アトランティス幻視 崩壊前夜3 神と呼ばれるもの

じりじりと太陽が昇っていく

街の中心を繋ぐ水路を抜け
神殿へ向かう小道を曲がると
ふいに天狼星の視界が歪み
意識がふわりと掬われた

浮き上がった意識体の
視界がすべて青い光に染まる

天狼星の意識は刹那の間に
中央樹の地下深く
埋め込まれたコアクリスタルの内側
神の在る場へと移されていた

コアクリスタルとは
この街の創造神として
すべての生物にエネルギーを送る
朱斗(トト)神の棲みかであると同時に
悠久の青き輝きを放つすべての源泉である

朱斗ははるか昔
この星に文明をもたらした
遠き星からの移民であり
現在この地に住まう生物のなかで
最も長命を保ち
一度たりとも器の遷移を行わず
知恵を守り続けた
世界の番人である

重力の存在しない青の空間で
たゆたう天狼星の意識をめざし
ゆらめく金の光が一点に収束を始める

天狼よ
今このとき
定められたときを迎え
汝は
いかに定る

きいん、とした耳なりとともに
脳に直接響く
朝の光のような声

定められたとき、と仰有られますか

天狼星が返すと
再び脳裏に声が降る

我が青きシリウスの民よ
吾は一度星へ還る

あまりに長きときが過ぎた
私のクリスタルも
もはや空虚に等しい
在るべき場所に戻さねば
すべてが無に帰すは理

天狼星は朱斗の声に打ちのめされ
発するべき言葉を失う

朱斗様が星に還られる
それ以上の衝撃はあろうはずもなく

もはやこの街は終わる
それは変えられない事実であると
告げられたに等しかった

そして、汝は如何成す
再び朱斗の音が響く

民はどうなりましょうか
問う声に答えはなく

天狼星は小さく答えた

わたくしは
ここに残ります
民とともに
この街とともに

暫しの沈黙の後

汝の思うままに

この言葉と共に
天狼星の意識は体に戻された

神殿へ
機械的に歩を進めた天狼星であったが

この街は終わる
ただその事実に打ちのめされ
歩みはいつしか止まり
その場に立ち尽くした

登りゆく太陽の日差しは
少しずつ天頂に近くなり
徐々に短くなる影とその熱が
じわじわと天狼星の体を焼く

何を間違えた
どこを違えてしまったのか

わかろうはずもなく

残された時はわずか
この街は
夏至の正午に無に帰す

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