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#ドリーム怪談 マリモくん

今回、榊原夢さんの『集まれ! 怪談作家』という企画に投稿させていただいたお話になります。投稿時にタイトルを付けていなかったので、付けてみました。無断転載等は禁止します。

 もう昔の話で、また、併合されてしまったので村名はないのだが、小学校の頃、アベカワさん達は、クラスでもどちらかといえば大人しい男子の友達グループだった。
「遊び場も、元気なリーダー格の子達とは別の所で遊んでましたね、何となく。
 その子らのグループと、いじめとかする
××って子らのグループはまた別で。
 ミソノくんという、その元気なグループの子に聞いた事があるんですけど、
××達と一緒にいると、全部つまらなくされるから楽しくも何ともない。だから遊ばない感じかな。
 僕らのお母さんも、
『あまりあいつらの家には行くな』
って言ってるし。
 普通、そんな事言わないじゃん?
何か怖いよな』
って。
 だから今はもう分かりませんが、問題のある家じゃなかったのかなって」

 そういう、子供からしても得体の知れない怖さがあり、遊び場は別々なのだった。

 ある日、アベカワさん達は友達の一人であるマリモくんの家で、図工の宿題で出された工作をみんなで片付ける事となった。
 みんなが工作が得意な訳ではない。そこで、材料をみんなで持ち寄り、得意な子も集まれば、一人で悩むよりも全然楽しいし、宿題も片付くし、一石二鳥、という訳だ。
「これ、いいアイデアだったかもね」
「俺、何作ればいいかいつも浮かばないからさ、すごい助かるわ〜」
などと話しながらの、楽しい数時間となった。

 夕方になり、帰宅。
 同じ方向のハセガワくんと話している時、アベカワさんはマリモくんから借りたカッターを、うっかり自分の道具袋に入れて来てしまった事に気付いた。
「あちゃ〜
……
 夕食の時間が迫っていて、今、戻って返すのはどうだろう、と悩んでいると、ハセガワくんが言う。
「明日学校で返せばいいんじゃない?」
「そうだね」
「うん。でも変だな」
「ん、何が?」
 何か疑われてたらイヤだな、とアベカワさんが思って聞いた。すると、
「ああ、違くて。
 あのさ、マリモ、確かカッターは大切にしてたんだ。弟の形見なんだって。  だからさ、気付きそうじゃん?
何か意外」
と、ポツリと言う。
 初耳なので、聞いてみると、
××達がいるだろ?」
「うん」
「あいつら、夏休みの後、しばらく学校来なかっただろ」
 確かにそんな事があった。そういえばあれは何だったのだろう。
「うちのお母さんから聞いたんだけど、あいつら、マリモの弟をいじめまくって、自◯させちゃったんだって」
「えっ
……
 マリモくんや親達からは、
『親戚の家に行った』
と聞かされていた。
「それでさ
……
 無邪気に過ごしていたアベカワさんには、マリモくんの弟がそんな事になっていたというのがショックで、そこからはぼんやりとしか思い出せない。
 ただ、学校と警察、いじめグループの親達、マリモくんご両親の間での何かがまとまり、連中は今は普通に学校に来ている。

 その後のハセガワくんの話によると、こうだ。
・『いじめグループの家には絶対に行ってはダメだし、連れて行かれそうになったら、よそのおうちのチャイムを鳴らして、助けてもらいなさい』というのが、現状の
PTAの考え。
・それからしばらくして、マリモくんのお母さんのお葬式があったのは、弟さんの事で苦しんで、後を追ってしまったから、との事。

PTAの話はしてもいいけど、マリモの弟とか、お母さんの話は大変な事じゃん。だからあちこちで話すのはダメな?」
「そうだよね
……

 塾の時間だというハセガワくんとはそこで別れた。
 でも何でカッターを、マリモくんは大事にしてるんだろう?

 カッターを返してから数日後。
 子供なりに考えて、マリモくんと二人だけになれたタイミングで聞いてみた。
「あのさ、カッター返すの遅れてごめん」
「ああ、それで話す事があってさ。今日、遊べる?」
「うん」
「じゃあ、その時に話す。
××とかに聞かれるとダメなんだ」
 話し始めた時にはいつものポワポワした表情だったマリモくんは、それが終わる頃には、うなだれて、小さな拳を握りしめていた。

 いつかの工作の日の様に、マリモくんの家には、彼の祖父母がいた。挨拶をし、出してもらった麦茶を飲んでいると、マリモくんが口を開いた。
「あのさ、うちの弟とお母さん、◯んだじゃん」
「あ、うん
……
「お葬式もしてさ」
「うん」
「でもさ、寝る時に、部屋にいるんだよ」

 僕の弟と。

「えっ」
「眠れてはいるんだ。でも、夜、布団で寝転んだ時に、頭の方に立ってんの」
 うかつに発言するのが怖くて、アベカワさんは黙って聞いた。
「見ちゃったんだ。あいつとお母さんだった。
 怖くて目をつぶってたら、苦しくなって来て、目を開いたら、覗き込んでたよ」

 うなされた事について、祖父母は心配したが、
『大変な事があったから、ショックを受けているのだろう』
と解釈していた。

 弟とお母さんは初め、マリモくんに直接、何か危害を加えて来る事はなかった。しかし、夢の中で、弟のカッターを見せられた翌朝、彼の机の上に、カッターがあった。
(どこそこに、これを持って出かけなさい)
と夢の中で言われ、そこに向かわないと、悪夢が続いた。
 マリモくんが向かえと言われている場所は、村で有名な心霊スポットばかりで、見つかれば大人達からこっぴどく叱られるはずだ。しかし、子供であるマリモくんがかなり命がけで向かった時には、人っ子一人おらず、それがまた、途方もなく不気味だった。
べそをかきながら帰宅する際にも、誰とも会わなかった。

「あいつとお母さんは、このカッターを、ゲームでいう、呪いのアイテムみたいにしようとしてるんだ。で、××達の持ち物にこっそり入れておけって」
「そうすれば、あいつらが呪われるって事かな?」
「そうなんじゃないかな。
 僕はもう、あいつらの事は怖くも何ともないよ。だって、人間だから、◯されたら◯ぬ訳でしょう?
 弟とお母さんは、お坊さんがお経を上げてもいなくならないもん。今はもう、早く済ませたいよ」
「それをすれば、マリモくんは助かるの?」
「分からない。怖くはないけど、持ち物に入れる方が大変だろうからね」

 アベカワさんの、マリモくんからの話を聞いて、彼のグループは集まった。と言っても、調査などすれば目立つから、彼らが放課後、いつ頃学校を出るかをチェックするに留めた。その後に、学校の××の道具袋にカッターを入れればいい。
 それはアベカワさんが担当した。マリモくんを早く、今の厳しい環境から解放してあげたかったからだ。

 勉強道具などを持って帰らない連中なのが幸いし、計画は成功した。

 ××を含めたいじめグループはそれから間も無く、その親達も同様に、事故で命を落とすなどの不幸に見舞われ、結果的に、全員の行方が分からなくなった。

 同時に、マリモくんも唐突にどこかへ引っ越して行った。
 彼の家の玄関には
『入居者募集中』
と書かれた張り紙だけがあった。

「でも、何となくマリモくんもどうなったか察しましたね。
 彼の言ってたであろう黒い人影は今は三人になって、私の所にいますし。
『マリモくんって、彼の弟やお母さんにとっては何だったのかな』
って思っちゃいますよ。
 彼らに何か命じられた事はないです。お祓いは何度かしてもらったんですが、今の所はダメみたいで
……

 ここに至るまでにも、アベカワさんは時々、何かに耳を貸す様に虚空を見つめていたので、要件が済むと、私はお礼を言い、丁重にその場を後にした。

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