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お空の上の物語 第2部「COSMOS」#3

王様の秘密

ピットは王様のいる天空の間に続く階段を一段一段自分の思考を整理するようにゆっくり上りました。
9年前、ピッチと2人でこの階段を上り天空の間で一緒に話をしたことがつい昨日のようです。
ピッチは宇宙へ旅立つことをあんなに喜んでいたけど、やっぱり自分が行くべきだったのではないか……。
ピットは表面上は王様や王妃様を励ましながら、心の奥ではいつもその思いを隠してきました。しかし、今回のゴールデンフォールの発見でピッチを探すことができるかもしれない。ピットがずっと抑えてきた思いが溢れ出てくるのです。

ピットは大きく深呼吸をしました。エメラルド銀河の調査隊の報告を聞いてから、ピットの黄金のエネルギーはずっと揺らめいていました。
COSMOSの人々は心が同様すると、自分のオーラのような光が揺らぎます。あまりにも揺らぐと心の灯が不安定になり消えてしまうことがあります。ピットは人々に愛のエネルギーを分け与えることで、心の灯の芯を太くする手伝いをしています。ピッチが灯した心の灯を消さないように、もし揺らいでも消えない心の灯を保てるようにすることが今のピットの仕事なのです。
ピットの黄金の灯はいつでも真っすぐに揺らぐことがけしてない大きな光です。もし、その光が揺らいでいるのを見たら王様はびっくりするでしょう。余計な心配をさせてはいけません。息を調え、黄金の光の揺らぎが収まるのを確認したピットは天空の間のドアをノックしました。

「失礼します。」
ピットが声をかけると、まるで待っていたかのように
「入りなさい。」
と、王様が返事をしました。


ピットが大きな天空の間の扉をあけると、部屋の様子が変わっていました。今までは天空の間を囲む一面の窓からCOSMOSの町も空も全て見渡すことができました。
しかし、その多くの窓はなくなり必要最低限しかありません。その代わりに壁にはたくさんの本がきちんと本棚に収まっていました。残された窓から部屋に差し込む光は、読書をするにはちょうどよい優しさです。
以前の天空の間は、COSMOSを見守っている部屋でしたが、今は読書が大好きな王妃様がとても気に入るような素敵な図書室に変わっていました。

「驚いたかね?」
「はい。」
「今まで私はここからCOSMOSの人々のエネルギーを見ていた。愛のエネルギーが足りないようだったらそっと送っていたのだが、もうその必要はない。ピットが本当に頑張ってくれたからな。」
そう言って、ピットに笑顔で言いました。
「COSMOSの人はもう大丈夫じゃ。新しいステージへみな進むことができた。もうCOSMOSをずっと見守っている必要はない。だから私もここで王妃と自分たちが大好きな読書を楽しもうと思ってな。模様替えだよ。」
そう言って微笑みました。ピットは王様と王妃様も新しいステージへ進むことができたのがわかり嬉しくなりました。

「それは良かったです。私も安心しました。王様がCOSMOSはもう大丈夫だ。そうおしゃってくださるならば、私の仕事も終わったということですね。」

「そうじゃ。ピット。お前もこれからは自分の楽しみを見つけなさい。そして、心の灯を喜びでもっともっと輝かせなさい。」

「王様。私の心の灯を大きく輝かせるためにやりたいことをすでに見つけています。今日は王様にその許可をいただきたきたく参りました。そして、できれば王様からアドバイスもいただきたいと思っております。」

「ほう、もう見つけているのか。それは素晴らしい。私はどんなことも賛成じゃよ。そして、それがうまくいくように応援も全力でしよう。私が知る限りのことは何でも教えようじゃないか。」

ピットは王様の返事の予想がついていました。今まで王様はピットの言うことを否定したことはありませんでした。COSMOSの人々に対してもそうです。その人がしたいこと、思い描く夢は必ずやり遂げる可能性があることを知っていたからです。人々がその思いを捨てないこと、自分を信じること。それを応援するのが王族の仕事でしたから。

「王様。私はピッチを探しに行こうと思います。」

この言葉はさすがの王様もびっくりしました。宇宙についてピットに様々なことを教えたのは王様です。COSMOSのどこかにいる人を探すのとは違うのです。限りなく広い宇宙、探すことなんてとうてい無理なのは誰よりも宇宙に詳しい王様なら一番理解しています。でも、「できないことは口にしない」それを知っている王様だからこそ、この言葉は二重の驚きでした。

「ピット。ピッチを見つける手がかりを見つけたとういことなんだね。」

「はい。その通りです。」

そういうと、ピットはエメラルド銀河団の帰還やセントラルサンの光が弱くなっていること、ゴールデンフォールが現れたこと、9年前にも同じようなことが起こったこと、ピッチはゴールデンフォールの先の楽園の園にむかったのではないだろうかということ。ピットは考えられる全てのことを王様に報告しました。

「ゴールデンボールが現れたのか……。」

ピットの話を静かに聞いていた王様はゆっくり目をつぶり何も言わず黙り込みました。

どれだけ時間がたったでしょうか。その間王様は何度か頷いたり首をふったり……。まるで誰かと会話をしているようでした。そして最後にゆっくり大きく頷くと、ゆっくり目を開け、ピットを見て話しはじめました。

「ピット、シュバルツに聞いたからもう知っているとは思うが、お前のひいおじい様は、ゴールデンフォールの光の先にある楽園の星を目指し旅立ったがCOSMOSに戻ることはなかった。」

「はい歴史書にそう書かれていた。とシュバルツから聞きました。」

ピットと一緒に天空の間に上ってきたシュバルツを、ピットは見ながら言いました。

「私は今、ひいおじい様と会話をしてたのだ。」

「ひいおじい様と?王様はそんなことができるのですか?」

「王族は亡くなった人とエネルギーで会話ができるのじゃよ。」

その言葉を聞いたピットの表情が急に変わりました。

「じゃあ、ピッチは?ピッチとは会話ができないということですよね!!ピッチは生きているということじゃないですか。なんでそれを早く教えてくれなかったんですか!僕は王様や王妃様の気持ちを思うと……。僕だって辛いけど……。生きているだけでもわかれば僕の心はずっと明るくなれたのに。」

ピットは珍しく自分の思いを爆発させました。COSMOSの人々にはとても珍しいことです。全て起こることは自分のために必要なこと。自分が必要ない経験はしない。そう思って何でも受け入れることができるのがCOSMOSの人々だからです。

取り乱すピットを見て王様は、今までに見たことがない心苦しい表情をしました。そして、側に控えていたシュバルツに王妃様を天空の間に来るように伝えるよう命じました。

王妃様が天空の間に来るまでの間、二人は何も言わず黙っていました。ピットの黄金の光は今まで見たことがないくらい激しく燃えています。王様の光はそれとは対照的に灯が小さくなっています。どんな人の光も巻き込む大きな光が嘘のようです。今はすっかりピットの光に王様の光は巻き込まれていました。

王妃様が少し慌てたように天空の間に入ってきました。2人の様子を見て全て何かを理解したようでした。王様の側に立つと、そっと王様の手をとり王様の目を見て静かに頷きました。王妃様の光が王様を包み込むと、王様の本来の光が戻り大きな大きな暖かい愛の光になりました。その光は激しい光を放っていたピットの光を包み込みました。ピットは王様と王妃様の愛の光に包まれやっと本当のピットの光に戻り我を取り戻しました。

「王様、王妃様。申し訳ございませんでした。自分を抑えられないなんて……。今までこんなことはなかったのですが。ピッチのことで不安定になっていたからでしょうか。お許し下さい。」

やっといつもの穏やかなピットの口調です。王様も何もなかったように堂々と話し始めました。

「いいんだよ。ピット。これは仕方がないことなんだ。時が来たというべきかな。ずっとピットに黙っていたことを話す時がきたようだ。これから話すことを驚かずに聞いておくれ。」

そう言うと王様と王妃様は見つめ合い頷き確認をしあいました。そして、ゆっくり王様は話しはじめました.

双子の王子の誕生

「ピット。これからいろいろな話をしなければならない。全ては私たちに必要だから起こること。そう思って聞いてくれるかな。」
ピットはもう自分の気持ちが乱れないとわかっていました。王様の目を見て頷くと、王様はピットに語りはじめました。


それは、ピット、お前が生まれた日のことだ。
その頃のCOSMOSはまだまだ心の灯をいきいきと灯している人は少なかった。自分が本当に喜ぶことは何か?それを模索している人々がほとんどだった。COSMOSの人々は青と赤どちらかの光に包まれていた。ピットがよく知っているように、優しく穏やかだが自信がなく自分を抑えてしまう青い光と、自信に溢れ、明るく楽しいことをしているが自己中心的な赤の光。2極化の時代だった。今のCOSMOSの人々のように自分を大切にしながら楽しむことを見つけ、他の人のことも同じように大切にできる、そして、どんなことが起こっても笑顔で受け入れその経験に感謝することができる虹色の光を放つ人々は本当に少なかったんだ。

その頃の私は、ちょうど今のピットのように愛のエネルギーを人々に分け与えることが仕事だった。人々が喜びに溢れ元気になって行く姿を見るたびに、これは宇宙が自分に授けた使命だと思っていた。毎日が充実していたその頃、私は王妃とめぐり逢い結婚をしてお前を授かった。

お前が生まれたのは、グレートセントラルサンの光がない真夜中だった。
私は部屋の外でシュバルツと、生まれてくる瞬間をいまかいまかと待っていた。私は座って待っているのに疲れ、窓から輝く星でも見ようと窓の側に歩みよった時だった。力強い元気な産声が廊下に響き渡ったんだ。私がシュバルツと喜びを分かち合おうと振り返ろうとしたその時だった。窓の外に今までに見たことがない明るい光がこちらに近づいてきていることに気づいた。


それは一瞬のことだった。あっという間にその光は、窓から王妃がいる部屋にすごい速さで入っていったんだ。その光の強さにしばらく動くことはできなかった。何が起こったのかもわからなかったが、頭の中は、王妃と生まれたばかりのお前を助けなければ。ただそれだけだった。慌てて私とシュバルツは、光の後を追い部屋に駆け込んだんだ。

「だいじょうぶか!!」

私は大きな声で叫んだ。部屋の中を見渡すと強い光の姿はなかった。優し光が部屋全体を照らしているだけだった。私とシュバルツは変わった様子がないか部屋中を注意深く見渡した。あの光がどこかに隠れているかもしれない。今もこの瞬間飛び出してくるかもしれない。私の心の灯は激しく揺れ自分を落ち着かせようとしてもできなかった。

「王様。私たちの赤ちゃんは双子でしたよ。そんなに血相を変えて驚かなくてもよいとは思いますが。」

クスッと笑って王妃は可愛い赤ちゃんを2人抱っこしながら満面の笑みで私を見て言ったんだ。その王妃の優しい声、愛の響きで、私は我に返ることができた。

「ラーブ、ありがとう。よく頑張ったね。こんな可愛い二人の赤ちゃんを産んでくれて。喜びが2倍になったよ……!」

私は王妃と我が子のもとへ近寄り、双子の王子を抱き上げた。王子たちは今まで見たことがない光を持っていた。とても対象的な光。黄金と白銀だった。

「おー。なんて美しい光を持つ王子たちなんだ。きっとCOSMOSの人々を導いてくれるだろう。本当にありがとう。」

そう言って王妃を抱きしめた。2人の王子をシュバルツに渡した私は、王妃を驚かせないように言葉を選んで慎重に聞いた。

「ラーブ。王子たちが生まれた時、この部屋に変わった様子はなかったかな?」

「変わった様子?私は産むことで一生懸命で。二人の産声を聞いてほっとしたところに、王様達が慌てて入ってきて。(笑)まだちゃんと準備が整ってないところに現われたからちょっとびっくりはしましたが。王様とシュバルツがいつもと変わった様子でしたが。」

と、笑いながら答えたんだ。それを聞いて、この部屋では何も起こらなかったことがわかった。もちろんあの光の正体がとても気になってはいたが、私とシュバルツはしばらく様子をみよう。と話しあった。

それから、お前たちはすくすくと育っていった。黄金の光を放つピットと白銀の光を放つピッチは本当に対象的だった。きっと赤の光の究極が黄金の光だとすれば、青い光の究極が白銀ではないだろうか。
双子の王子の存在で私自身の光のバランスがとても良くなった。光のバランスがよくなるとどんどん愛が溢れはじめ、光も拡大していった。愛が溢れるこの満ちた気持ちをCOSMOSの人々とわかちあいたい。そう思うようにもなれた。

ひいおじい様の夢

そんなある日のことだった。ゴールデンフォールが現れたと、当時のエメラルド銀河団から報告をうけたんだ。

その当時ひいおじい様は宇宙の研究に没頭していた。ひいおじい様の光は透明に近づき心の中から光輝くようになっていた。神さまステージへ上がる日もそう遠くはなかったんだ。ひいおじいさまは、私と王妃を呼んでこう言った。

「私の長年の夢はゴールデンフォールの先の楽園の星に行くことじゃった。やっとその夢を叶える日がきたのだ。もう、私は次のステージへ行く日は近い。宇宙のどの場所にいても神さまステージへ行くことができるのならば、私の夢を叶えて楽園の星を見てから神さまステージへ行こうと思う。」

ひいおじい様は王妃のおじい様だ。王妃はひまわり銀河にあるYUURI星の王女様で、COSMOSにお嫁に来るとき、ひいおじい様は他の星の勉強がしたいと一緒にCOSMOSにやって来たんだん。そして、新しい星に嫁いだ王妃の心の支えになってくれた。

私たちはひいおじい様と最後の別れが近いことはわかっていたが、あまりにも突然のことだった。王妃は気持ちを抑えられず心の灯が小さくなっていった。そんな王妃を私は抱き寄せ愛のエネルギーを分け与えたよ。愛で満ちた王妃は

「おじい様。おじい様の夢が叶うならば私は応援いたします。これが最後だと思うと寂しくて仕方がありませんが。ひいおじい様、楽園の星に行ってCOSMOSに戻ってくることは難しいのでしょうか?」

私のエネルギーで愛に満ちた王妃がひいおじい様に尋ねると、

「それは難しいだろう。私の次のステージはもうすぐだ。楽園の星が本当にあるかどうか確かめる前にお迎えがくるかもしれない。でもな、ラーブ安心しなさい。私の行く次のステージはいつでもお前と会話ができる世界じゃ。お前が心で呼びかければな。」

驚いている私と王妃に、ひいおじい様は教えてくれんだ。

「神さまステージは、宇宙の全ての魂が光輝く魂になるよう手伝い見守る役割があるのじゃ。魂を磨き輝くようになれば、神さまステージにいる知り合いと会話ができいろいろなことを教えてもらうことができる。私もすでに神さまステージにいる仲間からいろいろ学んでいたんだ。その仲間が言うには、COSMOSの王族はすでに魂が本来の光で輝いているそうじゃ。だからいつでも私を呼べば会話ができるらしい。私と会話をしたいと思ったら心の中で呼びかけなさい。私が見たゴールデンフォールの先の楽園の星のことをいつでも教えてやろう。」

ひいおじい様はそう言うと豪快に笑いました。


こうして、ひいおじい様はゴールデンフォールの先の楽園の星を目指して出発したんだ。王妃と私はいつまでもひいおじい様の宇宙船が見えなくなるまでこの天空の間から見守り続けた。そして、ひいおじい様の宇宙船がだんだんゴールデンフォールに近づくと、グレートセントラルサンの光も強くなっていった。そして、とうとうひいおじい様の宇宙船の姿は見えなくなったんだ……。

ピットはいろいろなことを整理して聞いていました。
王様はさっきひいおじい様と会話をしていました。
きっとひいおじい様が楽園の星に旅立ってから初めての会話だったのでしょう。つまり、ひいおじい様が神さまステージにレベルアップしたということです。きっと王様は毎日、心の中でひいおじい様に呼びかけていたのではないでしょうか。返事がないのはひいおじい様が楽園の星で元気だという証拠。寂しいけれど安心していたはずです。

しかし、僕がゴールデンフォールの先の楽園の星やひいおじい様のことを尋ねたので、王様は、きっと会話はできないだろうと思いながらもひいおじい様に呼びかけてみた。ところが、王様の期待はもろくも崩れた。ひいおじい様が心の声に答えてくれたから……。

久しぶりにひいおじい様と会話ができた喜びとひいおじい様が新しいステージへ進んだのだという事実と。戸惑う感情を抑えながら、ゴールデンフォールや楽園の星の話を聞かなければいけなかった……。王様の思いを考えるとピットはとても切なくなりました。それなのに、僕は王様を攻めてしまった……。

「王様……。申し訳ございませんでした。何も知らないとは言え軽率でした。。王様の気持ちも考えず……。」

「いいんだよ。ピット。今はもう王妃が来てくれたから大丈夫だ。さっきは、ピッチのこと、ゴールデンフォールのこと、お前がピッチを探しに行くと決めたことなど一度にいろいろなことを聞いて驚いてしまった。さらにひいおじい様が私の心の声に応えてくれたことやひいおじい様が教えてくれ楽園の星の話。私は一度にたくさんの事実を聞き情報を処理できなくなってしまっただけだ。ピットのせいではない。」

そう言うと、王妃さまの手を握り

「もうピットに言うときがきたようだ。君から話してもらえるかな。」

王妃様にそっと尋ねました。王妃様は静かに頷いてピットを見て言いました。

「ピット。これから聞く話も驚かず、最後まで冷静に聞いてくれるかしら?

「はい。大丈夫です。」

ピットがそう答えると、王妃様は話しはじめました。

つづく

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