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ジョーダン・プールの契約延長とウォリアーズのサラリーキャップ

ドレイモンド・グリーンがジョーダン・プールを殴った理由が、プールが大きな契約延長間近で調子に乗っていたような(たぶん間違っている)レポートも出ましたが、なぜドレイモンドにとってプールの契約延長が問題になると思われているのでしょうか?それは、ドレイモンドとプールが限られたウォリアーズのサラリーを取り合う事になるからです。

今回はプールの契約延長を通してウォリアーズのサラリーキャップを見ていきます。

ウォリアーズのサラリーキャップ

The Athleticのティム・カワカミが球団の複数の人から聞いたところによると、ウォリアーズは何があってもサラリー+タックスで$450Mを超えられないようです。ガバナーのジョー・レイコブはこの7月にカワカミに、「あなたは$400-500Mの数字をあげているが、それらの数字は少しも可能ですらない。ただ可能じゃないんだ」と言っていましたが、レイコブも少しバッファーを持たしていたようです。

現在、ウォリアーズのサラリーは14人で$189.49Mで、タックスラインを$65.89M超えているので、サラリー+タックスのトータルで$359.66Mになります。今年は15人目の選手と契約しても$400M以内に収まるので問題ありませんが、契約延長ができるプール、アンドリュー・ウィギンス(現在33.6M)、ドレイモンド(現在25.8M)とそれなりの契約延長をしてしまうと、来年のサラリーキャップが$611.47Mにまでなってしまう可能性もあります。それは、このまま行けばワイズマンとクミンガをサラリーダンプしない限り「ファンダメンタル6」と呼ばれる6人の中心選手をキープできないことを意味します。

具体的にプール、ウィギンス、ドレイモンドにどれくらい払えるのかと言うと…

来シーズン契約が残っているステフ・カリー、クレイ、ジェームズ・ワイズマン、ケヴォン・ルーニー、ジョナサン・クミンガ、モーゼス・ムーディー、PBJ、ライアン・ロリンズ、ミニマム3人の11人で$134.7Mになります。$450M以内にサラリー+タックスを抑えるとなると、トータルサラリーは$211Mまでになるので、そこから11人のサラリーの$134.7Mを引いた$76.28Mがプール、ウィギンス、ドレイモンドに払える数字になります。実質彼ら3人はこの$76.28Mのパイを奪い合う事になります。(*トレードがなければ )

もしドレイモンドが来年の契約をオプトインすると、プールとウィギンズで使える金額が$48.7Mになってしまい、ウィギンスをキープできなくなるかもしれません。

そして、ウォリアーズが最優先するべき選手は、シーズン中に契約延長ができるウィギンスとドレイモンドではなく、契約延長のデッドラインが10/17のプールです。次に重要なのが、プレーヤー・オプションがあるドレイモンドとは違ってFAになることが決まっているウィギンスになります。

プールの契約延長はいくらになるのか

プールと10/17までに契約延長をしない場合、プールは来年のオフシーズンにRFAになってしまいます。彼のマックスは$33.5Mになり、もしプールに興味があると言われているマジックがプールにマックスのオファーをすれば、ウォリアーズはプールをキープするために$33.5Mからの4年$144M契約を払わなくてはいけなくなります。

プールもこの夏にルーキーマックス契約延長をしたジャ・モラントやザイオン・ウィリアムソンのようなビッグネームのマックス級の選手かと言われるとそうではありませんが、スターになるポテンシャルを持っています。そのため、サラリーキャップに余裕があるマジックやスパーズが相場よりも高めの値段を払ってプールを狙いにくる可能性は大いにあります。実際に、この夏ペイサーズがサンズの3番手のデアンドレ・エイトンにマックスのオファーシートを送りました。ESPNのザック・ロウはピストンズがドラフトでCのジェイレン・ダーレンを指名できなければ、エイトンを狙っていたと言っています。プールに同じようなオファーが来ないという保証はありません。

逆にウォリアーズはプールがRFAになる前に今契約延長をすれば、夏にマッチしなけらばならない他チームのオファーよりも安く契約できるかもしれません。リピータータックスの沼にはまっているウォリアーズにとってサラリーを$5M減らすだけでおよそ$35M節約することになるので、今プールと$100Mで契約延長できればかなりの得になります。ウォリアーズにとっては10/17前にプールと契約延長することがキャップワーク的に重要になっています。

また、プールにとっても、プレーしている限り大きなケガのリスクもあり、来年マックス級のオファーを受けられる保証はありません。それなら今のうちに自分と家族の運命が大きく変わる程の大金の保証があるのはありがたいはずです。

ではプールの相場はどれくらいなのでしょうか。

プールが良く比較検討されるのが、ブレイザーズのアンフェニー・サイモンズとヒートのタイラー・ヒーローのガード達です。ふたりはこの夏に契約延長をしていて、サイモンズは4年$100M、ヒーローは4年$120Mの契約になります。このあたりが実際のプールの市場価値だと言われています。

特にプールとヒーローの比較は面白く、同じウィスコンシン州出身で、誕生日が6ヶ月違い(プールの方が年上)で、 それぞれが通った高校が30分しか離れておらず、ポジションもシューティングガードで、フィジカルも似ています(プールの身長は6’4”で体重は194ポンド、ヒーローは身長6’5”で体重は195ポンド)。2019年のドラフトではふたりとも1巡目で指名されました(ヒーローが13位指名で、プールが28位指名)。ふたりともディフェンスに課題がるとも言われていますが、オフェンスは得意です。

そのヒーローがこの夏にヒートと4年$120Mの契約延長しました。1年目は$27M、2年目は$29M、3年目は$31M、4年目は$33Mのサラリーを稼ぐ事になります。また、この契約には年間最大$2.5Mまでのインセンティヴがあり、それを含めると$130Mになります。

あるNBAエグゼクティヴのヒーローとプールの評価は、プールの方が「良いクリエイターで、リムに強く行け、やろうと思えばディフェンスも持ちこたえられるはずだ」と言っています。また、他にもプールにはパスもあり、リムでフィニッシュできるので、ヒーローよりもヴァーサタイルな良い選手だと思われます。プールは昨年クレイやカリーをケガで欠いていた時も彼らの埋め、チームの優勝にも貢献して、ヘッドコーチのカーの信用もあります。そのため、プールのサラリーは少なくてもヒーローのサラリーと同じになるはずだと言われています。

また、2025年からのTV放映権更新でキャップが更にあがると言われています。そうなると、今そのサラリーはキャップの20%ですが、その3年後のキャップ上昇より19%と減る可能性も出てきます。しかも、その時はプールはプライムに入るので、$30Mちょっとのサラリーは最終的にかなりのバーゲンになり得ます。むしろウォリアーズはこの金額なら契約をまとめたいのではないでしょうか。ヒートがヒーローに$120Mの契約延長を与えたのも同じ理由だと思われます。

もし仮にウォリアーズがプールのサラリーをヒーローのサラリーに合わせた場合、来シーズンのサラリーキャップはこうなります:

2023-24シーズン ウォリアーズのサラリーキャップ

ドレイモンドとディヴェチェンゾがプレーヤーオプション行使、ウィギンズは今年と来年のマックスの中間値の$36.5Mの計算です。リーグのエリートウィングのサラリーは、ポール・ジョージやジミー・バトラー、クリス・ミドルトンが$40M超えで、オールスターのウィギンスにとってはちょっと少ない印象ですが、フォワードのオールNBA・サードチームに入ったラプターズのパスカル・シアカムが$37.8Mなので、ESPNのプレーヤー・ランキングで32位のウィギンスにとって$36.5Mもそれほどズレた数字ではないかと思います(シアカムは同ランキングで30位)。

14人でサラリーが$228.53Mになり、タックスが$382.98Mのトータル$611.47Mになり、限界を超えてしまいます。

そうなると、契約延長組み全員に希望金額を払えないウォリアーズは、その限られたサラリーをどう使うか考えなければいけません。

仮にプールに$27Mを払うと、ウィギンスとドレイモンドに使える金額が$49.28Mになります。今シーズンの活躍次第ですが、ルカやカワイのような相手スターウィングやスターPGを止められるウィギンスに来シーズン$36.5Mを払うと、残りは$12.78Mになってしまいます。

この金額ではドレイモンドは契約延長できませんし、オプトアウトしてFAになってもさすがにMLEに毛が生えたこの金額は少なすぎると考えるでしょう。もしドレイモンドがウォリアーズに残りたければ$27.58Mのプレーヤー・オプションを行使してた方が良くなります。そうなれば、ウィギンスには$21.7Mしか残らなくなり、ウィギンスを他チームに取られるリスクをとってFAでの再契約を試みる事しかできなくなります。例えディヴィチェンゾがFAになって出て行ったとしても、せいぜい+2.7Mしかならず、あまり助けにはならなそうです。悩ましい問題です。

また他にも問題があり、ウォリアーズはドレイモンドのオプトインの権利を止められません。先にウィギンスと契約延長してしまうと、ドレイモンドがオプトインした場合に上記のような$600M超えのキャップになってしまいます。そのリスクを避けるためにもウォリアーズはドレイモンドの様子を見ながら動かないといけません。

そのため、もしシーズン中にウィギンスと契約延長があれば、ドレモンドのシーズン中かオフシーズンでのトレードの可能性が濃厚になってきます。

ウォリアーズが3人をキープするための数字をまとめると:

● ドレイモンドがオプトインするのを待った場合

● ウィギンスと契約延長をする場合

3人仲良く三等分でそれぞれ$25.4Mとかで納得できれば何の心配もないのですが、なかなかそういう訳にはいきません。そのため、3人の優先順位を決めることが求められます。

プール/ウィギンス/ドレイモンドの優先順位を考える

この3人をキープするためのワイズマンやクミンガやルーニーのトレードはないと仮定すると、ウォリアーズは、まだ若く最もポテンシャルが高いプール/相手エースを抑える貴重なウィングのウィギンス/チームのハート&ソウル(プールを殴るまで)で天才的なディフェンスを誇るドレイモンドの3人の内ふたりしか選べない事になります。

それが、今回のドレイモンドがプールを殴った事件で、ドレイモンドがトレードに出されるのではないかという見方が大きくなりつつあります。

スティーヴ・カーが記者会見で話したように、その事件は「深刻なもの」でチームのカルチャーを壊し、カーがウォリアーズのHCに就任してから「最大の危機」をもたらしました。ドレイモンドが若手全員から信頼を取り戻せるかわかりませんし、この本当の影響はレギュラーシーズンになるまでわからないでしょう。他にもドレイモンドがマイナスなのは:

  • 32歳でチームリーダーの立場であるにも関わらず、無防備な若手を至近距離から殴ってしまうような感情のコントロール能力の欠如。今までも試合中にKDと激しい口論になったり、不必要なテクニカルを受けて優勝を逃す最大の要因となったりしてきた。まだ同じ事があるかもしれない。

  • 健康問題。去年腰のケガで試合36試合欠場した。バスケ年齢が高くなるにつれ、ケガのリスクも高まっていく。

  • プレーも衰えを感じはじめた。昨シーズンのスリーは29.6%。ファイナルズではベンチに下げられた場面もあった。

  • 上記で見てきたように、ドレイモンドがオプトインするとキャップワークがむずかしくなる。

サラリーキャップギリギリのウォリアーズのようなチームが、プライムのウィングのウィギンスよりもこのような不安要素のある32歳の選手にあと3年〜4年コミットするべきでしょうか。

逆に、ウォリアーズはドレモンドなしでは今シーズン優勝できないという見方も多いです。そうなると、今年はこのまま現状維持で進み、シーズンが終わった時に、選手のパフォーマンスとチーム全体のバランスを見て誰をトレードするかを検証するのが最も現実的なのかもしれません。これはシーズン中にあまりトレードをしないウォリアーズ的でもあります。

また、他の大きな要素として、プールとウィギンスのエージェントがあります。

プールとウィギンスはふたりとも同じエージェンシーのCAAを雇っていて、担当はドリュー・モリソンというエージェントです。ウィギンスもウォリアーズに残れば、露出も増えてエンドースメントも取りやすく、オールスター候補になれるでしょう。ウィギンスがウォリアーズに残りたいと思っているのは確実です。そのため、CAAはプールとウィギンスのセットでの交渉もしてくるかもしれません。CAAとドレイモンドのエージェンシーのクラッチは仲が悪いことで知られていて、CAAはここぞとばかりにクラッチのドレイモンドから少しでもパイを奪おうとするかもしれません。そうなると、ドレイモンドは一段と不利になります。しかも、ドレイモンドはプールに暴力を振るってしまっています。エージェントもその事をうまく使って交渉してくるでしょう。

あのパンチによって、もうドレイモンドのレバレッジは限りなく少なくなっています。「ドレイモンドが出場しなければ試合に勝てない」という状況にならない限り、ドレイモンドが交渉で有利になることはなさそうです。

このようにパフォーマンス/未来/ケガ/キャップワークの要素などを総合的に見ていくと、この3人の優先順位は、プール>ウィギンス>ドレイモンドになると思います。

ドレイモンドにとってはある意味勝負の年になりそうです。

ドレイモンドが今シーズンのモーチベーションについて:「私は今年多くの人たちが間違っている証明していく… 楽しい1年になる」

ドレイモンドのモック・トレード

ウォリアーズにとってもっとも簡単なキャップワークは、プールとウィギンスにそれなりに払い、ドレイモンドを契約が今期いっぱいの選手とトレードし、その選手を来年のFAで歩かせる事です。これでドレイモンドがオプトインしてウィギンスに払うお金がなくなってしまうという心配がなくなります。

単体でのトレード候補選手はこんな感じです:

まだウォリアーズのロスターは14人ですし、ドレイモンド ⇄ 複数人とのトレードも可能です(これもウォリアーズがロスター14人を維持する理由のひとつです)。ドレイモンドが抜けた守備の穴を埋めるために、ストレッチ5でリムプロテクションのあるマイルス・ターナー+サラリーフィラーとのトレードもありかもしれません。

ドレイモンドはウォリアーズにいられなければレイカーズに行きたいという噂もあるので、レイカーズ、ペイサーズを絡めた3チームトレードも可能です。何しろドレイモンドもオプトアウトすればFAです。そのため、ドレイモンドをトレードするチームもトレード前に彼が夏に残るつもりがあるかの意思を確認しなければなりません。レイカーズならドレイモンドはまちがいなく残るでしょう。関係者全員がハッピーになれるトレードはこれしかないかもしれません。

また、ウォリアーズは来年の今頃は2年後の2024-25シーズン前にRFAになるジェームズ・ワイズマンの契約延長をどうするか決めなくてはいけない状況になっています。もしドレイモンドをトレードするなら、そのトレードで得る選手の契約金だけではなく契約年数も考慮にいれる必要があります。

または、オフシーズンにオプトインしたドレイモンドをトレードしてから、バードライツを使ってウィギンスと再契約するのもありです。

もしドレイモンドをトレードした場合の来年の補強は、ドレイモンドのトレードで得たトレード・エクセプション(最大でおよそ$6.25M)とミニMLEの$7Mを使います。ただそのサラリーではドレイモンドの代わりになれる選手(例えばオットー・ポーターのような選手)は取れないでしょう。クミンガやPBJの成長が期待されます。もしクミンガがシーズン中に守備で成長を見せればドレイモンド不要論は更に高まりそうです。同時にそれはウィギンスが必要なくなるという事にもなりそうですが…

他に様子を見なくてはいけないのがCBAの交渉です。もしかしたら生え抜きの選手のタックスの計算が安くなり、ドレイモンドをキープできるようになるかもしれません。

このように、ドレイモンドが改心したとしても、ドレイモンドのトレードは避けられないように見えます。このシーズンのウォリアーズとドレイモンドの関係について、カワカミは、子どもが高校を卒業するまであと1年一緒にいる事を決めた「離婚間際の夫婦」のようだと言っていました。言い得て妙ですが、これからどうなるのでしょうか。

ドレイモンドはこの契約の状況について:「契約や契約延長に関しては、最初に話した通り、私たちは契約延長をしないと思うと言った。正直、それは私が戻ってこないという意味ではない。私たちは今年契約延長をすることはないと思っている。だからキャンプでの最初に私はそれについてこの1年ずっと話すことはないと言った。優勝を目指している時に、私の契約がどうなるか、他の選手の契約がどうなるか、それについては入り込まない。私は契約のドラマが長続きしてしまうような事にはしたくない。特に私がそれに関わっているとしたら尚更だ」

いずれにしても、まずはプールの契約延長からです。ウォリアーズの未来がどうなるかは、それがいくらになるのかにかかっています。もしプールが上記のように$27Mレベルで契約した場合、ウォリアーズはウィギンスをとるかドレイモンドをとるか、もしくは$600Mの資金繰りを何とかして全員と契約するかの選択に迫られます。このドラマは2月のトレードデットライン、そしてオフシーズンまで続くかもしれません。

通常ウォリアーズはギリギリまで契約延長をしないので、今回のプールの契約延長発表も10/17になるでしょう。それまでにケガなどの不慮の事故がある可能性を考えた上での判断だと思われます。カリーさへも締切日に契約しているので、プールも例外ではないと思われます。


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