアムスの契約延長のオファーやPJ・タッカーの契約金額です。タッカーはリーグで最年長(5番目)のひとりなので、高いオファーはないかもしれませんが、ローテーション選手のウィリアムスのオファーがフルMLEより少し高いだけなのか、$15M/年に達するかでもスモールボールの進化の方向性は見えてきそうです。

もしNBAファイナルズが、ウォリアーズ対セルティクスになったら、バスケットボールの進化の視点から「スモールボール vs スペースボール」の対決として見てもおもしろいかもしれません。もしセルツが優勝すれば、そう遠くはない未来はスモールボールスペースボールの時代になりそうです。


参考サイト:Suns, Bucks and ‘space ball’: The biggest story of the NBA playoffs and what it means for last year’s Finals teams

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