「渡る世間は鬼ばかり」(2013年7月アメーバブログに投稿)

俺は物心ついた時には一人ぼっちだった。

まあ、天涯孤独ってやつさ。

生きていく為なら何でもした。
時には誰かの、または自分の自尊心を踏みにじりながら。


あるクソ暑い日の事だった。
連日の猛暑に加え、ここ2、3日、何も食べていなかったせいもあり、俺はとうとうくたばりかけていた。

意識は虚ろで、這いつくばった地面から、ぼんやり遠くを眺めていた。

そんな時、一人の男が俺の方へと近づいてきた。
歳はまだ十代、だがその体格には目を見張る物がある。

俺は生まれつき鼻がきく。
この男が腰に食い物をぶら下げている事にすぐ気付いた。

名を尋ねると、男は桃太郎と名乗った。

「桃太郎さん、お腰につけたきびだんご、一つ私に譲っていただけませんか?」

桃太郎は強い眼差しのまま答えた。

「やりましょう、やりましょう。ただし、これから鬼の征伐に、ついてくるならやりましょう。」

!?

ちょっと待て!?
こいつこれから鬼退治に行くっていうのか?
しかもそれについて行くならきびだんごをあげるだと?!
そんなの即断即決、無理に決まっている!
ついて行ったって俺なんて犬死にするだけだぞ?
だけど、、、ここで、きびだんごを貰えなければ、いずれにしても俺は犬死にだ、、、

「わかりました。鬼退治について行きましょう」

俺はもうろうとした意識の中、きびだんごを貰うなり一気に飲み込んだ。

数日ぶりの飯は、この世の物とは思えない程美味かった。

だけどこの男、鬼退治なんて無理な話し、まさか鵜呑みにしていないよな?
本当に、俺なんて犬死にするだけだぞ?
そんなの一目瞭然だろ?
それに何よりこの男、俺が今、死にそうだったのを見て言ってるよな?

、、、だけど、待て、、、

このまま一人で生きていくよりも、この鍛え抜かれた肉体をもつ、桃太郎について行ったほうが、食いっぱぐれには困らないかもしれない。
それに俺みたいな奴が、一人で生きて行けるほど、この世は甘くなかった。
よし、ついて行こう。
やばくなったらすぐにトンズラすればいい。

俺は桃太郎について行く事にした。

桃太郎は俺の事を「犬」と呼んだ。



その後間もなく、やけに俺に似たような奴らが俺と桃太郎の前に現れた。
そいつら二人とも俺と同じで、飢え死に寸前のところで桃太郎と出会い、奴に言われるがままついて行くハメになったのだ。

二人はやたら華奢で、体格まで俺と同じだった。
桃太郎はこいつらの事を、一人は猿、もう一人はキジなんて呼んでいた。

相変わらず容赦ねえ。


さて、肝心の鬼退治はというと、ほとんど桃太郎一人でやってのけた。
俺たち三人はというと、遠くできゃんきゃん、けんけん、きーきー言ってるだけでまるで戦力になってない。
仕方ないだろ、体格が違いすぎる。
大人の戦に、子供がのこのこついてきたようなもんさ。

鬼ヶ島には、おそらく鬼たちが盗んできたであろう、いわゆる、「ぶんどりもの」の金銀財宝がわんさかとあった。
なんと桃太郎は、最初からそれら全てを持ち帰るつもりだったのだ。(!)
俺たち三人は、奴(桃太郎)に言われるがまま、金銀財宝を片っ端から船に乗せ、鬼ヶ島を後にした。

桃太郎の家に着くと、老夫婦が出迎えた。
両親だと桃太郎は言ったが、どうみても祖父母だ。
だけど俺たちは、あえてその事にはふれなかった。

俺は今、他の二人(猿、キジ)とともに、桃太郎一家に居候している。
まあ、俺たち三人は間違っていなかった。
あの時、桃太郎について行って、今も食いっぱぐれには困ってねえから。

ー完ー

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