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世界でさいしょの木と赤い鳥 上

「ドッシン!!」
「ドドッシン!!」
「ドッシン!!」
今日も大きな音が幸せの丘にひびきわたります。
おじいさんが動き始めてから、いつのまにか長い長い年月が過ぎていました。
木の国の木々たちは、今では、おじいさんがいくら大きな音をひびかせて地球を大きくゆらしてもすっかり平気になっていてました。むしろ、そのゆれに合わせ、気持ちよくゆれている木たちばかりです。
弱っていた木々や年老いた木々は、おじいさんが動き始めてから、必要な水分や栄養を根から取ることができるようになったので、今では若い木と同じように立派な木の幹や枝を持ち、青々とした葉がしげりとても元気になりました。
木の国は、まるで、宇宙の実が降るまえの美しい森にもどったようでした。

「さー、今日もがんばろう。」
そう言いながらおじいさんは、幸せの丘の頂上を見上げました。
「ちょうど3分の2くらい進んだかなぁ。よし、あと少しじゃ。」
そう言うと、また
「ドッシン!」
「ドッシン!」
こうして今日もひとり、もくもくと根を動かし続けました。


おじいさんにとって歩くことはとてもとても大変なことでした。
太くて長い根を持ち上げるだけでなく、
地球に住むものたちに迷惑をかけないよう、
毎回注意深く根を地面に置かなければいけないのです。
おじいさんは、前のように根から水も栄養もとることができませんでした。
たまに降る雨を飲み、宇宙の実を食べながらおじいさんは生きていました。
もちろん、大きな大きなおじいさんにとって、雨や宇宙の実だけでは栄養はたりません。
初めて動いた日に比べておじいさんは、ずっとやせてしまいました。
でも、おじいさんは幸せでした
幸せの丘の上でじっと誰かが遊び来るのを待ち続けていたあの頃と違って、
日に日に自分を待っている仲間に近づいているのです。
「木の国のみんなにもうすぐ会える」
そう思うだけで、おじいさんは幸せでした。そして、
「おじいさん、がんばって!」
道の途中で出会える小鳥や動物たちにはげまされると、なおさらに元気になるのでした。ただ待っているだけよりも、自分が動くことで、美しい景色や可愛い動物たちに出会えるのです。おじいさんは嬉しくて仕方がありませんでした。ですので、少しぐらいお腹かがすいてものどが渇いてもまったく気になりませんでした。


そんなある日のことでした。
おじいさんがいつものように幸せの丘を下りていると、遠くからなにやら音が聞こえてきました。
「うん?何の音じゃ?」
おじいさんは、声がする遠くの空を見ると、空が七色に輝いていました。
おじいさんはが目を凝らしよく見ると、その光は大きなアーチを描いていました。
「あれは虹かのぉ?こんな遠くまで雨の音が聞こえるのじゃろうか?」
おじいさんは、少し休んでこの七色に輝く不思議な虹を見ることにしました。
おじいさんは虹が大好きです。
雨さえめったに降らないのですから、虹がでることは本当に珍しいことです。
ですから、虹を見ると、おじいさんは何か良いことがあるのじゃないか?と、ワクワクするのでした。
「おや?」
虹をずっと見ていたおじいさんは、ふとあることに気が付きました。
今日の虹はいつまでたってもなくなりません。
そればかりか、どんどん色が鮮明になり、おじいさんの方へ近づいてくるようです。
そして、音もどんどん大きくなりました。
その音をよく聞いてみると、バサバサやピーピーと聞こえます。
「おーこれは、これは……。」
おじいさんはやっと大きな虹の正体がわかりました。
それは、赤・オレンジ・黄色・黄緑・緑・青・紫色の鳥たちが
大きなアーチを描いて飛んでいる鳥の群れでした。
その群れは、なぜかおじいさんに近づいてきているようでした。


「おや?鳥のむれがこっちに来るのかいの?」
そうつぶやくとすぐに、
「おじいさん。こんにちは。」
誰かがおじいさんにあいさつをしました。
おじいさんが声のする方に目をやると、黄色と緑のオウムがいつのまにか、おじいさんの枝に止まっていました。
「おじいさん。おじいさん。お願いです。しばらくみんなを休ませてもらえないでしょうか?」
オウムは可愛いらしい声でおじいさんに頼みました。
「そうか、だからこっちに向かってきているのじゃな。もちろんじゃとも。どうぞ、どうぞ休んでおくれ。」
おじいさんは、可愛らしいオウムに言いました。
オウムは嬉しそうにうなずくと、
おじいさんの枝から飛びたち、七色に輝く鳥たちに聞こえるよう大きな声で叫びました。
「みんな~。おじいさんの木で休めるよ!!」
黄色と緑のオウムがクルクルおじいさんの木の上を旋回して合図をすると、
鳥たちがいっせいに、おじいさんの枝におりてきました。
遠くからでよくわかりませんでしたが、その数はとても多く、数万羽いそうな勢いです。
あまりの数の鳥が一度におじいさんの木に下りてきたので、
「おっととと」
おじいさんはおもわずよろけてしまいました。
それも仕方ありません。今はおじいさんの根は地面の上。
立っているのでさえバランスをとるのに大変なのですから……。
おじいさんがよろけると、
「わわわあ!」
枝に止まってた鳥たちはいっせいに空へ舞い上がりました。
「おーわるかった。わるかった。ごめんよ、鳥さんたち。」
おじいさんはあやまりました。とりたちも口々に言いました。
「おじいさん、ごめんなさい。」
「あまりにもたくさんでおどろいたでしょ?」
「おじいさん大丈夫ですか?」
鳥たちはみなとても申し訳なさそうです。
「大丈夫じゃ。大丈夫じゃよ。今度はしっかり立っているから。どうぞゆっくりはねを休めておくれ。」
おじいさんは、背筋をピンと張って身構えました。
鳥たちも、今度はおじいさんの木の枝の様子をよく見て、バランスをみながら順番に下りてきては、木に止まりました。
無事、鳥たちがみな枝に止まったのを確認したおじいさんは、やっとほっとしました。
鳥の重みがあり、今までよりもバランスよく立つこともできとても体が楽になりました。


「おじいさん。重たくありませんか?大丈夫ですか?」
おじいさんが一息ついたのを確認した黄色と緑のオウムがおじいさんに話しかけました。
「大丈夫だよ。ありがとう。きみがリーダーかい?」
おじいさんは、気遣いのできるオウムに尋ねました。
「はい、私はこの群れのリーダーのフォーといいます。」
フォーは、頭の毛が緑色でカッコよく逆立っています。黄色の羽と長い黄緑の尾はとても立派でした。体全体は緑のグラデーションでとてもきれいです。背中の真ん中に珍しい赤いハートのような模様もあります。
「やっとみんなゆっくりできます。ずっと飛んでいたので本当に助かりました。」
フォーはおじいさんに、鳥のむれのことについて話しはじめました。
「ぼくたちは伝説の森をさがして旅をしています。
はじめは数匹だったのですが、今では仲間が増え、僕たちの鳥の群れは、七色の虹の鳥と呼ばれています。」
「ほーほーそうなのか。」
「ぼくの故郷は南の国ですが、虹の羽をもつ鳥の仲間たちの故郷はバラバラです。。伝説の森を見つけるために、地球を何周も回っているうちに仲間が増えたので」
おじいさんは、びっくりしました。こんな小さな鳥たちが地球を何周もして伝説の森を探しているなんて思わなかったからです。
「フォー、君たちは何で地球を何周してまで伝説の森をさがしているんだい?」
「それは、安心して羽をやすめる場所が欲しいからです。」
おじいさんは不思議に思いました。木の国の鳥たちはみな幸せです。そればかりか安心しきって、木の国の眠っている木といっしょに、枝に止まって眠っている鳥たちばかりです。
「フォーここは、みての通りとても平和じゃ。きみたちが、見た地球は、ここと様子が違うのかい?」
「もちろんですよ!!こんなに美しい森は初めて見ました!まるで伝説の森みたいです。あれ?あれ?も、もしかしたらここが伝説の森?」
おじいさんは、ホッホッホと大きく笑いました。
「おっしゃるとおり。ここを私たちは伝説の森と呼んでいるよ。」
「おーーー!!そうなんですか!
やったー!!ぼくたちはやっと伝説の森をみつけたんですね!」
フォーはとても嬉しかったのか、おじいさんの木の周りを何度もクルクル回りはじめました。
「あの丘の頂上に行けば、伝説の森がみな見れるぞ。」
おじいさんがフォーにそう言うと、フォーは一目散に幸せの丘の頂上へ飛んでいってしましました。


しばらくしてからバサバサと興奮気味の羽音をさせながらフォーが戻ってきました。
「丘の上からの景色はとても素晴らしい!!見渡す限り美しい木々ばかりではにですか!うっとりしてしまいました。おじいさんが動かない大きな木でよかった!本当にラッキーです!」
嬉しそうなフォーの姿におじいさんはとても満足でした。
でも、ひとつだけ気になることがあったので、おじいさんはフォーにたずねました。
「もし、私が動く大きな木だったら、フォーたちは私のもとへやってこなかったのかい?」
「もちろんです!」
おじいさんはびくっりしました。
おじいさんが動くようになってからは、他の木々たちは動かなくなりましたが、それまでは動く木は当たり前だったはずです。
なぜ動く大きな木には近づいてはいけないのでしょうか?
おじいさんにはまったく理解できませんでした。
「もしよかったらその理由を私に教えてくれんじゃろうか?」
フォーは伝説の森を見つけてとてもご機嫌です。喜んでおじいさんに話しはじめました。
「ぼくたち七色の虹の鳥のグループの最初のリーダーの赤い鳥からの教えなんですよ。動いている大きな木には近づいてはいけないって。理由は赤い鳥に聞いてみないとわからないのですが、とりあえず今の世界を作った木だけには近づいちゃいけないっていってました……。」
「今の世界を作った木?動いている大きな木が?」
おじいさんは、また知らないうちに、自分がこの地球に大きく影響を与えてしまったということがフォーの話からわかりました。
今回はおじいさんにも少し自覚がありました。
毎日おじいさんが動くたびに地球は大きくゆれているのです。
それがわかっているおじいいさんは、だから、毎回気をつかいながら根を地面にそっとおいていたのです。

おじいさんにとって問題は、今の地球が幸せなのかそうでないのかそれだけです。
おじいさんは少しためらいながらも、勇気を振り絞ってフォーに聞いてみました。
「フォーがいう今の世界ってどんな世界なんだい?わしは生まれてからずっーとこの幸せの丘にいて他の世界をみたことがないんじゃ。フォーは、地球を何周もしているんじゃろ?他の国の様子や今の世界、地球の姿を教えてくれるかい?」
おじいさんに尋ねられたフォーの顔が変わりました。
さっきまで伝説の森を見つけ喜びに満ちていたはずのフォーから喜びが消えたのです。
フォーは知っていることをゆっくり話しはじめました。

つづく

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