訂正記事、ヘルムホルツエリスノーテーション

こんにちは、こんばんわ、ユートピア
変拍子兄さんのお時間です。

微分音関連の記事で、大きく誤解している記事を見つけましたので
今回はそこにメスを入れていこうかと。

https://note.com/rue_tengi/n/n7c5cafada3fe

倍音に関して扱いたいため、ヘルムホルツエリスノーテーションについて解説している記事なのですが、前提から誤解している節が散見されます。

僕も微分音の楽しさを広げたい身なので、揚げ足取りのようなことはしません。ただ、根底から認識が誤っているのであれば見過ごすことはできませんね。
早速訂正に移っていきましょう。



◆初心者向けのコンセプト らしい。

まず先に、このブログの推定読者は、初心者で
あまり難しいことを考えずに音楽を楽しめるようにというコンセプトをもとに一連のマガジンができています
そのためできるだけ数学チックな話は避けたいという思いがあるそう。

それなら、もう少し浅く触れるべきだったのでは…と思うところ
ヘルムホルツエリスノーテーションは微分音の中でも、上級レベルに属する部類ですので、
倍音の話から、ヘルムホルツエリスノーテーションに進むのは
結構な大ジャンプかと思いますね。
足し算・掛け算→ハイパー演算子 ぐらいの飛躍があります。
(このたとえ、大分マニアックな気が…)

僕がやるなら、少なくともセントには触れずに
倍音に合わせることができるんですよねとかにとどめますかね。
それか、しれっと使う程度・ヘルムホルツエリスノーテーションではこう書くんだ程度にするべきですかね

実際に初心者向けに解説したものはこちら
https://note.com/nayuta_823543/n/n2799686376d3

この記事ではセントにも倍音にも詳しく踏み込まず
3000文字程度に収めています


◆音律の前提の誤解

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人物紹介に触れて、前置きが終わったところで
完全5度関係にある音は「♮」を付けて変化させるという誤認をしています。

これは公式の文書でも♮付きで解説してたりするのですが
ナチュラルは本来の意味通り、臨時記号の影響をリセットするものですので
「♮」がつくことによって音程が変化するということではありません
そのため公式の文書では親切記号のようなニュアンスで使用しています
それに対してこの記事の筆者は、変化記号として扱っているようなニュアンスが読み取れます
(ここではギリ親切記号のニュアンスとも取れますが)

非常に厄介なところなのですが、
ヘルムホルツエリスノーテーションで書くということは
音律のデフォルトがピタゴラス音律になるということ
これはセントで表してみるとわかりやすいです

何も書いてない状態の音程が…

↓こう(12平均律)ではなく

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↓こう(ピタゴラス音律)である

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というのが、ヘルムホルツエリスノーテーションにおける大前提なのです。
ナチュラルを付けるのは、何も記号がついてませんよというのを
あえて示しているだけなのです。

本人曰く、ピタゴラス音律基準というのは解りづらいそうで12平均律基準で認識したいとのこと。
確かに、そのほうが今までの鍵盤をもとに捉えられるのですが
ヘルムホルツエリスノーテーションというのは、その12平均律基準捉え方に異を唱えるものですので
それを12平均律基準で扱うというのは、カオスの根源でしかありません。

この「楽譜は基本12平均律」という認識が以後の歪みの根源となって
波及していきます。
ヘルムホルツエリスノーテーションを12平均律基準で語るという
相性の悪いものを無理やり張り合わせるという大事故が起こってきます

後述の平均音程用記号をうまく活用すれば、可能なのですが
結構ややこしいことになりそうです。

◆平均音程用記号の誤解

次に、ヘルムホルツエリスノーテーションにある、頭に線がつくタイプの記号(赤枠内、2段目)こちらに関して

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これは僕も理解してなかったため、触れていなかった
平均音程用 ヘルムホルツエリスノーテーション ですね。

この図の誤りは、そもそも線付きの記号は倍音系を意味しないので
この赤い枠の中に入るはずがないんですね

本来の意味は平均律における半音とあるので
基本は100セント刻み
ただし平均律の指定はないので、必ずしも12平均律とはいいきれません


以降の文章ではこのように書かれていますが
大変なことになってます。

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Tempered の意味を誤解してしまったようですね

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おそらくここを翻訳したと思われますが見事な誤訳です。
Temper=調律 pitch=周波数 と捉えてしまったのでしょうか…?

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DeepLで翻訳するとこのようになりますが
訳しきれてない部分を意訳すると
○平均律上の半音を表記します」 ということ
なんだか英語の授業になっちゃいましたね。

微分音の文脈ではTemperが最も訳をミスりやすい部分ですので
英語の文献を読む際、Temperに注意してください
Equal Temperament = 平均律
Temper out = 同一視
という所が押さえれればOKでしょう

◆度数指定に関する誤解

お次は13倍音記号を例に解説している箇所
ここは、やや誤解って感じなので、細かい話なのですが、こちら

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そんなことはない 

ヘルムホルツエリスノーテーションの記号はそれぞれに幅が決まっているので、音程を○度にしないといけないというルールはありません
そこから考えた方が分かりやすいぐらいの言い方にとどめておけば
問題はなかったのですが、Mustにしてしまうといい過ぎになってしまいます

この文章も13倍音だけの話であれば、問題はなかったのですが
13倍音関係と範囲を広げてしまったうえに、Must的な言い方にしてしまったのがアウト

倍音をもとに幅を決めてるので、
倍音列を表すとき、もっともシンプルにかけるというだけで、
実際どの音程につけても問題はありません。計算が面倒いくらいのものです。

こんな時に便利なのがこのツールですね。



◆記号の示す幅に関する誤解

正直この記事でもっとも酷いところがここです。
混乱しないようにやさしく言ってるのですが、先ほどの12平均律をベースに捉えるという前提のせいで、はちゃめちゃな回答になっています。

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まあまず質問が若干おかしいのは置いておいて
『ヘルムホルツエリスノーテーションには「何セント上げる」「何セント下げる」という記号は原則として無いんだ 』

ここが、大暴投ポイントですね。

ヘルムホルツエリスノーテーションでは何セント上げ下げするか厳密に決まっています(例えば↓のように)

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12平均律基準でいくと、
幅が変わってくることから、このように発言しているようですが
まさに天動説のような発想ですね。
12平均律基準だと、純正音程を考えづらいからと
ピタゴラス音律基準で作られたヘルムホルツエリスノーテーション。
これを、無理やり12平均律基準で語るという2度手間をしていますね


後半の文章は、意図がくみ取れないのですが…

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これはおそらく、倍音を表記するため
とりあえず記号をつけるから、いい感じに合わせてくれ というのが
ヘルムホルツエリスノーテーション と言いたいのでしょう。

間違ってはいないのですが
これは、自然倍音列(2,3,4,5,6,7..倍音)における話に限られます。

倍音とピタゴラス音律を比較して
周波数比だけを頼りにあらゆる純正音程をあらわすというのが
ヘルムホルツエリスノーテーションの本質です
繰り返しにはなりますが、
12平均律前提というのはヘルムホルツエリスノーテーションのコンセプトに真っ向から対立した前提なので
わかりやすさ重視、12平均律基準だというのなら、セントで話を済ませて
ヘルムホルツエリスノーテーションには触れない方が
結局のところ分かりやすいです。

とんだ二兎追いですね。
ヘルムホルツエリスノーテーションを使うのなら
完全に純正音程基準に脳みそを切り替える必要があります


その誤解をもったまま話が進んでいき、
最終的に、ヘルムホルツエリスノーテーションの定義すら否定し始めます

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↑この段落はまさに
12平均律基準でヘルムホルツエリスノーテーションを語ってしまったせいで完全に振り回されてる様子が描かれています

純正長3度:386¢→400-14¢ 純正長7度:1088¢→1100‐12¢ 
なのに同じ記号
という見方は平均律基準という前提のデメリットそのもので

ピタゴラス長3度:407.8¢  ピタゴラス長7度:1109.7¢
からみると、両方ともシントニックコンマ(21.5¢)分低い
長3度:386.3¢ 長7度:1088.2¢ となります。

つまり、もともと記号が意味する音程幅は決まっていて
場所によってフレキシブルにあわせているわけではないのです

「5倍音関係という意味でしかない」という文言も
記号の持つ音程幅を否定してしまっていて見るに堪えないですね。
一番大事な定義を読んでないことが露呈しています

ヘルムホルツエリスノーテーションの
倍音の面を捉えれたのは核心をついてて非常にいいことなのですが
キッチリ定義されているセントの面を捨ててしまっては、台無しです


◆ピタゴラスコンマの誤解

ピタゴラス音律に関するQ&Aの部分も、結構ひどいもので
かなり筋違いが発生しています。

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「ピタゴラス音律として読めることにはなる」という表現が非常に
怪しさを出してるポイントで
どうにか解釈してピタゴラス音律になるみたいな言い方です。
#♭の異名同音を排し、ピタゴラス音列を指すというのが
ヘルムホルツエリスノーテーションのそもそものスタート地点であることが
すっぽり抜けてしまった文章になっています


そして、ピタゴラスコンマを置くという類の話も支離滅裂です

ピタゴラスコンマを置くというところが意味するのは
3倍音を12回繰り返すと生じるズレを補正して、オクターブに戻すというところですが
これは実際に異名同音を設定するということで達成されます
12平均律ではE#=F、B#=Cという風に設定します

その異名同音の設定をあえてしていない、ヘルムホルツエリスノーテーションでは、そもそもピタゴラスコンマは置かれていません
ピタゴラスコンマの位置がわからないというか、そもそもないのです

完全5度あがるごとに音名はこのようになりますが
…Eb-Bb-F-C-G-D-E-B-F#-C#-G#-D#-A#-E#-B#-Fx-Cx-Gx-Dx-Ax-Ex-Bx…
これらはすべて別の音程となり、異名同音はありません。
オクターブをピタゴラスコンマ分縮めるという操作をする前の状態ですね


B#がCよりピタゴラスコンマ分高いということは言えますが
それはどの音を基音とするかとは関係がないこと
横付きの線がでてこなければ
F-E# C-B# G-Fx など
12平均律では同一視される音程同士には常にピタゴラスコンマの差があります

つまるところ、前提が12平均律というのが根源となっていることが
わかります

◆想定範囲の誤解


他にもあります

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60倍音くらいまでしか想定していないというのが結構な誤読で
素数倍音は確かに61倍音までしか想定されていません
あくまでも、素数倍音の話なので、
61までの素数の組み合わせによってあらゆる数を網羅できるというのがこの記号の強み
これがなんと、なかったことにされてます。

可聴域の話にすり替えられてますが
3倍音を何回繰り返しても2倍音で可聴域内どころかオクターブ内に戻して扱えるので、可聴域の話を持ってくる必要あった?と突っ込みたくなります。


◆総評


結果、この記事
正しいことをほとんど述べられていないという穴だらけの記事になります。
段落ごとに原典の誤読か、ミスリードのある文章が含まれてるという地雷原
「わかってない人が知ったかぶりで書いた的外れな記事」という無残な結果に…。

断定的な言い方や、~でしかないといった語調の強い文言が多いため
そうなのか…と押し負けてしまいそうになり、
自信満々という所が、なかなかタチの悪い記事です

批判の記事を書いていてなんですが
この記事は筆者の信憑性を落とすものになりかねないですね。
この記事で51本目だそうですが、過去書いた記事も全部怪しく思えてきますので、早めに隠した方がいいかと。

本人の名誉のためにも読者のためにも
一旦非公開にして、腑に落ちたタイミングでリライトするべきというのが
僕の率直な感想です。


◆〆

この記事の著者は、
できるだけ数学チックな話には触れず、ヘルムホルツエリスノーテーションを説明したかったそうですが、
それはかなり難易度の高い話な上、著者自身も理解が不確かなまま進めてしまい、ずさんな記事になったようです。

セントと純正音程は知っているが、その状態でヘルムホルツエリスノーテーションを初心者向けにわかりやすく短くまとめるというのは、
かなりの無茶だったと思いますね。



微分音を日本語で解説した文献は少なく、
ましてやヘルムホルツエリスノーテーションなんてマニアックなトピックを扱う記事はほとんどないです。
そんな中、誤解を流布させるのは止めたいので、今回は訂正記事という形をとりました。


じゃあ、変拍子兄さんが書いたらどうなるの?というものも用意しましたので、ヘルムホルツエリスノーテーションについてはこの記事を読んで軽く理解してください。



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