2020年夏号・『レストラン エパタ』~「発達障がい」への理解を~ナザレン希望誌ウェブ(テスト)版

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*「エパタ」(εφφαθα)とは、マルコによる福音書7:34(口語訳)に出てくる「開け」という意味です。

「発達障がい」への理解を (2)
呉教会 信徒  伊賀上節子

 希望誌2020年春号(1)で「障がい」について書きましたように、「障がい」という概念も変わってきています。
 見える障がい「視覚障がい、聴覚障がい、脳性麻痺等」から見えない障がい「発達障がい」です。 「発達障がい」についてまだ分からない部分も多く、定型発達(大多数の人の発達過程)との境界線ははっきり分けられるものではありません。
 環境を整え、一人ひとりに相応しい対応をすることで一般社会の中で生活がやりやすくなり、新たな変化が生まれることもあり、困難もやわらげられて社会生活を送ることの可能性も分かってきました。

「発達障がい」とは 
 「発達障害支援法」2005年施行。定義。
 「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。
*支援法には、「特別に配慮の必要とされる『特性』を持っている人たちに対して、それぞれのニーズに合わせた支援を行わなければならない」と定められている。

・「発達障がい」の3つのタイプ
 ①自閉症スペクトラム (ASD)・・<対人関係が苦手、こだわりが強い> 
 ②学習障がい (AD)・・<読み、書き、計算> 
 ③ 注意欠陥・多動性障がい (ADHD) 

 発達障がいの子どもたちには生まれつき脳機能に違いがあることが明らかになっています。
 かつて、自閉症は母子関係や養育の問題と言われた時代がありました。最近では、神経伝達物質にかかわる脳内の神経ネットワークに明快な違いがあること、機能の活性化の仕方に違いがあることも、脳画像を用いた実験的研究によって明らかになってきました。

 この様に脳機能の違いが、目で見られるようになったことで、それは誤りであったことが証明されました。
 脳機能が働く時、情報処理のしかた、覚え方が違うのだと考えられます。たとえ遠回りでも、時間がかかっても、個人差はありますがそれぞれの脳機能において、定型発達の人とは別の道を見つけ、あるいは道を造り、達成していく、この力を持っているのではないかと考えられます。
 「発達障がい」と「定型発達」の道はどこかで繋がっているとも考えられています。

生まれつき脳の機能に「障がい」「障がいはできないこと」があるとしても、ということではありません。「発達障がい」についての研究はかなりのスピードで進んでいます。

「自閉症」とは
 自閉症やそのグループの事を「自閉症スペクトラム」と呼ぶことが増えてきました。

・「スペクトラム」・・「集合体」のこと。一部の人に見られる「発達スタイル」。
 (発達の仕方に特徴があると理解します。それが必ずしも障がいになるとは限りません。障がいに該当しない人も含めれば、10人に 1人は当てはめられると考えられています)

・脳機能の何らかの原因により、コミュニケーション能力、知覚、認知にかたよりをもつ「発達障がい」です。

・「自閉症スペクトラム」・・「対人関係が苦手」「こだわりが強い」
 (その他いくつかの特徴が自閉症のグループに共通して見られます)

・自閉症のグループ
「自閉症」・・知的、言語能力発達の遅れがある。
「高機能自閉症」・・知的、言語、の遅れがない。
「アスペルガー症候群」・・言語能力に関する遅れはなく、知的能力 (IQ)が高い。
「広汎性発達障害」・・「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」等合わせ持つ。

*「自閉症」が家族内で複数存在することで遺伝すると思われがちですが、「自閉症」は複数の要因が関与する「多因子疾患」(複数の遺伝子と、環境要因の相互作用により発症するもの-なりやすさ-)であり「遺伝病」ではないということです。

発達障がいの3つのタイプとグレーゾーン
発達障がいの3つのタイプ

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*「発達障がい」は単独で現れるのではなく 重なり合っているケースは多い。
*広い意味の「自閉症スペクトラム」・・自閉症があること。障がいに該当する人もいるが、支障のない人もいるので、名称から「症」をとったほうが適格な表現になる。「自閉スペクトラム」
*狭い意味の「自閉症スペクトラム」・・自閉症の特徴があり、程度が強く、生活上の支障となっている状態。「自閉症スペクトラム障がい」

*世界的診断分類の一つ (DSM)でも、自閉症を集合体として考えることが、正式に採用された。DSMの記載は「Autism Spectrum Disorder(ASD)」とある。
日本では日本精神神経学会が「自閉症スペクトラム症 /自閉症スペクトラム障害」という訳を発表している。一般的には「自閉症スペクトラム」とも呼ばれる。

「発達障がい」への理解と対応
 まず私たちは、「発達障がい」を知り、理解するところから始めなければならないと思います。
 子どもたちは、一人ひとりちがう特性(その子特有の性質。心理的、行動的なもので、主に子どもの考え方や感じ方、行動の仕方などに現れます)を持っています。
 その特性に沿った発達スタイルを理解し、対応して行くことが求められています。

興味、関心のかたより、こだわり・・新しいものや 日課の変更が苦手。
いつも同じ本を読む。いつも同じお弁当を食べる傾向。新しいものは食べたがらない。
<対応>
 ・同じ人参でも形を少しかえてから 説明して試す。
 ・同じおやつから 似たようなものに少ずつ試す。  
 ・変化に対する不安は「こだわり」として現れることを理解する。 
    
コミュニケーションの難しさ・・視覚優位(話し言葉が苦手)。 
複数の情報の処理が困難。
<対応>
 ・言葉だけで伝えるのではなく 視覚によって伝える。
 ・スケジュールを絵にしたカードは有効である。

感覚の過敏性・・明るさや音に対する過敏。
状況によって人に触れられることに過敏に反応を示す。
興奮、パニックを起こす時がある。
<対応>
(視覚)蛍光灯を白熱灯に。 カメラのフラッシュはさける。 
(音)イヤーマフ、ヘッドホン、耳栓の使用。音の出るものにカバーをする。
(触覚)服のタグ、触れるだけで痛いことがあるので取り外す。
流れる水に触れることを喜ぶ。水道の出しっぱなしに注意が必要。
(感覚)行動に移る場合、事前にどんなことをするか、どんなことがあるかを、説明しておくことで安心を与える。
状況によるが、急に発達障がいの人に触れることで(ハグ等 )不快感を与えることがある。

*困った状況になった場合。大人がはたらきかけてクールダウンさせる。
 問題行動を起こす時、背景には理由 (不安など )があることを理解する。   
    

他には
 ・記憶が良い・・写真的な記憶
 ・多動、落ち着きがない
 ・動きのぎこちなさ・・不器用(努力しても出来ない場合がある)

 発達障がいは外見上わかりにくく「どうしてみんなと同じようにできないの」と言われることが多くありますが、社会性に障がいがある子どもに「みんなと同じようにやりなさい」と言うのは、目の不自由な人に「見なさい」と言うようなものです。

 私自身、今気になっていることは「二次障がい」と言われている問題です。
 「二次障がい」は、発達障がいの特性に気づかれず、怒られて傷つく体験や失敗体験を積み重ねて思春期から成人期に至った場合、多くは情緒のこじれから「うつ」「不登校」「ひきこもり」などの難しい問題に至っています。
 二次障がいを併発すると言うことは、失敗や傷つきを積み重ねて行く中での体験がトラウマとなっていくことなのです。
 子どもの頃から傷つく体験を、出来るだけ少なくすることが必要なのです。

 「障がい」は「出来ないことではない」と知りました。
 時間はかかりますが、適切な行動を少しでも身につけるまでの 接し方や教え方に工夫が必要です。
 それは決して容易な事ではないのですが、子ども達の社会に生きる力、未来に繋がって行くことになる支援です。私自身、児童発達支援センターに勤めていた当初は「発達障がい」のことを聞かれても、きちんと説明することが出来ていませんでした。
 子どもたちの未来に希望をもって進みたいと思うなか、希望誌への原稿依頼がありました。 昨年夏頃から取り掛かりましたがまとめ切れず、言葉に置き換えることが出来ず苦悩している時、助けとなる数冊の本に出合いました。
 
 監修・杉山登志郎、辻井正次 「発達障害のある子どもができることを伸ばす!」
 幼児編、学童偏、思春期偏 3冊 日東書院

 本書に協力したNPO法人「アスペ・エルデの会」では素晴らしい働きがなされています。発達障がいを持つ子どもたちの支援の場、自助会、専門家養成発達支援についての啓発、発進点、研究機関を統合的に目指していく「生涯発達援助システム」など、 特に「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」などの知的障がいのない、発達障がいの自助支援グループや支援においては、世界的にも早い段階から取り組んでいます。
 この本は「発達障害」のある子どもたちへの支援をまとめた、現場から発信された協力の本です。
 
他の参考図書
 監修・本田秀夫「自閉症スペクトラムが良く分かる本」 講談社 
 監修・佐々木正美「アスペルガー症候群・高機能自閉症のすべてがわかる本」講談社

 希望誌エパタで「発達障がい」の事を書きたいと思いました。 参考図書を読み進む中で、「発達障がい」の正しい意味が少しわかってきました。そこに希望をみつけました。現場での経験と、その中で感じた多くの問題と必要を、周り人たちと学び共有したいと思いました。 
 本稿が少しでも発達障がいへの理解へと繋がることをいのりつつ。

        感謝と祈り

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