僕の存在証明/やくしまるえつこ レビュー iTunes store 投稿の追記版

劇場版輪るピングドラム後編のタイアップ曲。凄まじい曲である。ピンドラを愛する方なら、自然に落涙してもなんら不思議じゃない。それを差し引いても余りあるほどひたすらに良い。

テレビシリーズの二曲も実に素晴らしかった。過去や世界に囚われ、どこにも向かえない閉塞感の中、眠りにつく『ノルニル』。自らの咎さえも肯定して、爽やかな自暴自棄のような愛に突き進む『少年よ我に帰れ』。これらは、テレビシリーズという24の駅を作中の登場人物たちが、不確かな足取りでも進み続け、自らの選択で呪いを振り払おうとする歩みを描き出していたと言える。

対して『僕の存在証明』。繰り返すが凄まじい曲である。一度、輪が閉じた物語を見渡し、その残酷さをも受け入れ頷いた上で、新たな未来へと携えていく。傍から見ればちっぽけな理由のために。言葉の一つ一つに、やくしまるえつこの作品への深い理解と敬意が込められているし、これらを彼女ならではの詩性で組み上げた歌詞は実に小気味よくスムーズだ。これらの歌詞が、ジャンルなんて考えるのが馬鹿馬鹿しくなるくらいの圧倒的なスケールとドライブに乗せられ疾走していく。

作中世界だけではなく、作品に触れた人々が重ねてきた10年の年月をも6分に結実させた歌物語。作品に心動かされ、考え、論じ、分かち合った全ての経験を包括し得る。

曲の幕切れの一節は、いわば運命に縛られながらも抗ったテレビシリーズと異なり、劇場版では自らの意志を世界に対峙させ希望を見出すことを示唆しているのではないか。あらかじめ敷かれた運命を乗り越えるのではなく、自らの意志を世界に対峙させること、それこそがテレビシリーズで果たせなかった、運命からの解放を真に成し遂げるのであれば、劇場版の後編では私たちに新たな世界への向き合い方を示してくれるだろう。

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